東京に残る豊かな自然の中で、気軽に里山体験

 かつて日本では暮らしの中で農林業が営まれており、美しい自然の風景を身近に感じていた。そこは「里山」と呼ばれ、多様な動植物が生息する場所でもあった。東京都では多摩地域を中心に広がる保全地域の自然の魅力を身近に体感でき、未経験者でも参加しやすい体験プログラム「里山へGO!」を2015年から展開している。
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横沢入(よこさわいり)里山保全地域での稲刈りの様子。周囲を雑木林に囲まれた田んぼは典型的な里山の風景だと言える。

子どもから高齢者、企業や学生まで充実の活動プログラム

 里山は山地、丘陵地、台地の3つの地形に分けることができる。例えば青梅上成木(かみなりき)森林環境保全地域の森林は雨を吸収して水源を保ち、川の流量を調整する水源林の役割をもつ。またあきる野市にある横沢入里山保全地域のように小さな山や丘が緩やかに続く地域には、田んぼや畑、それを取り囲む雑木林が残っている。一方、住宅地のすぐ近くにある国分寺姿見の池緑地保全地域は雑木林、サワラなどの針葉樹林や畑、果樹園などが構成する人々の暮らしと密接した武蔵野の景観が保全されている。

「東京には思ったより身近な場所に多くの自然が残されています。ライフスタイルの変化により都心部では自然と接する機会が減ってしまいましたが、都では良好な自然地や歴史的遺産と一体になった樹林などを『東京における自然の保護と回復に関する条例』に基づき、公有地や民有地の区別なく保全地域として指定しています」と、公益財団法人東京都環境公社の担当者は話す。都により指定された保全地域は土地の改変といった開発行為などが禁じられているが、放置しておくと荒廃が進むだけでなく、外来種生物の侵入などによって生態系が脅かされてしまう問題も抱えている。

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東久留米自然ふれあいボランティアの定例活動。作業をしながら野草の観察なども行っている。
 そこで里山へGO!では、雑木林の間伐や木陰にはえている草を手入れする下草刈り、田んぼでの作業、雑木林や湿地の手入れなどボランティアを中心に展開している。「現在、保全地域に指定されているのは50ヵ所で、そのうち39ヵ所で保全活動が行われています。活動の主体は各地域のボランティア団体ですが、年に40回程度『里山へGO!』体験プログラムの募集を行い、多くの方に保全活動にご参加いただいています」

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横沢入り里山保全地域での田植えの様子。体験プログラムは都心部からの参加者が多い。

 雑木林の下草刈りは地道な作業だが、地面が見えるようになって日光の当たる面積が増えることで環境が整えられる。また水田では、乾いた田んぼの土を掘り起こすことから始まり、田植えや雑草取り、稲刈りと1年をかけて作業することで農業の流れを知ることができる。「作業自体は地道なものですが、保全活動の良さや自然と共に人の暮らしが営まれていたということを実感してもらえるとうれしいですね。木や草を切って終わりではなく、それを薪にしたり道具を作ったりすることで、間伐材の活用など昔の暮らしの知恵を知ってもらうプログラムもご用意しています」

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八王子館町緑地保全地域にて、保全活動後に行われたクラフト体験の様子。木の枝や実を使ってリース作りに挑戦。

 「里山へGO!」の体験プログラムは初心者でも取り組みやすい作業が多いため、親子連れから高齢者まで参加者の幅は広い。これとは別に企業や大学がNPO法人および都と連携し、自然体験活動を行う「東京グリーンシップ・アクション」、「東京グリーン・キャンパス・プログラム」にも注目したい。「コロナ禍で活動は一時減少しましたが、2022年からは再び盛り上がりを見せています。東京グリーンシップ・アクションは、企業が取り組むSDGs活動や、社員研修に活用されています」。企業の活動で体験した人が後日家族と一緒に「里山へGO!」に参加するなど、さまざまな形で体験の機会が設けられている。

 保全地域では、ボランティアの活動団体が、行政では行き届かない下草刈りや間伐、希少種保護などの活動を行い、生物多様性保全において重要な役割を担っている。

 一方で、近年は高齢化による人手不足といった課題も抱えている。そこで2021年から新たに設置されたのが保全地域サポーターだ。「里山へGO!」などの緑地保全活動を経験した参加者の中で、特定の団体に属さず、様々な場所でさらに積極的に関わって知識やスキルを深めたい人は保全地域サポーターへの道も開かれている。「都心から比較的近い距離に豊かな自然があり、生物多様性が根付いているということを、より多くの人に知ってもらいたい。また、文化的にも里山などの地域の自然を次世代へ引き継いでもらうために、連携の輪を広げていきたいと思います」。長い年月をかけて人の手によって守られてきた里山の風景を現代に甦らせることは、東京に暮らす私たちができる身近なSDGs活動の一つといえるだろう。

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東京都は、100年先を見据えた"みどりと生きるまちづくり"をコンセプトに、東京の緑を「守る」「育てる」「活かす」取組を進めています。
森林循環や生物多様性の拠点形成、地域の方々と協働した緑化活動などを通して、「自然と調和した持続可能な都市」への進化を目指しています。
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取材・文/久保寺潤子
写真提供/公益財団法人 東京都環境公社
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