日本で羽ばたくアメリカ出身の漫画アーティスト

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 アニメ風の美少女や非道なシーン、熾烈な日本のエンターテインメント業界......、これらは漫画アーティストである"かたや・りにあ(Linnea Kataja)"が生み出す作品のテーマや設定の一部だ。ニューヨーク出身の彼女は現在東京に住むフリーイラストレーターで、全世界で数十万ビューが閲覧されたWeb漫画『アイドル・ロワイアル(Idol Royale)』の作者でもある。
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『アイドル・ロワイアル』のコンセプトは、2020年のコロナ禍に練ったという。

 物心ついた時には絵を描いていたというかたやは、すぐに漫画に興味を抱くようになった。

 「幼い頃からカートゥーン(アメリカの漫画)のキャラクターを描くのが大好きでした。でもそのうち、日本の漫画のスタイルにどんどん惹かれていったのです。描けば描くほど魅了されました」と、述べている。

 日本にいなければプロの漫画家を目指すのは不可能だと、当初は思っていたと言う。だがその後、作品発表の手段としてSNSが花開いた。

 「ラッキーだったと思います。大学を卒業する頃にはSNSが大流行していて、私も自作のアートをInstagramに投稿しながら、フォロワー数を増やしていきました。子ども時代には存在さえしなかったSNSのプラットフォームを通じて、仕事の依頼まで届くようになったのです」と話す。

スタイルの確立:愛らしいアイドルとホラーの融合

 『東京ミュウミュウ』や『カードキャプターさくら』などの、いわゆる"魔法少女もの"の少女漫画がインスピレーションの源泉だと彼女は言う。漫画におけるストーリーテリングやファッションについては『Paradise Kiss』や『NANA』といった矢沢あい作品から影響を受けた。また、すえのぶけいこのファンでもあり、いじめや自傷などのシリアスなテーマをどう扱い表現するかを、すえのぶ作品を通じて学んだという。

 少女を主人公にした恋愛ものや変身ヒロインを描いた冒険ものなどが、少女漫画の代表的なジャンルだ。大きな目をした感情豊かな登場人物といった特徴もある。

 愛くるしいキャラクターと恐ろしいホラーとの融合が、現在のかたやを象徴する作風だ。彼女のWeb漫画『アイドル・ロワイアル』には、それが色濃く反映されている。カルトクラシックの小説『バトル・ロワイアル』にも通じる本作だが、未来のトップアイドルを目指して死闘を繰り広げる少女たちの物語だ。

IdolRoyale_012-1-1600x2263.jpg『アイドル・ロワイアル』より

 「『アイドル・ロワイアル』は私がずっと取り組んできた個人的なプロジェクトです。2020年は家で過ごす時間がたっぷりあったから、その間にコンセプトを練りました。キュートなイメージとダークな設定の組み合わせが私は好きなので、アイドルとホラーを掛け合わせたら面白いのではないかと考えたのです」

 かたやが日本にやって来てからというもの、漫画やイラストの分野で仕事の依頼を受ける機会が激増した。コミックマーケット(日本で開催されている同人誌即売会。通称コミケ)のような、独立系作家たちのためのイベントもある。

 「以前はアニメコンベンション(欧米圏で主にファン組織によって催されているアニメイベント)に作品を出していたのですが、大変でした」と彼女は言う。「自費出版の作品がなかなか評価されないからです。人気アニメやゲームのファンアートが中心のイベントなのですが、初めて参加したコミックマーケットでは、ほぼ無名だったにもかかわらず、なんと完売してしまったのです」

インディーズ作家として活動しながら、出版を目指す

 インディーズ作家であるかたやは、日本の伝統的な出版業界とはほとんど関わりなく活動している。WEBTOON(ウェブトゥーン)やLINEマンガといったオンライン出版が台頭したおかげで、いまでは数多くの作家たちがインディペンデントな活動を展開しやすくなったのだ。日本での出版を夢見ているかたやだが、独立系の日本人作家たちとの交流が生まれてからは特に、フリーランスという立場にも幸せを感じているという。

 「コミックマーケットでは、ちょっと年上の女性たちのサークルが隣のブースだったのですが、彼女たちも完全にインディペンデントかつフルタイムで活動していると言っていました。同人誌の作家さんたちでしたが、出版社から出すことには興味がないとのことでした。漫画業界には想像していたよりも多くの女性たちがいると知って、大きな刺激を受けました」と振り返る。

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今やメインストリームになった漫画だが「もっと高く評価されてほしい」とかたやは言う。

 フリーランスとして生活できるようになるのに5年ほどを要した、と彼女は言う。その経験から、これからこの道を目指す人々へ向けた彼女からのアドバイスは、忍耐力を持つことだ。

 「フリーランスの作家としてまず苦労するのが顧客を得ることです。そして、もしその後に依頼がたくさん届くようになったとしても、同時に引き受け過ぎてしまうと、もてあまして燃え尽きてしまいかねません」

 SNSの重要度は高く、疎かにすることはできないと言う。セルフマーケティングの方法を試行錯誤することも、技術を高めていくのと同様に大切なのだ。彼女はTwitter(X)とInstagramとTikTokで平行して自作を紹介しながら、制作の舞台裏も披露している。

 かたやの当面の目標は、活動をより発展させることと、より多くのイベントに参加することでネットワークを広げ、作品の露出を増やしていくことだという。その他、ゲームやアートのストリーミング配信を復活させるなど、いくつかのプロジェクトも視野に入れている。漫画やアニメの人気はすでに国際的なものとなり、もはやメインストリームだと言えるだろう。さらに、テクノロジーの進化のおかげで、彼女のようなアーティストたちがグローバルなコミュニティと直接オンラインで繋がることができるようになった。

 「漫画がもっと高く評価されるようになってほしい」というのが彼女の希望だ。「私の育った当時のアメリカでは、漫画はとてもニッチでした。それがいまではインターネットやストリーミングサービスのおかげでアニメが身近なものになり、すっかり主流になったのです」

かたや・りにあ(Instagram)

https://www.instagram.com/keikokup/
※本稿は『Tokyo Weekender』(2023年8月30日)に掲載されたものです。

取材・文/サマンサ・ロウ
写真/リサ・ナイト
翻訳/飯島英治