『和楽器でジブリ』、世代と国境超え和の音届ける7人組ユニット

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 1000年続く和の音を、1000年先まで伝えたい。日本の伝統楽器である和太鼓、三味線、箏(こと)、尺八、篠笛の邦楽家7名で編成するユニット「AUN J クラシック・オーケストラ 」が奏でる音楽は、第一級の古典技術を駆使しつつロックやR&B、バラードなどオリジナル楽曲で独自の世界観をつくり上げている。
 東京を中心に国内外で精力的にライブ活動を展開する彼らは、今年結成15周年を迎えた。和楽器の魅力、海外での反響を井上良平氏と山野安珠美(あずみ)氏に聞いた。
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AUN Jのメンバー。左から和太鼓の井上良平氏、箏(こと、十三弦)の山野安珠美氏、中棹(ちゅうざお)三味線の尾上秀樹氏、箏(こと、十七弦)の市川慎氏、尺八の石垣征山氏、篠笛の山田路子氏、津軽三味線の井上公平氏。

世界遺産、メジャーリーグ球場で史上初の演奏

 リーダー井上良平氏は双子の弟・公平氏とともに伝説の和太鼓グループ「鬼太鼓座(おんでこざ)」に18歳で飛び込んだ。以来12年、ニューヨークのカーネギーホールなど全米全州で公演し、30歳で双子ユニット「AUN」として独立。同じ頃、娘が生まれる。良平氏が言う。

 「娘に聞かせたかったんです、和楽器を。お父さんはこんな音楽をやっているんだよって」

 ならば、ジブリのアニメ映画の楽曲なら娘もなじんでくれるはず。どうせやるなら、一流の邦楽家たちとユニットを組もう。その呼びかけに5名が応じ、7名で結成されたのが「AUN J クラシック・オーケストラ」だった。

 リリースしたCD『和楽器でジブリ』は国内外で大きな反響を呼ぶ。当時、7種類もの和楽器で編成するユニットは前例がなかったが、ジブリ映画の世界観と和楽器の紡ぐ響きが絶妙にマッチした。

 この成功が2010年6月、フランスの世界遺産「モン・サン・ミッシェル」内での世界初ライブにつながる。

 「はたして僕らの和楽器の音が海外でウケるのか、感動してもらえるのか、不安だらけで大きなチャレンジでした」

 結果は、スタンディングオベーション。翌年から「世界遺産ツアー」と銘打ってイタリア、米国などで公演を重ねる。また2014年には、MLBチーム「ボストン・レッドソックス」の本拠地であるフェンウェイ・パーク球場で日本人ミュージシャンとして初めて、試合開始前に米国歌を演奏。大歓声が沸き起こった。

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フェンウェイ・パークで演奏するAUN Jのメンバー

「音楽には国境はないが、国籍はある」

 この活動を通して印象に残っている経験を伺ったところ、「ある国での公演後、駐在している日本大使から『われわれは数十年、この国の人に日本を好きになってもらおうと頑張ってきたけれど、君たちはそれを一晩で成し遂げてくれた。素晴らしい演奏だったとみんな言っている』と言われたことがありました。他の国のことを好きになる、これってすごく大切なことで、この気持ちが広がれば平和につながる。僕らの活動にも意義があると自覚できた経験です」と、良平氏は話した。

 山野氏も振り返る。

 「音楽って、言葉や文化の違いを超えて共通項を見出せるものだと思う。私たちが海外で得た経験を自分たちの音楽に生かし、それを日本の方々に届ける。私たちの経験、音楽を介して海外と日本との循環が生まれたら嬉しいです」

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西陣織のスーツを着用する良平氏(左)と山野氏。衣装にも和を意識している。

 海外公演で彼らが常に意識し、大切にしているのは、「音楽には国境はないが、国籍はある」というテーマ。AUN Jのオリジナル楽曲には、桜や古都など日本独自のイメージにインスピレーションを受けた曲も多く、民謡や童謡を現代風にアレンジした作品も少なくない。一方で、マイケル・ジャクソンの大ヒット曲やクラシックの名曲、日本のアニメ曲を和楽器用にアレンジした作品もある。作曲および選曲、アレンジへのこだわりを山野氏はこう説明する。

 「和楽器を聞いてもらい、そのおもしろさ、魅力を感じてもらうための入り口はとても大事。なじみのある楽曲で和楽器に親しんでもらい、好きになってもらえて、入り口の先にある感動や楽しさを体感していただけたらうれしいです」

都庁前で「ONE ASIA JOINT CONCERT」

 数ある海外公演の中で、とりわけ彼らの鮮烈な記憶となっているのが、ASEAN各国の民族楽器奏者と行った「ONE ASIA JOINT CONCERT」だ。カンボジアの世界遺産「アンコールワット」での公演を皮切りに、6年かけてASEAN10カ国を巡り、2017年10月、東アジア諸国の民族楽器演奏家も加わって東京都庁舎の向かいにある新宿中央公園でファイナルステージを挙行した。フィナーレでは、ベートーヴェンの第九を総勢36名で演奏した。

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ファイナルステージは都庁前にアジアの演奏家らが勢ぞろいした。

 当時について良平氏は、「6年かけて少しずつ集まったアジアの仲間たちでしたが、言葉も食も文化も違う。それが一つになれる共通点は何かと考えに考えて浮かんだのが、故郷。それぞれが故郷を思い、その思いを響かせることで聞く人にも何かが伝わるんじゃないか。出演者全員のそんな願いが詰まったすてきなステージになったと思います」と話した。

 今後は、アジアだけではなく世界のミュージシャンとも積極的にコラボしていきたいというAUN J。とりわけ強く願っているのは、グラミー賞14回受賞の圧倒的人気を誇るテイラー・スウィフトと、9回受賞で今も絶大な人気の米ヘヴィメタルバンド、メタリカだ。AUN Jのメンバーはみなメタリカが大好きで、オリジナル楽曲には彼らからインスパイアされたものが多いとのこと。

 最後に、世界を旅してきたAUN J良平氏だからこそ強く思う東京という都市の魅力とは?

 「何と言っても食の多様性と美しさ! 日本の誇る和食ばかりか、フレンチ、イタリアン、中華など世界中の美味しい食がそろっている。しかも、街にごみがない! これ、いろんな国を旅しているとほんとに実感するTOKYOクオリティーだと思います」

AUN J クラシック・オーケストラ

https://www.aunj.jp/

「ONE ASIA JOINT CONCERT」

取材・文/吉田修平
写真/穐吉洋子
画像提供/ハートツリー株式会社