変わり続けるトーキョー、夜と雨の街
「街を撮ろう、夜の時間に」
写真を撮り始めたのは偶然の出会いからだった。就職1年目、赴任した新潟の豊かな自然に魅せられ、休日になると絶景スポットに足を運んだ。そこで撮影していた年配の写真家に写真を見せてもらう。
「目の前の景色も素晴らしかったけれど、画面で見た画像が驚くほど美しかった。風景をカメラで切り取り、残していくことの面白さを知った瞬間でした」
さっそくデジタル一眼カメラを買い、撮影を始める。だが、しばらくして東京に戻ることに。東京都心部に移り、自然とは遠ざかる形になった。
「東京に住みながら自然豊かな場所に行くのもいいけれど、どうせなら自分が生きている街の最高の瞬間を撮ろう。東京を撮るならやっぱり夜だろう。そういう発想でした」
以来夜ごと、東京の街を歩き回った。渋谷、新宿、池袋、日本橋、秋葉原。とりわけ生活圏内であり、電気製品やサブカルチャーのショップで有名な秋葉原にのめり込んだ。
「僕の中で秋葉原は東京の中でも変化が激しい街の一つ。もう5年も撮り続けていますが、まだまだ撮り終えていないという感覚。街として奥が深い。一生かかっても撮りきれないかも。それだけに、ファインダーを覗いていて常にワクワクします」
大雨の夜の特殊な体験
秋葉原を撮り始めて1年ほどしたある大雨の夜、それまで何度も撮影していた場所で特殊な体験をした。
「その時の雨は特殊だった。土砂降りの大雨だけれど粒が細く散らばっていて、線のようにも見える。ずぶ濡れになりながら夢中で夜通しシャッターを押しまくっていたら、何とも言えない不思議な写真が撮れた。秋葉原のようで、どこか異世界のような雰囲気。あれから4年撮り続けても、いまだに越えられていないなあと思わせる作品です」
彼の作品に共通する異空間のような雰囲気は、たとえば映画『ブレードランナー』のイメージにも通じる。
「あの映画も好きだし、ゲームや海外でも大人気のアニメ『AKIRA』『攻殻機動隊』などをよく見ていたから、そういう映像から影響を受けている部分はあるかもしれません」
街を支える裏通り
秋葉原の大通りからほんの少し入っただけの雑居ビルの谷間の細い路地裏にひっそりとたたずむ神社がある。創建は江戸時代とされ、昭和に再建された。
「観光客でにぎわう秋葉原中央通り。一本道をそれて裏通りに入ると一気に雰囲気が変わる。表のけん騒、にぎにぎしさとは対照的にすごく静か。そこに、昔からある小さな工場や会社がある。表に見えている秋葉原の街は、実はこういう裏通りに支えられているのかもしれない。表通りより、裏通り。そこにこそ、街の本当の姿があるのかもしれない。僕の作品でそういうことを伝えられて、感じ取ってもらえたらうれしい」
海外では知られている表通りに行くことが多いというWatanabe氏。「でも、少し裏通りを行くと違った一面が見えてくる。外国から日本に来る人たちにも、ぜひ裏通りを見てほしい」
リフレクションへのこだわり
作品の多くは、道路が雨で湖面のように光り、建物が反射して幻影的な空気を醸し出している。
「こだわっているのは、建物がゆがまないようにすること。雨の美しさも引き立つ。目に見える建物よりむしろ、水面にリフレクションしている映像に美しさを感じます」
ストリートフォトグラファーであるWatanabe氏は、とにかく街を歩く。そして街が一番輝いている瞬間を撮る。
「これは数年前に撮った作品ですが、現在では看板が変わっている。写真って記録としても大切な意味があると思う」
秋葉原の記録という意味も込め、5年間の集大成として制作した写真集『ROAM AROUND NIGHT CITY#1 Akihabara』。
夜の街を探索するという意味で名付けたタイトルだが、今後、渋谷、新宿とシリーズ化していくつもりだ。『#1 Akihabara』は秋葉原の書泉ブックタワーでも取り扱っている。