滝とトレッキングで自然を満喫 深まる秋の檜原村へ
東京都内で島しょ部を除き唯一の村である檜原村は、面積の約9割を森に囲まれ、幾多の滝が集まる癒しの地。都心から電車とバスで2時間ほどで、東京とは思えないほどの大自然が満喫できます。今回檜原村を訪れたのは、山登りの楽しさを登山者視点で伝えるVlogが人気の登山系動画クリエイター・JINさん。
檜原村のトレッキングスポットである浅間尾根には複数の登山口があり、時間や体力に合わせてルートを選べます。今回は払沢の滝を経由して浅間嶺へと向かう初心者向けの「浅間尾根コース」を、JINさんが実際に体験しながらご案内。檜原村を訪れるのははじめてとのことですが、果たしてどのような風景や感動との出会いが待っているのでしょうか?
マイナスイオンたっぷり「払沢の滝入り口バス停〜払沢の滝(08:20)」
日本の滝100選に選ばれる名所が、アクセス良好な場所に。
トレッキングルートに入る前に、まずは払沢の滝入り口バス停から徒歩20分のところにある払沢の滝へ。払沢の滝は都内で唯一、「日本の滝100選」にも選ばれるほどの名瀑ですが、アクセスが良く、体力に自信がない人でも気軽に行けるおすすめの観光スポット。「ちょうど紅葉がきれいな時に来られましたね」とJINさん。本日のルートは天気が良いと山頂から富士山も見えるそう。好天にも恵まれて期待が高まります。「楽しんでいきたいと思います」と、本日の意気込みを聞かせてくれました。
遊歩道を歩くこと約20分、季節は紅葉真っ盛り。
季節はちょうど紅葉真っ盛り。滝へとつづく遊歩道の脇では、真っ赤に染まったモミジとまだ残る緑のコントラストが美しく、足元に目を向けると茶色の中にも所々黄色が混ざった落ち葉がとてもカラフル。見事な紅葉に包まれ、すでに季節の楽しさがいっぱいです。レトロな建物を横目にゆるやかな坂道を沢の奥へ。その建物は昔の郵便局を移築してできたショップだそう。「沢沿いのルートで道もよく整備されていて歩きやすいですね」とJINさん。歩くこと約20分、払沢の滝に到着!
東京の滝ってどんな滝?見上げるその美しさは壮観。
奥へと進み滝壺に到着すると、さっそくその風景に見惚れるJINさん。深まる紅葉のなか、約60mの高さからとめどなく流れ落ちるさまは、まさに壮観!子どもの頃から滝好きで、山登りも滝を見るためにはじめたというJINさんも「窪んでいてすっごい上から落ちてくる。すっごいきれいです!」と驚きを隠せません。ちなみに払沢の滝は全体が4段の滝になっていて、滝壺から見えているのは最下段、かろうじて2段目が見えるかどうか。下から見えない高さまで続いている、そんな壮大な滝が東京にあるというから驚きです。
進むほど秋が深まっていく「払沢の滝駐車場〜時坂峠〜峠の茶店(09:50)」
地面を踏みしめる感触を確かめながら。山中をぐんぐん上へ。
遊歩道を引き返し、駐車場を越えて滝とは逆方向へ。浅間嶺を目指すトレッキングのはじまりです。さっそく山道に入ると、土を踏みしめている感覚が伝わってきます。落ち葉の絨毯、岩でできた階段、ざらざらとした砂利道...。ふだんあまり意識しない足元に目を向けて、たくさんの自然が発見できるのが楽しい。途中ピンクの花が咲いていたり、黄色い果物がなっているポイントも。所々立ち止まって写真を撮りながら進むJINさん。野鳥の声も聴こえてきて、山に入っている実感が深まります。曲がりくねった坂を上り振り返ると、趣ある佇まいの集落が見下ろせました。
時坂峠からふたたび山道へ。歩くほど、木々が色づいていく。
途中、山道が車道と交差するポイントが「時坂峠」。ここを過ぎると展望台まで3km以上お手洗いはないのでご注意を。ひと休みしてふたたび山道の中に入ると、景色はうって変わって涼しげな檜林の中。林のあいだを縫うように進み、ひらけた場所に出ました。「ここらへんすごい紅葉がきれいですね」とJINさん。標高が上がるにつれて木々も色づきを増しているようで、遊歩道を左右から覆う紅葉のアーチを写真におさめます。
山登りといっても道中は、上り坂ばかりではありません。アップダウンを繰り返したり、平坦なひらけた場所に出たりと、さまざまな地形と出会えることも楽しみのひとつ。浅間尾根コースは、舗装された道路と山道を行き来するので、初心者の方にも歩きやすいコースになっています。
神社にお茶屋、お代官休息処。ここはいにしえのメインストリート。
「いま2.8kmなので半分ぐらい進んだところですね。急な坂もないので歩きやすい」とJINさん。神社と峠の茶屋店「高嶺荘」が見えたら、山頂までの中間地点。道は森の中へと続き、沿道の木陰には舞い落ちた真っ赤なモミジが積もる巨木のベンチも。森林浴して自然を満喫します。さらに進むと「お代官休息処跡」と書かれた建物が。実はこの浅間尾根ルートはかつて甲州へと向かう重要な古道で、当時を思わせる旧跡があちこちに残っています。雄大な自然だけでなく、人々が紡いできた悠久の歴史に思いを馳せるのも良いかもしれません。
富士山のみえる頂上へ「展望台〜浅間嶺(12:10)」
深い森の中、気分は探検家。自然の神秘を間近に感じる。
JINさんは展望台を目指してさらに奥へ。森はどんどん深くなり、踏みしめる枯葉の量もだいぶ多くなってきました。小川に沿って沢を上り、途中、コケの生えた橋を渡ります。このあたりのエリアはそこら中の岩場に苔が生えており、舞い落ちる葉と、林の隙間から降り注ぐ光がとても幻想的。「道もずっと穏やかで気持ちいいですね」JINさんも立ち止まって森のにおいを感じ、小川のせせらぎに耳を澄ませていました。こんなにも森林の中を歩ける場所は東京では数少なく、なんとも心地いい時間。
岩と落ち葉を交互にふみしめ、まもなく山頂。
深い森を進み、本日のルートの中では比較的険しいエリアへ突入。ぐにゃりと曲がった樹木の太い根が道を形づくり、自然の姿がどんどんダイナミックになっていくのを感じます。ごつごつした岩場を歩いたかと思うと、つぎはふかふかの落ち葉の上。岩→落ち葉→岩→落ち葉と、足元の風景も目まぐるしく変わっていきました。同じ山でも、自然はさまざま。変化に富んだその表情を楽しむのも、山歩きの醍醐味のひとつ。このあたりは見晴らしも素晴らしく、赤や黄に染まる山並みを眺めながら歩みを進めます。
標高903mの浅間嶺。ここが本日の最高到達点!
小岩分岐と松生山分岐、ふたつの分岐を越えて展望台に到着!ここは北側に大岳山や御前山、南側に富士山を一望できる絶景スポット。空が近く、前も後ろも山々が連なる景色がなんとも美しい。晴れていたので遠くに富士山も見渡せました!ベンチに腰掛けて絶景を眺めながら軽食。ふだんと同じ食事でも、感じられる気持ち良さは段違いです。
展望台で絶景を堪能したJINさんですが、実はほんとうのピークはすこし先。浅間神社の脇を上った先にある、看板が取り付けられているところが標高903mの浅間嶺。本日の最高到達点到着です!「浅間嶺、登頂しました。やった!」幾多の山を登り慣れているJINさんでも、やはり登頂の喜びは格別のようです。
下りも絶景をたのしむ「人里峠〜数馬分岐〜浅間尾根登山口バス停(14:00)」
ここまで来たらあとは下るだけ。上りとはまた違った景色が。
ピークを過ぎたので、ここからは下りの道へ。目的地である「浅間尾根登山口バス停」は標高約600mにあるため、標高約300mからスタートだった上りとさほど標高差はありません。檜の木がうっそうと並び立つ林の中を進んでいきます。「木漏れ日がさしているのが気持ちいいですね。道あってるか不安になるんだけど(笑)」とGPSでマップをチェック。ところどころ木に巻きついているピンクテープも大事な道しるべです。変化に富んでいた上りの道とはうって変わって、約1時間ほど木々の間を進む景色が続きますが、時折視界がひらける絶景ポイントがあり、紅葉を楽しみながら下山します。「ここが人里(へんぼり)峠です。この分岐もまっすぐ行きます」
険しい道もなんのその。サル石が見えたらあと少し。
人里峠を過ぎると道はさらに細くなります。JINさん曰く「横側が切れ落ちている道があるので、そこだけ気をつければわりと歩きやすいルート」。下りの方が楽かと思いきや足への負担は大きいのでご注意を。細い道は慎重にそろそろと、急な下りは木や石でできた自然の階段を利用して、体重を分散させながら歩きましょう。「サルの手形がついた大きな石」と書かれた看板がある「サル石」が見えたら、終点はすぐそこ。周囲の木々もだんだんと細くなってきました。風張峠方面にも行ける「数馬分岐」に到着です。
登山口までの下り道は、つづら折りの安全な道。
数馬分岐を過ぎたところで、久々に車道と交差!山道をずっと歩いてきた身に舗装された道路は新鮮。ここからは標高差約280mを一気に下ります。階段を降りて坂をぐねぐね曲がりいよいよラストスパート。「地図上では急斜面ですが、つづら折りになってるので危険ではないですね」とJINさん。角度が増して急坂になり、ついに登山道の出口に到着!約13kmの道のり、おつかれさまでした!「民宿 浅間坂」の看板を横目に歩きながら感想を語ってくれたJINさん。「紅葉がきれいで歩きやすくていいルート。ずっと天気良くて良かったですね!」と、はじめての浅間尾根を存分に楽しんだご様子でした。このあとは下山口から約20分のところにある「数馬の湯」に向かいます。
山歩きで疲れた体を癒しに「数馬の湯(15:20)」
露天風呂もある人気の公衆温泉。
バス停2つほどの道のりを通りに沿って歩き「数馬の湯」へ。足にもやさしい舗装道路を進みます。しばらく歩くと「森の温泉、湧きました」という看板が。モダンな建物の奥からは、あたたかそうな湯気が立ち上っていました。ここ「檜原温泉センター 数馬の湯」は檜原村にある人気の公衆温泉で、ジェットバス、サウナ、露天風呂などがあり、多くの登山客が利用しているそう。疲れたからだにはやっぱり温泉が最高ですね!
檜原村の名物は、疲れたからだに染みる味。
温泉に併設されている食堂では、檜原村で採れた食材を使った料理が味わえます。やはり大自然の中で育まれた野菜が名産で、「数馬のもつ煮定食」「檜原野菜添え煮込み風ハンバーグ」「ひのはら舞茸丼」「舞茸の天ぷら」などが人気。JINさんはその中から「もつ煮」をチョイス。アツアツのうちにいただきます。名物の舞茸が入ったもつ煮はやさしい味わいで、トレッキングで冷えた体に最高!「うまい...!おいしいです...!」とJINさんも染み入るおいしさに浸っていました。
秋や春もいいけれど、冬に登るのもおすすめです。
最後に今回のトレッキングを振り返ってひとこと。「紅葉も滝も良かったですが、静かな森の山がとても楽しめました。東京の山というと人がたくさんいるイメージがあるかもしれませんが、ここ檜原村みたいに静かに自然を満喫できる選択肢があることを知ってほしいですね」ルートも景色も植物も、山登りのすべてを楽しむのがJINさん流なのだとか。
また、改めて浅間尾根ルートのおすすめポイントを伺うと...「ちょっと長いけど道はきつくないので、初心者にもおすすめです。低い山で雪がたくさん積もるわけではなさそうなので、秋や春はもちろん、冬に雪山初心者でも登りやすく*、楽しみやすい山とも言えると思います。木々の葉っぱも落ちて見晴らしもさらに良くなるはず」と答えてくれました。山に登る方はもちろん、登らない方も払沢の滝を楽しめます。都会の喧騒を離れて自然の中で過ごしたいと思ったとき、季節を問わず楽しめる場所。檜原村への観光は、思い立ったときに行くのがおすすめです。
*冬の登山について(参照:檜原村観光協会)檜原村の山々は標高1,000~1,500mです。いわゆる冬山登山のような重装備ではなくても歩くことができます。冬は木々の葉が落ちて見晴らしが良くなります。しかし、標高が低くても北斜面が多く一回雪が降るとなかなか融けません。軽アイゼン(4本爪)もしくは一般に販売されている滑り止めなどをご用意下さい。また、防寒着およびヘッドライト(日が暮れるのが早いため)を念のためご用意下さい。