東京で力士に会える場所       

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 神道と深く結びついている相撲。力士たちはこの日本の国技に、神主のような献身的な姿勢で取り組んでいる。いまインバウンド観光客が戻ってきたおかげで、相撲の人気が復活しはじめた。
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長い歴史を持つ相撲は、日本の数々の伝統を守るという役割も果たしてきた。

早起きして、「相撲の街」へ出かけよう

 日本を訪れる観光客は、2012年からコロナ禍が始まる前の2019年までに3倍以上に劇的に増加。日本のユニークな歴史と伝統への関心が高まっていることが示された。

 多くの観光客が大相撲のチケットを手に入れたいものの、あいにく東京で行われる場所は1月と5月、9月だけ。これ以外の時期に東京を訪れる人はどうすればいいのだろう?

 チケットが手に入らなくても、力士たちの姿を見たいなら、まだ方法はある。東京の両国は相撲の街として知られている。ここには多くの相撲部屋がある。力士たちが稽古をし、食べ、眠る場所だ。この界隈をちょっと歩くだけでも、コンビニに立ち寄ったり近所の食堂へ出かける力士たちに会えるかもしれない。

 しかし稽古をしている力士たちを見たいなら、相撲の世界に触れたい人たちに向けて門戸を開いている相撲部屋がある(この場合、実際に開いているのは窓だけれど)。

 日本橋浜町にある荒汐(あらしお)部屋は、2002年に設立され、現在14人の力士が在籍している。相撲人気が高まるなか、この部屋は稽古を見学したいという外国人観光客の声にこたえた。

 東京のどこから来るにしても、力士の稽古を見学するには頑張って早起きする必要がありそうだ。相撲部屋の稽古は朝6時30分頃に始まり、10時には終わってしまう。

大きく開かれた相撲部屋の「窓」

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相撲部屋に所属する力士たちの生活は、日本相撲協会が定めた規則にのっとっている

 私は稽古の開始に間に合うよう、朝5時に起きて荒汐部屋を目指した。降雪の少ない東京で珍しく雪がちらついた日だった。通訳を手伝ってくれた友人と私は立ったまま、2時間以上にわたって稽古を見学した。

 力士たちは大変な練習量をこなした。四股(しこ)やすり足、ぶつかり稽古、とてもキツそうな腕立て伏せ......。うつ伏せになって前腕を床につき、腰を浮かせた姿勢を保つ体幹トレーニングの「プランク」をやるときには、背中に大きな米俵のようなものを載せて負荷をかけていた。番付が上の力士が格下の力士に稽古をつけるときには、大変な力で押していることが感じ取れた。

 まわししかつけていない力士たちを、ジャンパーやジャケットで厚着をした私たちが窓をはさんで見ている光景は、いささか奇妙だ。力士たちは見学者にとても気を配っており、稽古の間に窓ガラスが雲っていると時々ふいてくれたので、私たちは彼らの様子をしっかり見ることができた。稽古が終わると、3人の力士が外に出てきて、見学者と一緒に写真に収まってくれた(道は冷たく濡れていたのに、彼らは裸足だった)。

 このあと私たちは部屋の中に入ることを許され、力士のひとり寺井ジャスパーケネスと話ができた。フィリピンと日本のハーフである彼は、荒篤山(こうとくざん)というしこ名を持つ。

 毎朝、稽古のためにどうしてそんなに早く起きるのかと尋ねると、荒篤山は言った。「朝早く稽古を始めるのは『早起き、稽古、食べる、眠る』というリズムをつくると、体が大きくなり、強くなれるから。それが私たちの稽古のやり方です」。稽古を見たければ、力士たちの予定に合わせなくてはならない。彼らは毎日の稽古を同じスケジュールでこなし続ける。

 見学者が稽古をのぞく窓が、以前ネットで見たときより大きくなっているような気がした。その点について尋ねると、荒篤山は言った。「ええ、以前はもっと窓は小さかった。でも、大勢の人が稽古を見に来てくれていて。そこで、もっと見てもらいやすくするために、窓を大きくしようということになったんです」

力士たちは伝統の貴重な守り手

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若い世代が相撲に接する機会が少ないなど多くの要因から、大相撲の新弟子志願者は減少傾向にある。

 力士たちによれば、見学者はほぼ毎日やって来る。ざっと9割が外国人だという。荒篤山はその理由を、相撲が日本特有のスポーツであるためだと考えている。「海外から来られる方たちは、(相撲の稽古を)見たがると思います。日本以外ではめったにお目にかかれませんから」

 しかし、いくつもの武道が生まれた日本でも、相撲は特別だ。「相撲はほかのスポーツとは違います」と、荒篤山は言う。「使うのは自分の体だけですし、日本の伝統を表す要素もたくさんあります。私たちが身に着ける着物だったり、あるいは髪をサムライのように結う髷(まげ)だったり。ほかの競技とは違って、相撲には日本の伝統芸能のような部分があります」

 確かに、日本のことを思ったときに頭に浮かぶのは、相撲と芸者のイメージだろう。どちらも日本の古くからの伝統や慣習を後世に伝える役割がある。

 芸者の場合に似て、力士の身なりはたくさんの規則にのっとっている。「外出するときは、着物や袴しか着てはいけません。髷を結うのは、力士であることが周りの人にすぐわかるようにするためです」と、荒篤山は言う。「私たちが日常生活でやっていることは、すべて伝統を体現することにつながっています」

 相撲人気にいくらか復活の兆しがあるとはいえ、このように伝統に根差した生活を送ろうという人は、今どきさすがに多くはない。力士の数は大きく減ってはいないものの、新弟子の確保は年々難しくなっている。

 力士になることは以前のように魅力的ではなくなったと、荒篤山は感じている。「力士の志望者はとても少なくなりました。小学生や若者たちは相撲自体には関心があっても、実際に力士になりたいという人は多くない」

 相撲が若い日本人へのアピールに苦労しているとしても、海外から訪れる人たちはこのスポーツと力士たちに畏敬と驚きの念を抱いている。荒汐部屋のような相撲部屋が彼らの関心にこたえようとしているのは、素晴らしいことだろう。

取材・文/ローラ・ポラッコ
写真/ローラ・ポラッコ
取材協力/ディラン・ジェケルズ
翻訳/森田浩之

*本記事は、「Metropolis(メトロポリス)」(2023年4月13日公開)の提供記事です。