江戸団扇が伝える「粋」の文化     

 伊場仙が制作する、江戸時代に隆盛した浮世絵を用いた江戸団扇(うちわ)は、日用品としてはもちろん、飾るアートとしても人気の逸品だ。
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カラフルで様々なデザインのラインナップがある江戸団扇。

江戸時代から変わらぬ技法で作られる逸品

 東京には、江戸時代から続く企業が現在も3,000社以上あり、伝統工芸を継承する職人を有する。東京都は、"Old meets New"をコンセプトに、確かな品質と受け継がれてきた美しさはもちろん、現代のライフスタイルに合わせた取り組みを行う企業を「江戸東京きらりプロジェクト」として紹介している。2022年度は、1590年に創業し、団扇や扇子の老舗でありながら、デジタル技術を活かしてNFT化した浮世絵を海外展開する、伊場仙が選出された。300年以上続く技法を活かした伊場仙の江戸団扇は、観光客からの人気が高い。

 「私たちの祖先が団扇の製造を始めたのは1700年代、江戸時代中期のことでした」と話すのは、伊場仙第14代当主の吉田誠男氏。初代の伊場屋勘左衛門は、徳川家康から土木工事を請け負っていたため、家康の江戸入府に伴って遠州伊場村(現在の静岡県浜松市中区東伊場町付近)から江戸に移り住んだ。家康の江戸幕府開府後(1603年)には、和紙の材料を取り扱う商売を始め、幕府に納める御用商人となった。

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伊場仙14代目の吉田誠男氏。

 「その後、1700年代に竹と和紙を使って団扇の制作を始めるようになりました。そこで作る団扇がのちに江戸団扇と呼ばれるようになったのです」と吉田氏。1本の竹を裂いて、団扇の面を形づくり、柄(え)、つまり持ち手の部分を仕立てるのが、江戸団扇の大きな特徴だ。「江戸団扇は涼むだけではなく、炊事に使うなど、日常生活の道具として大量生産、大量販売されていたものなので、コストがかからないように1本の竹で作られるようになったのです」

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現在も、江戸時代と同じ技法と素材で、1本ずつすべて手作りで仕立てている。

 江戸時代後期に、木版技術が発達して団扇絵の大量生産が可能になると、団扇にも浮世絵や、人気の歌舞伎役者を描いた役者絵をあしらったものが登場した。伊場仙でも、著名な浮世絵師の絵を本格的に団扇に取り入れるようになり、版元団扇商として江戸城に出入りするようになった。

デジタル技術を活用し、浮世絵を海外へ

 今も浮世絵の版元としても知られている伊場仙は、2012年には日本橋の店舗横に浮世絵ミュージアムをオープンし、浮世絵柄の江戸団扇や版木などを展示して、江戸文化の発信に力を入れている。さらに、2023年6月にはメタバース上にメタバース浮世絵美術館を完成させ、NFTの技術を使った浮世絵の販売などにも挑戦している。

 「海外には浮世絵や江戸の文化に興味を持っている方がたくさんいらっしゃいます。江戸の伝統美を守り、商売だけでなく伝えていくことも自分たちの役目だと思っていますので、将来はより一層デジタル技術を活用していきたいですね」

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2023年6月にオープンしたメタバース浮世絵美術館。
江戸東京きらりプロジェクト
https://edotokyokirari.jp

取材・文/牧野容子
写真/澁木稜