世界で躍動するブレイカーが見据えるパリ五輪

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 2024年夏に開催されるパリ2024オリンピック競技大会(以下、パリ五輪)の正式種目となった「ブレイキン(ブレイクダンス)」。メダルの有力候補として期待される日本人ダンサーShigekix選手とAmi選手にブレイキンの魅力を聞いた。
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ふたりの関係を聞くと「ライバルです!」と、Ami選手(写真左)とShigekix選手(写真右)は明るく答えてくれた。

超絶技が繰り広げられる即興ダンスバトル

 スケートボードやBMXとストリート生まれの競技が正式種目となった東京2020オリンピック競技大会。特にスケートボードは日本の選手が金メダルを獲得するなど大活躍し、これら競技の認知度を高め、競技人口の増加も期待されている。202410月には、東京2020大会のレガシーを継承する、有明アーバンスポーツパークも開業する。そして、次に注目を集めているストリート発の競技が、パリ五輪から正式種目となるブレイキンだ。

 ブレイキンは、DJがプレイする曲に合わせ、創造性とスキルを選手が1対1で競い、審査員のジャッジにより勝敗が決まる競技だ。五輪の出場枠は各国男女各2名ずつ。日本は、2018年のユースオリンピックで男女とも金メダル獲得、さらに多くの国際大会で優勝を飾るなど、強豪国として知られる。その中で出場はもとよりメダル獲得をも期待されているのが、"Shigekix"こと半井重幸選手と"Ami"こと湯浅亜実選手だ。

日々の積み重ねがつながるパリの舞台

 ふたりはブレイキンの魅力を「ダンススタイルに制約が無く、個性を自由に表現できるところ」と話すが、自身のスタイルで大切にしていることは、異なるようだ。

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「即興ダンスだからこそ瞬時に変化していくバトル展開もブレイキンの面白さ」とShigekix選手。Photo: Romina Amato / Red Bull Content Pool

 「僕の場合、ひとことで言えばダンスを音楽的に表現する『ミュージカリティ』。刀のように磨き上げたモーションを、違和感なく音楽を融合させることです。観客に『この音楽でこんな動きができるの!?』って驚いてもらえたら嬉しいです」と、笑顔で答えるShigekix選手。一方のAmi選手は「いつも意識するのが『綺麗で格好良く!』ということ。いかに高度な技でも、細部まで完璧でなければステージ上では披露しない。完璧になるまで練習して、自然な動作として身につけて本番に挑んでいます」と、力を込める。

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Ami選手は「作風が違うピカソとゴッホに優劣も正解もないように、自分のスタイルを貫いて表現できるのが魅力」と語る。Photo: Jason Halayko / Red Bull Content Pool

 ブレイキンへ強い想いを抱くふたりだが、パリ五輪は冷静に見据えている。Shigekix選手は「なにかを仕込もうとか小手先のことはしません。パリまでの1試合1試合に向き合い、結果を噛み締めながら成長していきたいです」、Ami選手も「先のことを考えすぎて不安になるよりも、日々の練習や目の前の大会に全力を尽くすだけ。そのひとつひとつが今後のステップにつながると思います」と静かに語ってくれた。

東京でも盛り上がる、都市型スポーツ

 スケートボードやBMX、そしてブレイキンは、広い場所を必要とせず、個人で気軽に楽しめる「アーバン(都市型)スポーツ」と呼ばれる。順位だけでなく、個性を活かした表現を競うスポーツとあって、東京でも若い世代を中心にその人気は右肩上がりだ。また世界最高峰の1on1ブレイキンバトルイベント「Red Bull BC One」の日本大会などブレイキンの競技イベントから、東京都も助成する国内最大級のストリートダンスの祭典「Shibuya Street Dance Week」まで、さまざまなイベントが目白押しだ。

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「高校卒業後に上京した僕を、あらゆる面で成長させてくれた街」と東京への思いを語るShigekix選手。
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「ブレイキンを始めた当初、主要大会はほぼ東京でした。隣県で育った私にとって東京は、『挑みに行く街』でしたね」と、Ami選手は思い返す。

 ブレイキンをはじめとした都市型スポーツの人気は、パリ五輪でのShigekix選手やAmi選手の活躍により、さらに盛り上がっていくに違いない。

Shigekix

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2002年、大阪生府まれ。姉、AYANE(半井彩弥)に影響を受けダンスを始める。11歳で世界大会デビューと同時に優勝を果たす。以降も「Red Bull BC One 2020」を18歳の最年少で制し、全日本選手権は今年で3連覇を果たすなど、数々のメジャータイトルを手にする。

Ami

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1998年、埼玉県生まれ。ブレイカーの姉、Ayuに影響を受けhip hopと出会い、10歳でブレイキンの技「ウィンドミル」に衝撃を受けブレイキンを始める。「Red Bull BC One 2018」で初代女王となり、以降も「WDSF世界ブレイキン選手権」、「第1回世界アーバン大会」で初代女王を獲得。2022年も「ワールドゲームズ」や2度目の「WDSF世界ブレイキン選手権」を制した。
取材・文/高野智宏
写真/榊水麗