風と水素で未来をつくる。世界初の大型水素生産船を目指す
「ウインドハンタープロジェクト」は、株式会社商船三井と複数の企業や法人とともに進める巨大プロジェクトだ。目指しているのは、風力のみで航行する大型水素生産船。地球の表面積の7割以上を占める海(海水)からクリーンエネルギーである水素を創り出し、船上で貯蔵・保管を行う。さらに創り出した水素を燃料とし、二酸化炭素(CO2)を排出しないゼロエミッション船として航行。貯蔵した水素エネルギーを陸上に供給する水素サプライチェーンの構築を目指す。
船上で風力と海水から水素を生産することは、最先端の技術力を活かした世界初の取り組みになる。
長崎県大村湾でヨット「ウインズ丸」実験航行中
プロジェクトマネジャーである商船三井の島健太郎氏に話を聞いた。
「このプロジェクトを開始したのは2020年。2021年には、長崎県の大村湾で約12メートル長のヨット『ウインズ丸』に水電解装置などを搭載し、ウインドハンターのコンセプトの実証実験に成功しています」
ゼロエミッション船「ウインズ丸」の仕組みは、強風時には、帆で風を受けて船を推進。同時に水中にあるタービンで発電、船内の水電解装置に電源を投じて、水素を生産する。現在取り組んでいる実証実験として、これまでは水素の保管を水素吸蔵合金で行っていたが、大型化を見据えて、水素をメチルシクロヘキサン(MCH)に変換する。弱風時にはMCHから水素を取り出して、燃料電池で発電して燃料としても利用する取り組みだ。
実験を担当している長崎県佐世保市にあるスマートデザイン株式会社の代表取締役であり、ベテランのヨットマンでもある松尾晃氏はこう話す。
「搭載する機器は2トンを超えています。一般的にヨットにそれだけの重量のものを搭載することはないので、限られたスペースにおける機器の配置検討や搭載重量による船の安定性等を含めたエンジニアリング業務を当社の得意とする3D CADを使って検証を行いました。さらには、船の試験航行をさせる際の官庁への特殊検査や実際に船を大村湾内外で航行させた際、一度も事故を起こさずに安全運航を達成しました。商船三井さんが、本船を『ウインズ丸』と命名されていますが、その由来(*)もしっかりと実証できました」
*「ウインズ丸」船名由来
ウインズ: Wind (風)とWin(実証実験に成功する、勝つ)の複数形
丸:〇という文字は、スタート地点から丸く回って、終点は始点に戻る。実証実験を成功させて、無事に港に帰ってくるという意味を込めたもの
クリーンエネルギー水素を活用する未来を提案
2025年以降には、船長60~70メートル級の水素生産船を建造し、実証実験を開始、2030年には、大型水素生産船の建造を予定している。
本プロジェクトは、東京都が50年・100年先を見据えて、「自然」と「便利」が融合する持続可能な都市を構想する「東京ベイeSGプロジェクト」にも参画。「東京ベイeSGプロジェクト」では、「ウインズ丸」を東京湾というフィールドで、東京湾の風を水素に変換、貯蔵する。船内で貯めた水素エネルギーは東京都中央防波堤へ運搬し、陸上でのエネルギー向けの供給を行う。エネルギーの地産地消の実証実験と将来に向けた水素サプライチェーンの構築を目指す。
5月にウインズ丸が東京湾に来航、世界を変える?
2023年5月には米国のヒューストンで開催されたエネルギー産業や環境産業など多彩な企業が参加する国際展示会「OTC(Offshore Technology Conference)」に参加。海外企業からも注目を集めている。
さらに、2024年4月から5月にかけて開催される「SusHi Tech Tokyo 2024」では「ウインズ丸」が東京湾の中央防波堤に停泊し、来場者が体験できる展示も予定されている。「船内の見学などを通して、このプロジェクトへの理解を深めたい」と島氏。世界に先駆けた取り組みを自分の目で確かめられるチャンスになりそうだ。
ウインドハンタープロジェクト
https://www.mol.co.jp/bam/004Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyo は、最先端のテクノロジー、多彩なアイデアやデジタルノウハウによって、世界共通の都市課題を克服する「持続可能な新しい価値」を生み出す東京発のコンセプトです。
SusHi Tech Tokyo 2024:
https://www.sushi-tech-tokyo2024.metro.tokyo.lg.jp/
写真提供/株式会社商船三井