日本の里山文化を発信し続ける料理人

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 森と海に囲まれた日本では、人と自然が寄り添い共存しながら「里山」という文化を形成してきた。東京で20年間、既存の料理ジャンルにとらわれずに独創的な料理を生み出し、世界のファンを魅了してきた成澤由浩氏の原点は里山だ。「イノベーティブ里山キュイジーヌ」を発信する成澤氏に、食と自然について伺った。
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日本の里山を表現したひと皿は、NARISAWAを象徴する料理。杉と楢の木から抽出したエッセンスを使っている。

料理を通じて社会問題へアプローチ

 削り出した木の皿の上に土や苔、枝をイメージした料理で里山の風景を表現する成澤氏。そこには日本人が培ってきた里山への敬意が込められている。東京の人気レストランとして不動の地位を築いているが、20年以上森や海へ自ら足を運び、生産者との対話を続けている。「森も海も自然を守ることイコール何もせず放置することだと思っている人も多いのですが、それは違います。適切な方法で手を加え、継続して保護していかなければ自然環境はどんどん悪化していきます」

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毎日森に入って食材を採り調理する長野県のある料理人(右)。成澤氏が師と仰ぎ、20年以上の付き合いがある。

 日々調理場で食材を扱う成澤氏は、自然環境の変化を肌で感じているという。「環境の悪化によって採れなくなってしまった食材は多くあります。なかでも海産物はとくに環境に左右されやすいので、去年の同時期に採れたものが今年は全く採れないというケースも多い。一度環境バランスが崩れてしまうとなかなか元には戻りません。森から運ばれる水に含まれる栄養分が川や海に流れるのですから、自然はすべて循環しているのです」

 里山を料理で表現することを20年近く続けてきた。「里山とは、人と自然が密接な関係を保ちながら生活している場所のこと。自然との関わり方にはさまざまな形があり、工芸や生活様式そのものも里山の文化だと言えます。人にも自然にも負担の少ない里山文化について、たくさんの人々に知ってもらいたい。僕は料理人なので、料理という表現方法を用いてそれを伝えています。生産者の方々と常に連絡を取り合い、長いお付き合いを続けています。現地の近況や、新しい食材を教えてもらうこともあります」

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手毬を色鮮やかな根菜類で再現。遊び道具にも美を追求した日本の伝統文化へのオマージュだ。

 海外のシェフとの交流も積極的に行っている。「スペインのバスク州政府が創設したバスク・クリナリー・ワールド・プライズでは、食を取り巻くさまざまな社会問題について毎年世界中のトップシェフが一堂に会して議論し、新進のシェフを表彰する取り組みを行っています。今年は日本での開催となり、NARISAWAがホストとして世界各国から来日したシェフを迎えました。住む国は違っても問題解決に向けて努力し行動している多くの料理人がいることを実感し、それが自分を奮い立たせてくれます」

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富山県で開催されたバスク・クリナリー・ワールドプライズで、国際顧問のシェフたちと意見を交わす成澤氏(奥から5人目)。

 四季を通じて織りなされる自然のリズム、そこに生息する動物や植物の生態系、自然の素材を用いた工芸品‥‥成澤氏は現代人が見落としてきた考え方や知識を、料理を通して国内外に発信したいと考え続けている。「NARISAWAでは北海道から沖縄まで日本中の素晴らしい旬の食材をお楽しみいただけます。世界中から人が集まる東京で、より広く日本の魅力を知ってもらえれば嬉しいです」。東京のレストランから日本の里山を発信することが大事だと成澤氏は考える。世界に開かれた東京が、里山という日本の魅力を共有する拠点になっているといえそうだ。

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青山にあるレストランNARISAWAでは唯一無二の食体験ができる。

成澤由浩

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1969年愛知県生まれ。ヨーロッパで8年間修行後、小田原にレストランを開業。2003年に青山に移転し、11年より店名を「NARISAWA」とする。ワールド50ベストレストランでは09年から14年間連続で受賞し、世界からも高い評価を受けている。
取材・文/久保寺潤子
写真提供/NARISAWA