これからの建築は、形を競うというよりも、空間の持ってる基本的な質感を楽しむとかね、そういう時代になってくる。

 東京都が運営する「MOCTION」は、国産木材の魅力を伝える施設で、木質化オフィスのコンセプト展示や企画展・セミナーも開催している。館長をつとめる建築家・隈研吾氏に、建築、都市、オフィス空間など幅広い角度から、国産木材との接点について話を聞いた。
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さかい河岸レストラン茶蔵 © Photography by Kawasumi・Kobayashi Kenji Photograph Office

--世界の建築の動向を今、どう考えていますか?

 日本に対する期待が高まってるってのは感じますね。日本が伝統的に持っていた自然と人間の関係だとか、自然をリスペクトする文化・芸術というものが、これからの環境危機に対して非常に有効じゃないかと思ってる人が世界の中にすごく多い。僕自身も彼らと話してて、日本の環境、日本の木造に対して自信を持つことができたってところがあります。

 日本の建築の質感自身がね、石とかレンガとか硬質な西洋の建築とは全く違っていて、五感全体に訴えるような造り方をしている。それこそ匂いとか、柔らかい床の上を歩く感じだとか、室内にいても風を感じるとか、そこが今、世界で日本建築が注目されてると。

 五感全体で訴えるってことは、視覚偏重の空間とは全く違う開放感を人間の身体に与えていて、ITの時代でも結局映像だけで繋がってる世界に対して、別の可能性を示してると思います。

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桜が丘認定こども園 © Photography by Masato Yamaguchi

--都市やオフィスの木質化が進んだ先に、何があるのか?

 東京的な街づくりの方法が、世界の中で1つの突出した方法としてアピールできるようになるんじゃないかと思うんですよ。自然の微妙な現象をうまく都心に入れ込んでくるとか、東京が世界で一番上手に使える方法ってのが、多分いくつかある。そういう方法で街を作りかえていくと、東京の都市としての価値を、何倍も高めることができると思いますね。

 20世紀の都市ってある意味、超高層のニューヨークモデルでずっときて、世界中に広まったわけですよね。それに対するカウンターとして、東京の新しいモデルを立ち上げることができれば、21世紀の色んな都市のモデルになる可能性も十分あると思いますね。

 便利とか効率的だと思っていたもの自体が、20世紀的なシステムの中での効率性だったわけだから、例えば、閉じた箱に整然と机を並べて働くことが、いかに人間にストレスを強いていたかとか、考えずに生きてきた。

 オフィスの木質化は、効率性を取るか木を取るかって話じゃなくて、我々の効率性の定義自体が変わってきてることを考えた方がいい。その意味でコロナってのは、我々の信じていた効率性とか都市を、根本的に覆すきっかけになったと思いますね。

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--世界の建築の動向を今、どう考えていますか?

 これからまさに国産木材の時代が来ると思っていて、時代を引っ張っていく気概を持ってやってほしい。そういう人たちが積極的な気持ちで展開していくことで、世の中の空気が変わっていく。

 これからの建築は、形を競うというよりも、空間の持ってる基本的な質感を楽しむとかね、そういう時代になってくる。その時、木質化っていうのは、単なるデザイナーのクリエイションや美観の問題じゃなくて、社会全体の健康化みたいな問題に関わってるという意識を持ってほしい。

 日本の木の使い方って、トータルなシステムとして凄いと思っていて、木のどの部分を使うかっていう「木取り」みたいなところから、ある種洗練されたシステムを持ってる。そこを担ってるのが林業や木材産業の人たちなんで、そういう意味でも、ぜひ誇りを持って進めてほしいなって思います。

隈 研吾/KENGO KUMA

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1954年生。1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授。30を超える国々でプロジェクトが進行中。自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案。主な著書に『全仕事』(大和書房)、『点・線・面』(岩波書店)、『負ける建築』(岩波書店)、『自然な建築』、『小さな建築』(岩波新書)、他多数。
*本記事は、「MOCTION」の提供記事です。