『TOKYO VICE』アラン・プール監督が語る、ロケ地・東京の引力
半世紀前に交換留学生として訪日して以来日本との絆を維持し、ハリウッドでプロデューサー、監督として活躍するアラン・プール氏。最新プロジェクトは、東京で全編撮影されたドラマ『TOKYO VICE』だ。ロケ地としての東京について聞いた。
--『TOKYO VICE』シーズン1は世界的な大ヒットを博しメディアに賞賛されました。なぜだと思いますか?
かねてから若者たちを中心に、マンガやアニメを介して日本への関心が世界的に高まっていました。それがここにきて、日本の文化全般にまで広がってきたことが関係しているのでしょう。人々が『TOKYO VICE』に惹かれる理由は、キャラクターにもあります。他の同種のドラマに比べて非常にリアルで、素晴らしい日本人俳優たちが命を吹き込み、日本でも反響を呼んだ。私はこのドラマを製作する目標のひとつに、オーセンティックな形で日本を表現することを掲げていましたから、多くの日本人視聴者にも評価されたことを誇りに感じています。
--ドラマの舞台である東京の面白さはどこにあるのでしょう?
簡潔に言うと、"東京はうまく機能している"という点ですね。私が過去に訪れたり、暮らしたりしたことがあるどの町とも異なる形で機能していて、混沌としていながらスムースかつ時間通りに物事が進む。それは、人々が互いを尊重し合い、越えてはならない一線を心得ているからだと思います。また東京の人々は見知らぬ人と関わることに消極的ではあるものの、礼儀正しさや人をもてなすことへのこだわりにおいては、私が知る他のどの街にも遥かに勝っています。
--シーズン2の撮影開始にあたって東京都の小池百合子知事と対面されました。
シーズン1はコロナ禍での撮影でした。そんな時期に大勢のガイジンがやってきても歓迎されませんし(笑)、完全なアウトサイダーが東京でTVドラマを制作するというのですから、当時はやや訝しまれていたかもしれません。でも皆さんがシーズン1を観てくれたことで状況は大きく変わり、我々はVIPであるかのような待遇を受けられるようになりました。このような変化をもたらすカギを握っていたのが、小池知事です。知事は我々を歓迎してくださって、ロケ撮影の支援も得ることができました。もうひとりの重要な友が、撮影現場にも足を運んでくださったラーム・エマニュエル駐日米国大使です。そうした力強いサポートを得たことで、街の人々が我々を受け入れてくれたと実感できたんです。
--アランさんは1989年公開の映画『ブラック・レイン』でもアソシエイト・プロデューサーを務められたとか。
『ブラック・レイン』は、日本ロケを行なったハリウッド映画としては当時最大規模の作品で、素晴らしい映画なんですが、まだジャパン・フィルム・コミッション(官民の連携を通じた日本の映像環境の発展を目的に設立された団体)が設立されておらず、撮影は困難を極めました。制作側と日本側の板挟みになって苦しい立場に置かれたものです。また松田優作さんと非常に親しくなった私は、病状が悪化していた彼の体調に気を配る必要があり、そばで見ているのが本当に辛い状況でした。『TOKYO VICE』には優作さんの妻・松田美由紀さんに出演してもらっていますが、美由紀さんを起用することで、『ブラック・レイン』と『TOKYO VICE』の間に接点をつくりたかったんです。
--シーズン2ではどんな東京が観られるのでしょう?
今回は警視庁の協力を得て、日本の映画制作会社でも非常に許可が取りにくい公道でのアクション・シーンを撮影することができました。『TOKYO VICE』のシーズン2は、東京で円滑に撮影を行なうための自治体や警察との連携という点で、ひとつのお手本を示せるのではないでしょうか。また、寺を舞台にしたり、日本の伝統に触れたりするようなシーンも多く、より広い角度から東京を描いています。シーズン1でもアメリカやヨーロッパの視聴者の方々は東京の風景に驚いたはずですが、さらにスケールアップした、素晴らしいドラマになるはずですよ。
『TOKYO VICE』(HBO MaxとWOWOWの共同制作)は、2024年春よりシーズン2が放送される。
映像は『TOKYO VICE』シーズン1の予告編。