2024年を生き抜いたプレーヤーが、Web3.0の未来を握る

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 ブロックチェーン技術を柱に、特定のプラットフォーマーに依存しない、分散化の度合いを強めたインターネットを指す概念として注目される「Web3.0」(ウェブスリー)。日本発のパブリック・ブロックチェーンAstar Networkの創設者で、Web3.0の先駆者の一人渡辺創太氏に、トレンドや今後の展望を聞いた。
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Astar Networkのファウンダー、渡辺創太氏。

 この数年、渡辺氏は日本とシンガポールの二拠点を行き来する生活を続けている。Astar Networkの開発拠点や自らCEOを務めるWeb3.0関連の事業会社Startale Labsの本社機能があるシンガポールで1年の大半を過ごすという。「日本からアジアへ、そして世界へと打って出ていくにあたり、今はシンガポールという場所は一番都合がいいんです。起業関連の仕組みも整っていますし。でもいずれは、東京へ拠点を移したい。少しずつ起業環境も整備されていくでしょうし、自分としても生まれ育った国に貢献したい思いが強いですから」

 インターネットのあり方を大きく変えると目されているWeb3.0。2019年に起業した渡辺氏だが、それから5年となる2024年が勝負の年になると見ている。「グーグルやアマゾンなど、今のインターネット、つまりWeb2.0のデファクトスタンダード(業界標準)を作ったメインプレーヤーたちが出てきた2000年ごろの状況に、今のWeb3.0を取り巻く環境は似てきていると感じます。2024年を生き抜いたプレーヤーが、Web3.0の今後を握っていくことになるのではないかと思います」

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アジア最大級のWeb3.0サミット「Token 2049 Singapore」で講演する渡辺氏。

 そして、ソフトウエアやサービスインフラを手がける日本勢にとっても「ラストチャンスになる」と渡辺氏は言う。

 「ハードウエアの世界では戦後、トヨタ自動車やソニーなど、世界を代表する存在になった企業がいくつもありました。一方で、ソフトウェアやインターネット関連ではそうなりませんでしたし、ほぼアメリカ一強のような状況が続いています。幸い、Web3.0ではアメリカ勢が出遅れていて、どの国にも地域にもチャンスがあります。この領域なら、『令和のトヨタ』『令和のソニー』を生み出しうるし、日本にはそのポテンシャルもあるはずです。ただし、これが少なくともインターネット関連ではラストチャンスになるんじゃないでしょうか」

「Web3.0界の大谷翔平」を目指す渡辺氏の挑戦

 起業家である渡辺氏にとって、Web3.0は起業を目指す若者に対して「道」を示す機会にもなるという。

 「たとえばアメリカのテック業界を牽引している起業家だと、30代40代が多いですし、イーロン・マスク氏でさえまだ50代です。一方、日本では若い世代のロールモデルたりえる存在が出てきていない印象があります。私が尊敬する孫正義さんは60代ですが、やはりここまで世代が離れるとお手本としてのリアリティがなくなってしまいます。20代で起業した自分のような人間が、まずはブロックチェーンの領域で世界トップ10に入ることで、『自分たちもできるんだ』と思ってもらえるように、先陣を切っていきたいと思います」

 さらに、自身の働き方も、扱う技術やサービスも「国境が溶けている」と渡辺氏は表現する。「19ヵ国からメンバーが参加して開発・運用しているAstar Networkのように、Web3.0はこれまで以上に世界中からリソースを集める戦いだと思っています。資金ならアメリカと中国、人材ならコストパフォーマンスに秀でる東欧、規制面の環境がよくユースケース(成功事例)を作りやすいのはアジア、といった具合です。僕は日本の地の利を生かしてもっとユースケースを作り、日本の良さをもっともっと知らしめたい気持ちもあります」

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日本滞在の合間を縫って、Web3.0と日本のこれからについて熱い想いを語ってくれた。

 そんな日本への思いも強いだけに、その現状に対して忸怩(じくじ)たる思いもある。

 「起業環境の構築として、東京は先行して打つべき施策も次々に実行していると思います。ただ日本を、東京を世界に冠たる起業の場にしていくには、名刺代わりになる実績と、それを発信していく仕組みが不可欠です。小さな実績を積み重ねていくのではなく、それこそ『Web3.0の大谷翔平』的なインパクトのある企業やサービスを生み出す必要があります。同時に、東京の起業環境や現状の素晴らしさ、今後のロードマップなどをグローバルに発信してプレゼンスを高めていかねばなりません」

 そうした発信の場として、2024年春に開催される、世界中の最先端テクノロジーやアイデアが集う東京都主催のイベント「SusHi Tech Tokyo 2024」にも渡辺氏は期待を寄せる。

 「Web3.0にとっても節目となるであろう2024年にこうしたイベントが実施されるのは何か象徴的なものを感じます。私たちもStartale Labsとソニーネットワークコミュニケーションズで合弁で立ち上げたブロックチェーン関連の新会社が本格始動します。日本発で世界を動かすWebサービスが次々と動き出す、そんな1年にしたいと思っています」

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Astar Networkが、2024年第1四半期にローンチ予定の新サービス「Astar zkEVM Powered by Polygon」。そのメインネットローンチに際して、参加ユーザーがAstar zkEVMに参画するプロジェクトについて理解を深めつつ、日本文化の世界観を楽しめるNFTキャンペーンの開催を予定している。

渡辺創太

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日本発のパブリックブロックチェーンAstar Networkファウンダー。Startale Labs CEO。Next Web Capital、博報堂key3ファウンダー。日本ブロックチェーン協会理事や丸井グループ、GMO AI & Web3、電通 web3 Clubなどのアドバイザーを務める。2022年Forbes誌の選出するテクノロジー部門「30 Under 30 Asia(アジアの30歳以下の30人)」、2023年Newsweekの「世界が尊敬する日本人100」に選出。

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Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyo は、最先端のテクノロジー、多彩なアイデアやデジタルノウハウによって、世界共通の都市課題を克服する「持続可能な新しい価値」を生み出す東京発のコンセプトです。
https://www.sushi-tech-tokyo2024.metro.tokyo.lg.jp/

取材・文/安藤智彦
写真/伊藤智美
画像提供/Astar Network