Correspondents' Eye on Tokyo:
東京がデザインのレベルを引き上げる

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 ジェレミー・スマート氏は、アジア有数のインテリアデザイン雑誌で年2回発行されるデザイン・アンソロジーのクリエイティブディレクターとして活躍する。羽田空港からアジア太平洋の各地を飛び回る日々だが、東京にいるときは、多くの時間を自宅のある渋谷区富ヶ谷で過ごしている。
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スマート氏は時間を見つけては、富ヶ谷の自宅近辺を散策している。

東京は世界有数のクリエイティブなハブ

 オーストラリア出身のスマート氏は、香港でデザイン・アンソロジー誌の仕事をしていたが、2022年4月に東京に移った。理由のひとつは、同誌が東京とより深い関係を築きたかったことがある。創刊以来、東京は非常に重要な市場だった。

 しかし、それにも増してスマート氏の個人的な動機もあった。「東京は生活の質、生活必需品、経済規模などすべての面で優れた都市だと思うのです」と、彼は語る。

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2023年10月発行のデザイン・アンソロジー誌37号は、日本のクリエイティブ・コミュニティを特集している。写真提供/ジェレミー・スマート

 東京は国内外へのアクセスが実にスムーズだ。そうした特徴が、この都市を世界有数のクリエイティブなハブにしていると、スマート氏は感じている。

 「世界最高のものが東京に集まり、多くの面で東京において洗練されているように思います。東京が世界とつながると、創造性、革新性そして文化的なレベルが上がる気がします」

 さらにスマート氏は、東京国際空港(羽田)を高く評価する。「インフラの観点から言って、羽田は完璧な空港です。コンパクトで接続がよくて、必要なことはすべてできる」。年間約9,000万人の旅客に対応し、都市へと結ぶ電車、モノレール、バスの便も充実しており、常に世界最高の空港のひとつと評価されている。まさにこの素晴らしい接続性こそが、国際的な影響力を東京に根付かせ、新たなクォリティを獲得することで、創造性を次のレベルに引き上げていると、彼は考えている。特に建築においてあてはまるが、芸術や文化の多くの分野においても同様だという。

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彼によれば羽田空港は東京の世界とのつながりを象徴する場所だという。 Photo: iStock

刺激と静寂が生み出す創造性

 世界とのつながりもさることながら、彼は渋谷区の代々木公園のすぐ西に位置する富ヶ谷一帯にも、必要なものすべてにアクセスできる便利さを感じている。

 スマート氏が富ヶ谷について驚くのは、車を必要としない便利な交通網である。オーストラリアの故郷の町で、車がなければ何もできないと感じていたのとは対照的だ。さらに渋谷区と富ヶ谷の界隈はコンパクトにまとまっており、徒歩や自転車で簡単に散策もできる。

 「私はあまり渋谷区から離れません。東京ならどこに住もうと、徒歩5~10分圏内に必要なものがあると感じるからです。これだけの規模の都市でそんな機能を持つところは、他にあまりありません」

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富ヶ谷の通りには、刺激と静寂の両方がある。仕事についてのインスピレーションを得るには絶好の環境なのだという。写真提供/ジェレミー・スマート

 東京や富ヶ谷の魅力は便利な交通網だけではない。創造性も彼にもたらしている。

 インスピレーションの面で、東京は古いものと新しいものが出合う場所とよく言われる。だが彼が注目する東京の二面性は、いささか違う。それは「刺激」と「静寂」だ。

 「1〜2区画移動するだけで、純粋な刺激から完全な平穏と静寂に至ることができます。そんな場所は、世界のどこを探してもありません。クリエイティブな仕事をしている身としては、何が起きているのかを観察し、それを引き寄せて取り入れるまで、すべて1時間以内でやれるのは助かります」

 このような便利な交通網、そしてあらゆる場所でインスピレーションのヒントがある富ヶ谷は、スマート氏が創造性を発揮し、自身の雑誌のデザインに多様な要素を取り入れるのに最適な場所となっている。

 デザイン・アンソロジー誌のために長い時間をかけて日本各地とのネットワークを築いてきた。仕事のニーズがあるかぎりは東京に住んで働き続けるつもりだ。

 「当誌ではファッションデザイン、建築、インテリアデザイン、プロダクトデザインなど、さまざまな分野に目を向けています。アジアの新進デザイナーを紹介していくことが目標です。重視しているのは、彼らのデザインを掲載していくことで、彼らの作品が評価されるようになることです」

ジェレミー・スマート

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デザイン・アンソロジー誌クリエイティブディレクター。2022年から東京を拠点に、同誌のクリエイティブ部門の全体を指揮。コメンテーターとしても、Nikkei Asiaやシドニー・モーニング・ヘラルド紙などに、デザイン、旅行、都市論について寄稿している。
写真提供/ジェレミー・スマート

取材・文/カサンドラ・ロード
写真/カサンドラ・ロード
翻訳/森田浩之