世界のコーヒー文化が集う都市     

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 レトロな喫茶店のハンドトリップコーヒーから豆本来の個性を重視したサードウェーブコーヒーまで、東京のコーヒーシーンはますます個性豊かで多様になっている。日本は世界屈指のコーヒー輸入国で、様々なコーヒー文化も流入している。トルコから台湾まで、東京で楽しめる世界のコーヒー店を紹介する。
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ザ・モスク・コーヒーのトルココーヒー

 下北沢にあるザ・モスク・コーヒーが提供するコーヒーは、風味豊かで香り高く、まさに極上の一杯だ。一般的にトルココーヒーとして知られる、細かく挽いたコーヒー豆を煮出して飲むスタイルは、かつて広大なオスマン帝国を構成していた国々や中東各国に共通する文化であり、東京でも多くのエスニック料理店で見かける。しかし、本物のトルココーヒーの文化を体験したいなら、専門店であるザ・モスク・コーヒーを訪れるべきだ。

 ザ・モスク・コーヒーは、2020年に下北沢の線路跡地である下北線路街で移動式コーヒートラックとしてスタートし、2022年7月に同エリアの商業空間リロード近くに店舗を構えた店だ。ちなみに、余談だが代々木上原にあるイスラム教の礼拝堂、オスマン・トルコ様式のモスクである東京ジャーミイでもトルココーヒーが購入できる。

 店主の小山正則氏のトルココーヒーへの情熱は、東京在住のトルコ人からも認められ、高い評価と熱烈な支持を得ている。小鍋を熱い砂に埋める伝統的なトルコの淹れ方を採用し、本場トルコで近年人気が出始めているココナッツやヘーゼルナッツ風味のコーヒーも提供している。さらにこの店では、珍しいトルココーヒーラテも飲むことができる。小山氏は、現地のネットワークを通じて最新のトレンドを抑えつつ、独自のスタイルを確立。本場では見かけないアイストルココーヒーの淹れ方も開発した。

 カウンターの上に何十個もぶら下がるトルココーヒー用の小鍋(ジェズヴェ)や、テーブルに使用されているビンテージの鉄製の調理器具など、ユニークな内装品は全て小山氏がトルコから手に入れたものだ。カップやソーサーもイスタンブールで自ら買い付けている。

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ドティ・カフェ・ベトナムのベトナムコーヒー

 ベトナムは世界第2位のコーヒー生産国で、そのほとんどは苦味が強く、深みのあるロブスタ種だ。ベトナム式のコーヒーは、金属製ドリッパーで淹れるため、コーヒーオイルをそのまま味わうことができる。ロブスタの深みとナッツの香りが、練乳と絶妙に合わさると、バランスの良いまろやかなベトナムスタイルのアイスコーヒーができる。濃厚で香り高いベトナムコーヒーは、都内でもベトナム料理店やバインミー(サンドイッチ)の店で味わうことができる。

 一方、ミルクの代わりに卵を使い、カスタードのような甘いクリームが乗ったエッグコーヒーは東京ではまだ珍しい存在だ。ベトナムでミルクが不足していた時代に誕生したもので、東京で味わえる場所はごく僅かだ。その1つが高田馬場にあるドティ・カフェ・ベトナムだ。この店では、エッグコーヒーをロウソクで温めながら飲むことができる。また、伝統的なベトナムアイスコーヒーの他、食事やデザートも楽しめる。

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コピカリアンのインドネシアコーヒー

 品質管理が徹底された風味豊かなコーヒーを提供するスペシャルティコーヒー店を訪れたことがある人なら、インドネシア産のコーヒーを一度は飲んだことがあるかもしれない。インドネシアはコーヒー生産大国だが、驚くことに、東京でインドネシアコーヒーを味わえる専門店は、コピカリアンのほか多くはない。原宿にあるスタイリッシュなこの店は、インドネシア産の豆のみを扱い、エスプレッソ、ラテ、ドリップ、コールドブリューなどの定番メニューはもちろんのこと、インドネシアならではのコーヒーも楽しめる。ナチュラルな甘みが特徴のパームシュガーラテや、インドネシア産ジンジャーを使ったスパイシーなブラスクンチュールラテなどがメニューに並ぶ。

 パームシュガークリームがのったコーヒーゼリーや、パンダンケーキも人気メニューだ。心地よい店内には無料Wi-Fiやテラス席もあり、不定期で展示会も開催している。コーヒー豆のほか、グッズの販売もしている。

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アカアマコーヒーのタイコーヒー

 東京で数少ないタイコーヒー店のアカアマコーヒーは、サステナブルなオーガニックコーヒーを心地よい空間で味わうことができる。使用するコーヒー豆は、ミャンマーとの国境に近いタイ北部の小さな農場で、少数民族のアカ族が育てている。アカ族は、もとは移民としてタイに移り住んだ少数民族だ。

 本国タイの店舗は、アカ族が暮らす山間部の村で初めて大学を卒業したリー氏が経営する。リー氏の母親は、コーヒーを栽培して彼の教育費を稼いだ。今では親子で村に雇用を生み出し、繁栄に貢献している。店名にある「アマ」は、アカ族の言葉で「母」を意味し、ロゴはリー氏の母親をモチーフにしている。

 神楽坂の閑静な裏通りに佇むアカアマコーヒーは、居心地がよく、知識豊富なスタッフがコーヒーやその起源について親切に説明してくれる。コーヒー豆や、アカ族の伝統的なデザインが描かれたTシャツも購入することができる。

 丁寧に淹れられたドリンクメニューは、クラシックなエスプレッソ、マキアート、ラテ、ハンドドリップなどさまざま。本場タイのコーヒー文化を味わいたいなら、甘いクリームが入ったタイ風アイスラテやカルダモンラテもおすすめだ。季節によっては、オレンジピールとフォームドミルクを添えたダブルエスプレッソのマニマナも味わえる。デザートも絶品で、キャロットケーキやイチジクとウォルナッツのヴィーガンのブラウニーが人気だ。

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リウェイコーヒースタンドの台湾コーヒー

 高田馬場にあるリウェイコーヒースタンドで味わえるのは、西洋のコーヒー文化をベースに、台湾と日本のカルチャーを融合させた一杯だ。台湾出身の李維軒氏と日本人の上村 遥子氏の夫婦が運営している。2人はコーヒーとお互いの母国を愛しており、それは店内の雰囲気にも表れている。有田焼や台湾の作家による器が使われていたり、日本の喫茶店ではお馴染みのプリンには、台湾のウーロン茶を使ったシロップが添えられている。夫妻は二つの文化と味の組み合わせを模索し続けている。

 豆は、ともにコーヒー専門家である夫妻が自家焙煎をしている。李維軒氏はラテアートの大会で優勝経験があり、上村氏は東京の有名なスペシャルティコーヒーショップで腕を磨いた。看板メニューの一つは、竹炭を使ったブラックラテだ。

 コーヒー豆は店内またはオンラインで購入が可能。ユニークなグッズやコーヒー器具も取り揃えている。

*本記事は、「Tokyo Weekender」(2022年8月30日公開)の提供記事です。

取材・文・写真/ゾリア・ペトコスカ
翻訳/長沢光希