東京にもっと伝えたい、ニュージーランド産ワインの魅力

 都内でニュージーランドレストランを運営するウェイン・シェネン氏は武道家でソムリエ、日本酒の利き酒師でもある。ラグビーのニュージーランド代表「オールブラックス」に匹敵するような輝かしい成果を残してきた彼は、ニュージーランド産ワインに情熱を注ぎ、東京で母国の料理と文化を紹介している。
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シェネン氏が2019年にオープンした「ランギトト東京」は、すぐにニュージーランド料理の人気店になった。

 レストラン「ランギトト東京」を御茶ノ水にオープンして成功を収めているシェネン氏に、日本にやって来た経緯や、さらに高みを目指す日々について語ってもらった。

--日本に来る前は、この国にどのような興味をお持ちでしたか?

 日本関連の映画を見たことがある人なら、誰でもこの国に好奇心を抱くと思います。なんとなく異質なものを感じるんですよね。私の場合は『ベスト・キッド』(原題はThe Karate Kid、1984年製作のアメリカ映画で続編やリメイクもされている)を見たことがきっかけです。いつかこの国に行かなくてはいけない、と思いました。

--日本との関わりは20年以上になり、長いこと日本に住んでいらっしゃいます。最初に日本に来た理由は何だったのですか?

 日本に来たきっかけは、「おもてなし」に魅せられたからというわけではなく、実は武道でした。2002年に初めて東京に短期間ですが来まして、武神館(日本の古武術の道場)で学びました。武道のレベルが非常に高いので、上達したければやはり本場に来る必要があると思いました。

--武道とレストランの経営はいささか違いますが、日本で店を開こうと決断されたのはなぜでしょうか?

 稽古のために日本に住みたかったのですが、大学の学位がないとビザを取得するのが難しかったので、ビジネスのオーナーになることを考えました。そして、ニュージーランド産ワインの世界に足を踏み入れました。ニュージーランドは世界でもトップクラスのワインを造っているのに、日本ではそのことがほとんど知られていませんでした。

--店では日本酒も提供されています。もちろんこれは、ニュージーランド産ではないですよね。

 はい、もちろん違います。オーストラリアのシドニーにある日本食レストランで働いたことがありますが、とても多くの種類の日本酒を扱っていました。初めて本物の日本酒を味わったとき、酒造家に失礼がないように紹介するには、もっと知識が必要だと思いました。そこで次に日本を訪れた際に、いくつかの蔵元を訪ねました。その経験のつながりから、今に至ります。日本酒という素晴らしい酒と恋に落ちたようなものでした。

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シェネン氏はワインのソムリエであるとともに、ニュージーランド人として初めて上級日本酒プロフェッショナル(ASP)の資格を取得している。

--東京の他の店と比べたランギトト東京の特徴はなんでしょう。

 東京でニュージーランドのワインを専門に扱っている店は、片手で数えるほどしかありません。当店はそのひとつで、しかもワインは本物のワールドクラスです。これはまったく誇張ではありません。ブラインド・テイスティング(試飲の際に情報が隠された状態で行う)によるコンテストで常に入賞しているワインもあって、そうした銘柄を紹介することも当店の魅力だと思っています。

 当店ではサービスのスタイルも少し変わっています。「プレミアム・カジュアル」と呼んでいるのですが、格式張らないサービスながら、品質を高く設定しているのです。それに、シェフのトレバー・ブライスはこの業界では最高の経歴の持ち主です。ミシュランの星つきレストランで数十年の経験があるうえ、トップレベルの日本料理も学んで、他では味わえない料理を提供しています。

--「プレミアム・カジュアル」と日本のサービス文化の相性はいかがでしょうか?

 うまくいっていると思います。時に息苦しさを感じる社会において、解放感を提供しています。私たちが目指しているのは、東京でニュージーランドを感じてもらえるカジュアルなサービスです。初めのころは、戸惑っているお客様もいらっしゃいました。フォーマルなサービスを予想して来店したところ、私たちが入店した瞬間から友達のように接するからです。やがて、お客様も心を開いてくれました。高い地位にあるような方々が、大学を出たばかりの外国人の若者たちと打ち解けた会話を交わしているのは、とても素敵な光景です。当店では、誰もがありのままの自分でいられます。

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リラックスした雰囲気のある店内。カジュアルでありながら品質の高いサービスもお店の特徴のひとつだ。

--ビジネス拡大の計画があるとうかがいました。大変でしょうけれど、前へ進むのは楽しみでしょうね。

 コロナ禍の間に計画を進めました。素晴らしいシェフを見つけ、多くの準備を済ませました。今こそ私たちの仕事をもっとアピールする時だと思っています。

 ニュージーランドには文化的なソフトパワーがあります。私たちはワインと料理を通じて、そのパワーの一翼を担いたいのです。とてもやりがいのある計画です。信念をもってやっていますし、今後もうまくやれると確信しています。

--日々の生活に息苦しさを感じることもあると思いますが、ご自分のワークライフバランスはどう管理されていますか?

 サービス業に携わっていると、その点はなかなか難しいため、優先順位をしっかり決めています。オーナーとして営業時間を決める自由は多少ありますが、当然ながらビジネスを維持していく責任があるので、好き勝手にはできません。それに今は生まれたばかりの息子がいますので、自分の武道の稽古よりも優先するのはもちろん、息子です。それが私の優先順位です。

--他の国にはない、日本の良さとは何でしょうか?

 チャンスですね。ニュージーランドに関して言えば、日本には未開拓の市場があります。ワインの需要は高いのに、ニュージーランド産についてはあまり知られていない。この溝はとても大きいので、それを埋めるために力になれればと思っています。ニュージーランドの人口は、新宿駅で乗り降りする人の2日分より少ないんです。日本の持つ可能性には驚かされます。

--東京への移住を考えている人に、伝えたいことはありますか?

 まず来てみてください。東京は言われているほど同質的な場所ではありません。銀座に当てはまることが池袋にも当てはまるとは限らないでしょう。経験することがとても大事です。そして、もちろん日本語を勉強しておきましょう。コミュニケーション能力が高いほど、物事はうまくいきます。

ランギトト東京 https://ja.rangitototokyo.com/
取材・文/スレイマン・アジジ
写真/ケイシー・ホーマー
翻訳/森田浩之

*本記事は、「Metropolis(メトロポリス)」(2023年6月22日公開)の提供記事です。