子どもの習い事送迎サービスで解決する、子育て世帯の課題

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 令和5年に公表された調査では、東京都で暮らす夫婦の共働き世帯は約7割とも言われている。平日に子どもに習い事をさせている家庭も多く、習い事の場所までが自宅や学校、保育園から離れている場合は親の送迎が必要となり、それが時間的な負担となっているのが実情だ。そこで、hab(ハブ)株式会社の豊田洋平氏が開発したのが、子どもだけをシャトルに相乗りさせ目的地まで送り届ける、子ども専用送迎シャトル運行システムだ。
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hab株式会社のCEO豊田洋平氏。子育て世帯の課題を目の当たりにし、起業への意識が芽生えた。

共働き世帯を救う新たなサービス

 豊田氏が代表を務めるhab株式会社が提供するのは、エリアが近い習い事に通う子どもたちが相乗りして目的地へ移動する、新しいソリューションだ。

 子どもたちが乗降する時刻や場所から、最適な運行ダイヤとルートを自動で設計、親やドライバーへアプリを通じて情報を配信する。車両のリアルタイムの位置情報と乗降時の通知は、LINEの「hab」公式アカウントで受け取ることができる。

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親やドライバーは送迎ルートや時刻表をアプリで確認することができる。

 豊田氏は複数の大手企業を経て、2020年に東急電鉄の親会社である東急株式会社へ入社。MaaS(利用客が複数の交通機関を効率よく便利に使えるようにするシステム)チームに所属し、新たな移動サービスを提供するアプリを開発する過程で、ある課題が豊田氏を起業へ駆り立てた。

 「東急線沿線の利用客の声をヒアリングする機会があり、幼い子どものいる子育て世帯が習い事の送迎に悩んでいることが分かりました」。

 送迎バスを利用できる習い事も一部あるが、ほとんどの場合は親が子どもの送り迎えを行っている。仕事との調整が必要になる場合もあり、大きな負担になっていたのだ。こうした親たちの悩みの声は、豊田氏自身の子どもの頃の記憶と重なった。豊田氏も自分の習い事の送迎のため、共働きの親がいつも苦労している姿に子どもながら気づいていたのだ。

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「hab」のシャトル(タクシー)での実証実験の様子。ピックアップポイントで待つ子どもを乗せると、親のスマホに通知が届く。

 「たまたま出会った送迎の課題と自分のキャリアがちょうど重なったことで、これは人生を賭けて挑戦したいと思いました」。こうして、東急の社員だった豊田氏は、習い事に通う子どもたちを相乗りさせて、目的地に送り届けるシェアリングサービスを提供する会社「hab」を副業として創業するに至る。

 豊田氏は、2022年に東京都主催の起業コンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY 2022」で最優秀賞を受賞。2023年3月に実証実験を行うと、サービスの導入を待ち望む声が多く寄せられたという。現在、2024年1月の本格的なサービス開始に向けて準備を進めている。

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「TOKYO STARTUP GATEWAY 2022 THE FINAL」でプレゼンテーションする豊田氏。Photo: TAKESHI MATSUMOTO

東京には起業家をサポートする土壌がある

 豊田氏が順調に事業化へのステップを歩めたのは、「TOKYO STARTUP GATEWAY」で起業を目指す同期やメンターたちとの出会いがあったからだ。「同期とはお互いに相談や進捗を報告し合っています。彼らとともに切磋琢磨することで、起業時の情熱を持ち続けられますし、お互いの刺激にもなっていますね。また、メンターは株主として支援してくださったり、事業に対する専門的なアドバイスをくださったりと、スタートアップの進むべき道を示してくださいました」

 豊田氏は事業への想いをこう話す。「たくさんのユーザーの声を聞いて、小さな課題をとらえること。そして、それをどう解決できるかを考えるという、一歩を踏み出し続けること」。東京から生まれた新たな若手起業家の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

豊田洋平

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hab株式会社代表取締役。大日本印刷やソフトバンク株式会社といった大手企業を経て東急株式会社に入社。モビリティのDX事業に従事する。2022年に同社の副業制度を活用してhab株式会社を立ち上げ、子ども専用送迎シャトル運行システムを開発。現在は東急株式会社を退社しhab株式会社に専念、子育て層の社会進出支援や子どもの体験格差是正に取り組んでいる。

hab株式会社

https://habshuttle.com

TOKYO STARTUP GATEWAY

https://tokyo-startup.jp
取材・文/西村智宏
写真/伊藤智美