男性の「産後うつ」と、いま求められる支援とは

 令和4年10月から「産後パパ育休」制度が始まるなど、男性の育児参画が一層進むことが期待されています。一方で、女性だけでなく、男性も「産後うつ」になりうることはあまり知られていません。そこで、産婦人科医・産業医・医療ライターの平野翔大先生に、男性の「産後うつ」についてお話を伺いました。
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10人に1人!?男性の「産後うつ」

 「産後うつ」とは、産後1年以内の育児期間中に、育児を1つの要因としてメンタルヘルス不調を起こした状態を言います。近年男性も育児に参加するようになったことで、男性に生じる例も見られるようになりました。海外の調査では産後にうつを発症する男性は約5%、日本の調査では中等度以上のメンタルヘルス不調のリスクが高い男性は全体の10%程度にのぼるともされています。

 私が最初に男性の育児問題に取り組もうと思ったきっかけは、臨床現場で妊産婦から見聞きする、男性の行動に疑問を持ったからでした。妊娠に関する知識が少ない男性や、配慮しない男性が多く、「男性は妊娠・出産について知らなすぎる」と感じていました。しかし、いざ問題に取り組もうと父親の実態を調べると、「何を知ればいいか、それすら分からない」と悩む父親や、育児環境の問題などが見えてきたのと同時に、「産後うつ」の問題に気付きました。

 これまで「男性の教育が必要」と考えていましたが、このような調査を通じて「父親の支援が必要」という思いに変わり、父親向けの支援が少ないまま進んでいる現在の「男性の育休取得推進」の世間の流れに危機感をいだきました。実際に、人知れず辛さを感じている父親は少なくありません。

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父親を追い詰める3つのパターン

 父親が「産後うつ」に陥るパターンには、大きく分けて3つあると考えています。

 1つ目に、育児と仕事の両立困難があげられます。育児と仕事を両立しようと頑張るものの、仕事の負担が減らない中で育児を担うため両立が困難になり、メンタルヘルス不調を起こしてしまうパターンです。

 2つ目は、社会との隔絶によるものです。終わりが見えない育児に疲弊すると同時に、仕事から取り残される不安感などが重なり、これらを相談できるつながりや外部支援がないことで追い込まれるパターンです。母親では以前から問題になっていましたが、今後長期の育休取得者が増えるにつれ、増加すると考えています。

 3つ目に「有害な男らしさ」があげられます。「有害な男らしさ」とは、「男性だからかくあるべき」といった固定観念で、日本人の男性には多く見られます。「子供が産まれたから、仕事をより頑張らなくては」と意気込み、仕事を増やしたり、転職をしたり、自ら多重負荷を課して追い込まれてしまいます。

 いずれのパターンも、適切な支援によって防げる可能性が高いと考えます。

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求められる父親への支援 ~それぞれの立場でできること~

 母親だけでなく、父親も含めて「育児をする人たち全員」が支援対象だとみんなが知ることが大切です。「母親だから」「父親だから」ではなく、育児をする人みんなが支援対象なんです。

<家族>
 一番身近な家族は、父親を「孤立させないこと」が重要です。日本には「里帰り出産」など、父親を育児から引き離してしまうシステムが根強く存在しています。育児はスタートが大切。里帰りするなら一緒に帰ったり、親に来てもらうなどにして積極的に育児に携わってもらいましょう。

 また、「育児は夫婦2人だけで行うのは難しい」と認知することも大切です。その上で、何かあれば周囲に助けを求める、支援先を知る・作ることが自分を守ることにつながります。これは産後だけに限りません。

<企業>
 企業は、男性の育休取得推進に向けて取り組んでいますが、今後は「育休前後」にも目を向けていただきたいです。妊婦健診の同伴に配慮することや、「育休が明けたら以前通りに仕事」ではなく、「育児と仕事の両立のために配慮する」という観点が重要です。現在、男性の「産後うつ」の多くは、労働負担+育児だと感じています。育児休業法でも、育児中の従業員は、時間外勤務の制限などを請求できることが明記されています。また、産業医がいる企業では、育児や仕事との両立など、何か不安なことや分からないことがあったら、産業医にいつでも相談できるという事を、企業から発信していくことも重要です。

<行政>
 行政は、父親に出産や育児の情報が行き渡るよう、地域の父親学級を増やすことなどが必要ではないかと思っています。母親教室や妊婦健診など母親に向けた支援は手厚いですが、父親には十分な支援も、知識も届いていません。既存事業も活用しながら、母親だけでなく、父親も含めて支援していただきたいです。

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父親自身のマインドチェンジを

 父親自身も「支援を受ける必要性」を認識することが重要です。そして、明らかにリスクが高いと思われる「有害な男らしさ」の思考に気をつけてください。「お母さんなら自然に育児ができる」という「母性神話」も問題ですが、「父親だから強くなくてはならない」「父親は大黒柱として家族を支えなければならない」という思い込み、そこからくる行動は自分を追い詰めてしまいます。「父・母だから」ではなく、「親」という視点で是非家族と向き合ってください。

「父親3.0」の時代へ

 育児・介護休業法の改正など男性が育児に参画する流れは進んでいます。だからこそ、「父親のあり方」も社会全体で変わっていかなければなりません。昭和型の「強い父親」が「父親1.0」だとすると、「父親2.0」が2000年代からの「デキるイクメン」だったと思います。「デキるイクメン」達がポジティブなメッセージを発信することで、男性育児の参画は確かに進みましたが、本来は、もっと多様な父親像があって良いと思います。これからは、「理想的な父親像」を求めるのではなく、「誰もがなれて、楽しく育児に取り組める父親」、すなわち、「父親3.0」の時代です。これからの時代の父親像を「父親3.0」として広めていくとともに、父親支援の必要性を訴えていきたいと思っています。

平野翔大 先生

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産業医・産婦人科医・医療ライター
慶應義塾大学医学部卒業後、初期研修医・産婦人科医を経て、現在は産業医として、大企業の健康経営からベンチャー企業の産業保健体制立ち上げまで担う。同時にヘルスケアベンチャーの専門的支援・医療ライターとしての記事執筆や講演なども幅広く手掛ける。産婦人科の現場で「男性の育児・育休」に課題を感じ、育児支援の社会実装案で経済産業省「始動 Next Innovator 2021」に採択。2022年に(一社)Daddy Support協会を立ち上げ、社会実装に向けて活動を展開している。
*本記事は、「TEAM 家事・育児 」(2023年2月6日公開)の提供記事です。