Commerce Connect Tokyo:
東京をアジア太平洋地域のゲートウェイに

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 在日英国商業会議所(BCCJ)は、日本市場に進出する外国企業にとって重要な拠点となるために、どのような取り組みを行っているのか。同会議所会頭のリチャード・ライル氏とエグゼクティブディレクターのセーラ・バックレイ氏に話を聞いた。
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ともに2022年に現職に就任したリチャード・ライル氏(左)とセーラ・バックレイ氏。BCCJが拠点を置く、東京都港区内のシェアオフィスにて。

-- 現職にはどのような姿勢で取り組んでいますか?

 リチャード・ライル(以下、ライル):私が普段勤めているイントラリンク社は、IT企業の日本市場進出を支援しており、同社での仕事とBCCJでの仕事にはシナジーが多くあります。そのため、上司や同僚がBCCJ会頭の職を引き受けるよう勧めてくれました。セーラと私は、前任者らが成し遂げたことをベースにしながら、BCCJの発展に取り組んでいます。

 セーラ・バックレイ(以下、バックレイ):私は2020年、パンデミック発生の数週間前にBCCJに加わったのですが、私自身もBCCJも常に学び、その時々の状況に適応するようにしています。日本の水際対策も解かれた今は、活気が戻ってきました。G7広島サミット2023も開催されたばかりで、日本に対して世界中から大きな注目が集まっているように感じます。

-- BCCJの特徴を教えてください。

 バックレイ:わずか3人のチームなので、インターンと理事15人のボランティアに支えられています。チームのコアメンバーが限られていることで、BCCJのネットワーク内の個々の会員についてよく知ることができます。大きなチームだったら、提供するものも凡庸になってしまうかもしれません。よりパーソナルであることで、会員のニーズに応えるべく厳選したパッケージを提供することができるのです。

 BCCJが特別なコミュニティとなっているのは、会員たちが協力的で、ネットワークの一員として時間を惜しまず専門知識を共有してくれたりするからです。もう一つ、私たちの特徴は、ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包摂性)を重視していることです。

-- 現在の日英関係はいかがですか。

 ライル:活気がありますね。最近、イギリスは「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定」(CPTPP)に加入し、G7広島サミット前に日本との「広島アコード」に合意しました。また、日本企業がイギリスに180億ポンド(約3兆円)近い投資をする計画も発表されました。主な投資対象は、風力発電、洋上風力発電、半導体などです。

--イギリス企業の日本への投資はどうですか?

 ライル : 岸田文雄首相は、今後数年の対日直接投資について野心的な目標を掲げています。私たちは、日本をよりビジネスフレンドリーな国にするため、経済産業省と議論をしています。歴史的に、欧州企業はシンガポールをアジア太平洋地域の玄関口と見てきましたが、私たちはその認識を変え、東京を選ばれる都市にする支援をしたいと考えています。

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イギリス企業が日本で成功するためには、下調べをし、適切なパートナーを見つけ、日本で存在感を示すこと、そして対面でのコミュニケーションを優先するべきだとライル氏(左)は言う。

-- BCCJの会員で、東京で成功している個人または企業を教えてください。

 バックレイ:BCCJの会員間で生まれたパートナーシップがあります。ヒルトン東京と(テクノロジーサービスプロバイダーの)ベガ・ジャパンです。両社は昨年提携し、素晴らしい湾曲型LEDウォールを備えた「バーチャル・プロダクション・スタジオ」を作りました。日本のホテルのイベント会場に設置されているものとしては最大のスクリーンで、これまでに見たことがないようなものです。私たちは、このプロジェクトが一歩一歩前進するのを目の当たりにしてきました。このような協働が実現するのは素晴らしいことで、このスクリーンは世界中のヒルトンにも設置されると聞いています。

 ライル:そのアイデアは、ブレックファーストミーティングから生まれたものだと記憶しています。(パンデミックを経て)素晴らしいビジネスアイデアがわく対面でのコミュニケーションに戻ることがいかに重要かを示す例ですね。両社のコラボレーションは、私たちが経験した多くのサクセスストーリーの一つです。また、個人として挙げたいのは、新たに理事に加わった横田泰典氏です。彼はウィンブルドンブリューワリーのジャパン・ブランド・ディレクターであり、イギリス発のプレミアムグランピング企業を日本で展開するキャンピング・ウィズ・ソウル・ジャパンのクリエイティブ・ディレクターでもあります。優れたアイデアの持ち主であり、(良好な)日英関係にも非常に熱心で、両国間のビジネスに参加しようとする人に対して助言を惜しまない人です。

-- (ライル氏が属する)イントラリンクはどうですか?

 ライル:パンデミックが起こった当初は、企業がコスト削減に動いたため苦労しましたが、数カ月後には事業が上向きになりました。私たちはIT系クライアントの代理として現地に駐在しているので、クライアントは飛行機に飛び乗って日本に来る必要がなく、ビジネスを迅速に発展させることができます。パンデミック下に国境が閉鎖されたことは、私たちの会社にはプラスとなったわけですが、今はオープンな状況になってうれしく思っています。

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今年、創立75周年を迎えるBCCJは、企業約200社を含む会員約1,000人のネットワークを擁し、高く評価されている。

-- 東京でビジネスをするメリットは何ですか?

 バックレイ:多くのイギリス人は東京に対して、手の届かない反対側の世界というイメージを持っています。東京に来てみると、ビジネスの手法の面で両国には多くの共通点があることがわかります。私たちは、日本でのビジネスを考えている人々に、そうした共通点を理解してもらおうと努力しています。パンデミックは、バーチャルでつながることができるようになったという点で、プラスに働きました。

-- 日本進出を考えているイギリスの企業や起業家へのアドバイスは?

 ライル:下調べをすることです。多くの企業は日本に来て適切な人に辿りつけず、チャンスがないと思ってしまいますが、それは違います。適切なパートナーを見つけることが非常に重要で、BCCJはそのサポートができます。また、日本で存在感を示すことも大切です。日本では対面のコミュニケーションが重要です。大きな利益を得る可能性はありますが、(そういった文化を理解し)努力しなければ失敗します。

-- イギリスのスタートアップに対して、東京都が支援できることはあるでしょうか?

 ライル:日本市場には、スタートアップよりスケールアップのほうが適していると思います。東京都はかつて、アーリーステージ(起業直後)のスタートアップ誘致に力を入れていたことがあったと思いますが、早い段階で誘致できれば企業はより長く東京に留まるので、それは理解できます。問題なのは、そうした企業はビジネスモデルが確立されていないことが多いので、製品の開発も不十分であることです。自国の市場に顧客がついてなければ、日本で顧客を獲得するのは非常に困難です。ソニーやパナソニックのような日本を代表する企業に売り込むには、準備が必要ですが、多くのスタートアップはそれができていません。

-- 最後に、BCCJの今後のイベントや取り組みを教えてください。

 バックレイ:通常は、イベントを月に4~7件開催しています。ブレックファーストミーティングから夜のネットワーキングイベント、日本でのビジネスに重要なトピックに関するセミナーまで、さまざまです。支援する企業の業種は40を超えるため、イベントで取り上げるトピックも多岐に渡ります。私たちが主催する大きなイベントとしては、「ブリティッシュ・ビジネス・アワード」があり、今年も11月に行われます。日英間のビジネスのエコシステムで活躍する企業や個人の業績を紹介する素晴らしい機会となっています。

在日英国商業会議所(BCCJ) https://bccjapan.com/
取材・文/マシュー・ハノン
写真/アンナ・ペテク
翻訳/前田雅子