高尾の森自然学校が地域とともに取り組む、森の再生

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 東京都八王子市の住宅地に囲まれた高尾の森自然学校。時代の変化により荒廃していた森は、地域住民と企業、行政のつながりによって生まれ変わろうとしている。
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八王子市川町の高尾の森自然学校。管理棟は、森林の成長過程で密集化する木々を間引いた際の間伐材で建てられた。

住宅地の隣に広がる、広大な森

 大都市のイメージが強い東京だが、実は総面積の4割近くが森林で、そのうち約7割の森が多摩地域西部に広がっている。そんな緑豊かな多摩地域にある高尾の森自然学校は、東京都と一般社団法人セブン-イレブン記念財団の協働事業として、2015年に開校した。東京都が民間団体と協力して設置した初の環境体験施設だ。近隣の森林を守り育むことで、低炭素社会の実現に寄与すること、希少動植物の保護・保全活動を通し、生物多様性を守るとともに、地域の自然、歴史、文化を次世代に継承していく人材を育てることを活動の目的としている。また、都有地を活用した住宅地に囲まれた森の広さは、約26.5ヘクタールにもなる。

 運営を担う同記念財団は、セブン-イレブン店舗に寄せられた募金などを活用し、全国で環境保全や災害復興などに取り組んでいる。

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散策路の柵は体験プログラムで小学生が作ったもの。近隣住民らがハイキングや自然観察を楽しんでいる。

「明るい森」化で進む生物の多様性

 自然学校の活動でメインとなるのが森林整備だ。かつては薪となる木材を採取するための薪炭林として利用されていた高尾周辺の森だが、高度経済成長期における石油や天然ガスへのエネルギー改革以降、荒れた状態となった。現在は月に2回、ボランティアを募って間伐や下草刈りを行っている。

 高尾の森自然学校代表の梶浦正人氏は「日本の多くの森は長年、放置され年老いている状態です。間伐や植樹など手入れをして若返らせて、循環を促すことが大切なのです。若木は二酸化炭素をよく吸収するんですよ」と説明する。

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梶浦正人代表は、元はセブン&アイグループ内の事業会社で、CSR推進部門を担当していた。

 間伐よって日光が届く「明るい森」となり、多様な植物が育つ。また、動物や鳥にとっても見通しがよく獲物を見つけやすくなる。自然学校で実施しているモニタリング調査では、希少動植物が新たに確認され、開校前より生物の多様化が進んでいるという。

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ボランティアを募っての森林整備活動の継続により、森は少しずつ再生している。

 高尾の森自然学校では、多彩な自然体験プログラムを通して、地域へ自然の大切さを学ぶ機会を提供している。子どもたちに大人気の季節の昆虫や野鳥の観察会をはじめ、間伐材を使ったクラフトワークショップ、数百人が訪れる地元中学校吹奏楽部やミュージシャンを招いた森の音楽祭などを開催。中でも、自然学校内の水源地から川を経て、海へと水の流れを追うことで自然のつながりを学ぶ計3日間の連続プログラムは、人気を博している。

 「毎年同じ内容のプログラムを続けるのではなく、質を上げていきたいです」と梶浦氏。スタッフは梶浦氏を含めて4人。生物多様性や樹木を専門にしていたり、全国の環境団体とのネットワークを持っていたりと、それぞれの得意分野を活かし、知恵をしぼって企画を考えている。

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季節ごとの動植物の観察会には、多くの親子連れが参加している。Photo; courtesy of 高尾の森自然学校

地域とともに豊かな自然を未来へ

 開校から9年近く経ち、地域とのつながりも深まっている。限られたスタッフで運営しているが、近隣住民がイベントの補助を自ら買って出ることもあるという。「昆虫にとても詳しかったり、庭づくりに知見があったり、地域のスペシャリストの力を借りながら運営しています」と梶浦氏は話す。

 2021年からは、周辺の小中学校の受け入れ事業に注力。授業の一環として、児童・生徒を招いて森づくりの大切さを伝えており、その評判は口コミで他の学校にも広がっている。2023年度は、大学を含めて18校1,140人の参加を見込んでいて、梶浦氏はその広がりに手応えを感じている。「授業を通じて近所の子どもたちに自然学校へ足を運んでもらうことで、また保護者と一緒に遊びに来てくれたり、イベントに参加してくれたり、自然学校の存在を地域に知ってもらえていると思います」

 「100年後、日本本来の美しい森に再生し、次世代に引き継ぐ」。高尾の森自然学校は、大きなビジョンを掲げながら、地域とともに東京の未来へのバトンを繋いでいる。

高尾の森自然学校

https://www.7midori.org/takao/

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東京都は、100年先を見据えた"みどりと生きるまちづくり"をコンセプトに、東京の緑を「守る」「育てる」「活かす」取組を進めています。
森林循環や生物多様性の拠点形成、地域の方々と協働した緑化活動などを通して、「自然と調和した持続可能な都市」への進化を目指しています。
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basic-plan/tokyo-greenbiz-advisoryboard

取材・文/一ノ瀬 伸
写真/岡庭璃子