別所哲也氏が語る、東京発エンタメ界の国際化

映画祭を育て、映像作家を世界に送り出してきた
俳優業に加えて、まさにライフワークのように長年打ち込んでいることがある。それは、自らが主宰する国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)」代表の仕事だ。デビューから5年が過ぎた30代前半、ロサンゼルスで見たショートフィルムの面白さに魅了され、日本で短編映画祭を始めたのが1999年のこと。
「短いものは5分、長くても30分という映像の中に、無限の可能性を感じました。日本や世界の若い作家の作品を映画祭で紹介し表彰することで、広く世の中に知ってもらうきっかけになればいいと思ったのです」

2004年からは東京都と共催で「アジアインターナショナル部門」や「ジャパン部門」を設け、アジア発の映像文化の発信や若手映像作家の支援にも力を入れている。映画祭は、米国アカデミー賞公認、アジア最大級の国際短編映画祭へと成長し、25周年を迎えた2023年には、世界120の国と地域から5,000作品以上もの応募があった。

「テクノロジーの進歩だけでなくコロナ禍を経たことで、映画製作の手法はますます選択肢が増えています」と別所氏。SSFF & ASIAでは、今年からスマホのみで撮影編集された作品部門を増設したところ、53カ国から363もの作品が寄せられた。
「映画監督と編集する人が離れた国々にいながらリモートでつながって映画をつくり上げるということは10年くらい前から当たり前でしたが、今後は、たとえば生成AIを活用した脚本を採用したショートフィルムなど、人の手を介さない作業を取り入れた作品は増えていくだろうと思います」
東京ならではの価値を発信する重要性
別所氏は、海外の映画人たちと交流しながら、彼らが日本の映画製作に向ける熱い視線を常に肌で感じてきた。それは自身が国際映画祭を始めた理由にもつながることだ。
「世界の人々は、私たち日本人が何に価値を置いているのか、何を素晴らしいと感じているのかを知りたがっています。日本人は良くも悪くも世界、特に欧米で起きていることに従順で、ともすればそれを目標にして追いかけようとするところがありますが、海外の人は、むしろ日本やアジアらしい独自の価値を魅力に感じるのです」

「海外の文化に憧れたり、リスペクトしたりすることは素晴らしいことですが、映画製作においては自分たちにしかできないオリジナル、自分たちが本当に大切にしていること、美しいと思っているものを、表現し、発信していくことが大事だと思います」と力説する。
また、2023年度から東京観光大使を務める別所氏は、自らの役割をこう捉えている。「観光という字のごとく、さまざまな光を観るのが観光なんだと思います。東京にもたくさんの光があると思うので、僕は物語や映画を通して、その光をいっぱい集めて見せていきたいですね」
「知財立国・日本」の中心となる国際都市
映像の世界に関わる者として、別所氏はぜひとも実現させたい夢があるそうだ。
「日本ほど安全安心で、規則正しく、高品質なものが多い国はない、とよくいわれます。実は海外から自分の短編映画(の版権管理)を日本に預けたい、という声がとても多いのです。そのような期待があることは、とても貴重です」
つまり、作品の版権やデータを、責任を持って安全に管理してくれそうな国という信頼があることにほかならない。
「観光映像なども含めて世界の映像を預かり、知的財産としてまとめて保全し、次の時代につなげていく。黒澤明や小津安二郎、宮崎駿を始め多くの日本の映像作家に対する世界からのリスペクトもあります。ただ、日本の作品だけではなく、海外のものも含めて、というところがポイントです。東京が世界の中心になって、そのようなことをやっていけたら素敵ですよね。知財立国としての日本の先端を、東京が担うようになったら素晴らしいと思います」
別所哲也
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写真(人物)/殿村 誠士