Correspondents' Eye on Tokyo:
東京を愛し、銭湯に癒やされたジャーナリスト
光あふれる街が温かく迎えてくれた
カーティト氏が初めて来日したのは2016年、交換留学プログラムを通じてだった。東京に来て、現実の街の景色は予想を上回るものだったという。それまで、アニメの二次元的な描写を通して東京について知っているつもりだったが、五感を使って東京を体験することで、東京の良さを改めて深く理解することができた。
東京で最初に彼女の目を引いたのは、街の印象的な雰囲気だった。東京での最初の夜、街は温かく迎えてくれた。「吉祥寺を歩いていたら、通りがとてもきれいでした。居酒屋から発せられる赤い色があちこちで光っていて、カラオケ店の青い光も鮮やかで......。とても素敵だった」
また街の雰囲気以上に、日本食を大変気に入ったことは、思いがけない喜びだった。例えば、納豆は外国人にとって戸惑いがちな食べ物だが、彼女はすぐにその味に惹かれた。
甘いものに目がない彼女は、東京でも満喫した。特に餅菓子がお気に入りになった。「友人たちにとって、私のイメージは『お餅を持った子』でした。お餅が大好きで、いつも持っていたんです。ヨーロッパで食べられるもの以外は、日本の食材については知らなかったので、思いがけない出合いでした。自分好みの新しい日本の食べ物を発見できたことは、私にとって大きな一歩、それもとてもいい意味での一歩でした」
日本での1年を終え、カーティト氏はできるだけ早く東京に戻りたいと考えていた。そして、一橋大学国際・公共政策大学院のグローバル・ガバナンス・プログラムに興味を持ち、日本語の学習を進めることで入学を果たした。
地元の銭湯の温かさを愛して
一橋大学の修士課程に合格したことで、彼女は東京の新しいエリアを知る。国立市だ。ここで彼女は、銭湯が大好きになった。
国立市は、都心のステレオタイプなイメージとはまったく対照的な地域だ。東京の西部にあって、高層ビルや地下鉄がある都会というよりも自然に囲まれた場所というイメージに近い。彼女はそれでもまったくかまわなかった。
地元の銭湯ほど、ローカルで温かい雰囲気の場所はない。カーティト氏はそこで一日の疲れを癒やすようになった。
多くの人がそうであるように、彼女も人前ですべてをさらけ出すことに慣れておらず、最初は銭湯でリラックスできなかった。しかし、彼女はどんな挑戦もいとわなかったので、「誰も気にしてない」という考え方も好きになった。この文化を心から受け入れるまでにそれほど時間はかからなかった。
温泉と銭湯の違いについて、カーティト氏はこう説明した。「私が銭湯を好きなのは、よりローカルな体験ができるからでしょう。観光地的なスポットではなく、そこに住んでいる人たちが一日の終わりに出かけていく場所だという感じがしました。本当にリラックスするためのひととき、と言うか......。私はそういう場所が好きでした。温泉ではあまり感じなかったことです」
カーティト氏は銭湯のさまざまな香りや心安らかにリラックスできるセルフケアの面がとても好きだが、彼女にとって楽しみの大部分は人とのふれあいなどの側面にある。「銭湯では社会的な経験ができると思います。他の人たちに囲まれていて、みんなと話すかどうかが重要ではなく、ただ一緒にいるという感じがとても好きでした」
フランスに戻った今、最も懐かしく思うのは銭湯での体験だ。「銭湯を恋しく思うのは、あの雰囲気や、そこで出会った人たち、みなさんから聞いた面白い話の数々のためです」
銭湯の他の客がいつも親切に接してくれ、異国から来た人とも進んで話そうとすることが、彼女には強い印象として残っている。「銭湯で嫌な思いをしたことは一度もありません」
東京との絆はいつまでも
現在、カーティト氏はロイター通信の金融ジャーナリストとしてフランスで働いているが、これからも日本や東京との関係を持ち続けたいと願っている。もし東京に戻れるなら、エネルギーや医療関連のニュース担当に挑戦したいという。しかし、日本のこうした分野を扱うのは難しい挑戦であることもわかっている。
「近いうちに東京に戻れないとしたら、ヨーロッパにいながらでも日本とつながっていたいと思います」
ディナ・カーティト
写真提供/ディナ・カーティト氏
翻訳/森田浩之