「一丁倫敦」に見る、グローバル金融都市・東京の起源

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 日本有数のビジネス街として知られる、東京・丸の内。明治期に開発の進んだエリアだが、当初モデルとされたのはロンドンの金融街だ。完成後、ロンドンを彷彿とさせるその街並みは「一丁倫敦」とも呼ばれた。
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イギリス人建築家が設計した赤レンガ造りの三菱一号館。1894年に丸の内に開館した。Photo courtesy of 三菱地所

 アジア、ヨーロッパそれぞれの大陸の端に位置する島国の首都、東京とロンドン。ともに国際的に強い影響力を持つ大都市で、金融の中心地でもある。国際的なつながりが増す中で、変化に富む経済と金融の激動に立ち向かいつつ、東京とロンドンはさらなる発展を目指して連携を一層深めてきた。

 1590年に武将、徳川家康が拠点を構えたことで、漁村だった江戸の運命は一変。家康がのちに天下統一を果たし、武家を頂点とする江戸幕府を開いた結果、ほんの1世紀ほどで人口にして百万人を数える当時としては世界有数の大都市となった。

新しい時代、新たな金融市場

 1868年、明治政府の誕生で武士の時代は終わり、江戸は「東の首都」を意味する東京に改称。幕府の債務を引き継いだ明治政府は当初、元武士である士族に年金を支給することとした。ただ、発足当初で資金に余裕もなかった政府は、公債での一時払いへ方針転換する(秩禄処分)。こうした公債の取引が拡大し、1878年に東京株式取引所(現在の東京証券取引所)の開設、そして日本の金融市場の誕生へとつながっていく。

 東京証券取引所が設立された兜町のすぐ西、現在の東京駅をはさんだ先にある丸の内地区は、かつて江戸城と大名屋敷のあった場所だ。1890年に丸の内は政府の要請で三菱社が買収。当時は寂れた草地だったが、程なくして賑やかなビジネス地区へと発展する。

東京とロンドン、二つの金融都市の物語

 イギリスの建築家ジョサイア・コンドルが設計した赤レンガ造りの三菱一号館(1894年開業)は、丸の内地区の最初のオフィスビルだった。三菱社の掲げた、ロンドンやニューヨークに匹敵するビジネス街を作り上げるというミッションに沿って、丸の内には赤レンガの建物が次々に建設されていく。1911年までに一つの通りに13棟の赤レンガの建物が並び、この地区は「一丁倫敦」と呼ばれるようになった。丁は約100メートルのこと。つまり、100メートルにわたるロンドン風の街並みが丸の内に出現したのだ。

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2010年に開館した三菱一号館美術館は、1894年開業の三菱一号館を復元したものだ。Photo: iStock

 ロンドン自体は、約2000年前にローマ人の定住地として歴史が始まった。その数世紀後に築かれ、今も一部は現存する防御壁が、金融街「シティ・オブ・ロンドン(シティ)」の位置を示す基準となっている。「シティ」はロンドン内における一種の「都市内の都市」であり、金融センターとしての役割を担ってきた。17世紀に起源をもつロイズ保険組合、イングランド銀行、ロンドン証券取引所というシティの3機関は、今も金融の要として君臨する。

 19世紀には、ロンドンは元々のシティを遥かに超える規模へと拡大。国際貿易取引の過半数が英ポンド経由となったことで、ロンドンは世界経済のハブへと変貌した。

 一方の丸の内は、20世紀に入ると東京駅の開業やアメリカ式建築の近代的ビルが増えたことで行幸通り周辺が発展、急速に拡大。新興のオフィススペースが引力となって、多くの大企業が丸の内エリアに集結した。高度成長期の1960年代から80年代にかけて、丸の内エリアが増大する国内総生産(GDP)の一翼を担う存在となった。

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1990年代初頭にバブル経済が崩壊し日本の成長は鈍化したものの、今でも東京は世界で最も豊かな都市圏のひとつだ。多くの大企業が本拠地を構える。Photo: iStock

未来へとつながる協働関係へ

 東京都は2017年、日本の首都の競争力と魅力を高める「国際金融都市:東京」構想の推進と、ロンドンと2都市間での深い協力関係の構築に向けた合意書を発表した。それ以来、両都市は金融、フィンテック、グリーンファイナンスといった分野のセミナーを継続して共催し、グローバル経済や市場で現在進行中の変化に先んじていくことを目指している。

 両都市の開発も引き続き急ピッチで進む。三菱地所は、丸の内を隣接する大手町や有楽町エリアとともに再活性化中だ。100年先の未来を見据えた街の創出を進める。一方、シティには最新のランドマークとして、超高層ビル「8 Bishopsgate」がお目見えしている。これは三菱地所が2023年6月に竣工した、これまでで同社最大となる海外プロジェクトだ。

 新たな、ときに予想外の課題も次々と現れるなど、世界は急速に変化している。そのような中で東京とロンドンは、今後数世紀にわたる繁栄とクオリティ・オブ・ライフを確実なものとすべく、結びつきを強めながらともに歩んでいく。

文/ギャビン・ブレア
翻訳/安藤智彦