熊川哲也が目指す、東京でしかできないバレエ体験   

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 英国ロイヤル・バレエ団で東洋人初のプリンシパル・ダンサーとして活躍後、1999年にKバレエ カンパニー(現・Kバレエ トウキョウ)を創設した熊川哲也氏。芸術監督、振付家、演出家を務めるほか、後進の指導においても手腕を発揮。東京から世界へと存在感を示している。
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英国ロイヤル・バレエ団時代からたびたび舞台に立つ、上野の東京文化会館にて。

--2023年9月からカンパニー名を「Kバレエ トウキョウ」に改称されました。どんな思いを込めたのでしょうか?

 1999年にKバレエ カンパニーを創設し、来年で25周年を迎えます。カンパニーは国内では一定の認知を得られるようになりましたが、海外の方にとっては「どこの都市にあるバレエ団?」という感覚でしょう。もっと高みを目指すためにも、世界中に知られている「東京」という名前をお借りするのがいいかなと考えたのです。(東京都から)東京観光大使に任命していただく前のことでしたから、運命を感じました。

--東京について、どうお感じになっていますか?

 今は、日本のゲームやアニメなどのサブカルチャー、ポップカルチャーの力がより増して、東京から世界へと発信されています。ハイカルチャーと呼ばれるクラシック音楽や劇場文化は、もっと頑張らなければいけないですね。

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「東京は、首都高からの眺めが本当にかっこいいし、下町を散歩するのもとても面白い」と熊川氏。

--Kバレエ トウキョウでは、年に一度のペースで、大がかりなオリジナルの新作バレエを発表し続けています。

 オリジナルといっても、クラシック・バレエの域を超えたいと思っているわけではありません。古典へのリスペクトを示すとともに、100年後の人が観ても「これはクラシック・バレエだ」と思われるものをつくるべきだと考えています。ただ、現代のお客さまの時間の使い方や情報収集の多様化も意識しなければいけません。例えば昔のように『眠れる森の美女』を4時間も座って観ていられるかというと、それは難しい。バレエを長く愛してもらうためには、現代の人の感覚に寄り添って変えていく部分も必要なのです。

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2023年10月初演の『眠れる森の美女』では、現代の観客がより楽しめるようにストーリーの展開を工夫した。©︎Hidemi Seto

--世界に向けて東京のバレエをアピールするために、どんな試みをしていますか?

 海外の方も含めて東京までバレエを観に来ていただきたいので、そのためにはまず、わざわざここまで来てまで観たいと思ってもらえるような質の高い作品、そして日本人がオリジナルでつくる作品というアイデンティティが求められるでしょう。ハードルは高いですが、挑戦しがいはあります。2022年に、日本発の良質なオリジナル作品の創出と、新たな才能の発掘とプロデュースを目指して、BunkamuraとのコラボレーションでKバレエ オプトを立ち上げました。公演は不定期ですが、今年1月には環境問題に挑む『プラスチック』という公演を行いました。我々の規模でできることは限られますが、さまざまな社会課題にフォーカスした作品にも取り組んでいきたいですね。

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Kバレエ オプトによる公演『プラスチック』では廃棄されたビニール傘やペットボトルを小道具に用いた。©︎Hajime Watanabe

--ダンサーの育成にもより力を入れていかれるそうですが、熊川さんが見据える未来はどのようなものなのでしょう。

 この9月に少数精鋭のKバレエ アカデミーを開校しましたが、日本人の身体を活かした美しさ、日本人の生活様式やカルチャーがあるからこそ出せる表現を、メソッドやカリキュラムに落とし込みます。自分の感性を校長の蔵健太氏が分析し、理論として構築してくれています。プロを目指す若いダンサーたちが海外へ憧れること、それはそれでいいのですが、海外に出て行かずとも東京で学ぶことができるはずです。ここで学んだダンサーたちが、10年後、20年後にKバレエ トウキョウで主役を踊るようになったら──それはもう、本当に喜ばしいことです!

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2023年7月に熊川財団を設立。ダンサーを目指す子どもたちの支援に意欲を見せる。

熊川哲也

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1989年、英国ロイヤル・バレエ団に入団。93年から98年までプリンシパルとして活躍し、世界各地のバレエ団に客演。99年、Kバレエ カンパニー(現・Kバレエ トウキョウ)を設立し、ダンサーとして団を率いるほか、芸術監督として数々の作品のプロデュース・振付・演出を手がけている。2023年、ローザンヌ国際バレエコンクールで審査員を務める。東京観光大使に就任。

Kバレエ トウキョウ

https://www.k-ballet.co.jp
取材・文/加藤智子
写真(人物)/榊水麗
ヘア&メイク/貝嶋直樹(insence)
撮影協力/東京文化会館