Tokyo Financial Award:
ナイロビの個人ドライバーを、 テクノロジー×融資でアシスト

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 東京都が主催する「東京金融賞」(2022年)の「ESG投資部門」で、グリーンファイナンス知事特別賞を獲得したHAKKI AFRICA。彼らが注力しているのは、ケニアの経済事情に寄り添ったマイクロファイナンス事業だ。
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Photo: Miaron Billy/Shutterstock.com

 失敗や間違いを恐れることは、近年の日本における起業やスタートアップを阻む文化的な背景の一つとしてよく挙げられる。しかし、そんな不安は、HAKKI AFRICA(ハッキ アフリカ)社の小林嶺司社長と、その共同創業者である時田浩司氏には当てはまらない。

 2人は2018年にナイロビの首都ケニアで会社を設立したあと(翌年には日本に持株会社を追加)、現地の市場をリサーチし、どのような事業ならうまくいくか検討を進めた。会社名は、スワヒリ語で「公正」を意味する「haki」と、日本のことわざ「七転び八起き」に由来し、彼らの諦めずに立ち上がる姿勢をあらわしている。

「実のところ、1年間で6つの事業をケニアで始めました。いずれも、2か月ほどで立ち上げたんです」と、小林氏は笑顔で話す。成功した事業もあれば、失敗した事業もあった。

 2人ともケニアには縁があり、関心を抱くきっかけとなった。時田氏は父の仕事の都合によりこの地で生まれており、また小林氏は20歳の時、バックパッカーとしてアフリカ大陸を横断する際に現地を訪れている。

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ナイロビのオフィスでのHAKKI AFRICAチーム。 Photo courtesy of HAKKI AFRICA

 2019年、HAKKI AFRICAは小・中規模企業に対するマイクロファイナンス事業を開始した。ところが、その3か月後に新型コロナウイルスによるパンデミックが発生。ケニア政府は救済のため、金融事業者に対して融資先への返済猶予を指示する。その結果、彼らの融資も焦げつき、マイクロファイナンス事業の資産価値は約60%減少してしまう。HAKKI AFRICAは、次の収益の柱を探す必要に迫られることになった。

収益確保への新たな道筋

「ケニアには、トヨタ製ハイエースを転用したバスがあります。元々ハイエースは8人乗りの乗用車ですが、13人あるいは15人乗りにカスタマイズして使われています。そのため、他の乗客との間隔がありません。パンデミックの際、人々は感染拡大につながるそうしたリスクを避けたがりました。だから、(不特定多数との接触を避けられる)タクシー需要がその時期に大幅に増加したのです」と小林氏は振り返る。

 パンデミックを背景にしたタクシー需要の増加に気づいたHAKKI AFRICAは、タクシー事業を営むドライバーに車の購入資金を融資する事業に活路を見出した。日本から超低金利で調達できる原資を、高金利での融資が常態化する開発途上国のケニアでの融資に使うものだ。金利差を「有効活用」する。中には他の金融会社よりも25%から35%低い金利で融資するケースもあるが、それでも成り立つビジネスモデルだ。現地のドライバーが購入する中古車そのものを融資の担保とする点も特徴的である。

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HAKKI AFRICAの融資で車を手にしたドライバー(現地の車両の90%は日本から輸入された中古車)。
Photo courtesy of HAKKI AFRICA

 この融資事業を持続可能にするポイントとして、信用価値の評価、詐欺の検知、支払いのモニタリング、そして実際の車両をトラッキングする技術がある。なかでも重要なのは、ケニアのGDPの40%相当が流れるとされるモバイル支払いプラットフォーム「M-Pesa(エムペサ)」との提携だ。

 借り主となるドライバーの同意を得て、HAKKI AFRICAが彼らのM-Pesa口座の取引明細を分析する。「これには多くのデータが含まれています。収支の安定性、賭博依存(ケニアではスポーツ賭博が盛ん。英国プレミアリーグは特に人気がある)の有無、不正な資金の兆候をチェックします」

GPSでも不正を検知

「それから、ジオフェンスシステムがあります。これは車両に取り付けたGPS端末で、バッテリーに接続されています。国境地域に近づくと、車を自動的に停止できます。誰かが車で国境を越えようとするのを防ぐための備えですね。ただし、3年間で1度も発生していませんが」と、小林氏。

 返済の不履行率はごくわずか。低く抑えられた運営コストにリーズナブルなマージンと、初年度から事業は黒字化を達成。30人以上の熱心で誠実な地元スタッフの努力もあって、会社は安定した経営を実現している。

 小林氏と時田氏はともにソフトウェア開発に明るく、タクシー向け融資だけでなくさまざまな新規事業用のアプリを自作してきた。

電動バイクへの展開、そして受賞へ

 2022年7月、同社はデリバリーワーカー向けに電動バイク用融資を開始した。これは、ケニアの二酸化炭素排出削減にもつながるものだ。ナイロビを拠点とする電動バイクメーカー、eBeeとの提携事業だが、これにより東京金融賞のESG投資部門での受賞に至った。

 HAKKI AFRICAが当初直面した問題の一つが、パンデミックの影響で日本からケニアへの渡航が難しかったことだ。事業の運営状況を現地で精査できず、日本の金融機関から融資を取り付けにくい状況となっていたのだ。東京金融賞の受賞は、事業の信頼性を後押しする形にもなった。

「受賞式で都知事とお会いした実績は、銀行との融資交渉で大変役に立ちました。北國銀行と日本のメガバンクの両方がナイロビにいらっしゃって私たちのビジネスを視察し、融資に同意したのです」

 現在、HAKKI AFRICAの融資先として、1,200人以上のタクシードライバーが登録されている。2023年10月には新たに15.8億円(1120万ドル)の資金調達が実現。小林氏らの率いるHAKKIチームはエジプト、南アフリカ、タンザニア、ウガンダ、ナイジェリアなど、ほかのアフリカ諸国への事業展開を目指している。そしていずれは、アフリカ大陸をも飛び出していくかもしれない。

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HAKKI AFRICAの共同創業者で社長の小林嶺司氏。
Photo courtesy of HAKKI AFRICA
東京金融賞:東京都が実施する東京金融賞は、金融イノベーション部門とESG投資部門で構成される。ESG投資部門では、ESG投資やSDGs経営において、優れた取組を実践している事業者を募集・表彰している。
https://www.finaward.metro.tokyo.lg.jp/
取材・文:ギャビン・ブレア
翻訳:安藤智彦