Correspondents' Eye on Tokyo:
東京のテーブルトップロールプレイングゲーム・コミュニティ

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 タナー・カーク氏は、初めは料理の腕を磨くために訪日したが、気がつくと別のクリエイティブな道を進んでいた。そこには見たこともないコミュニティがあった。テーブルトップロールプレイングゲーム(TRPG)に魅了され、オフタイムはこの世界に没頭するようになった。
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タナー・カーク氏、秋葉原にあるWarhammer Store and Café - Tokyoの店舗前にて。客はここで人気TRPG「ウォーハンマー」の商品を購入、ペイントし、プレイできる。

2週間のはずが7年に

 初めて東京を訪れる多くの人と同じように、タナー・カーク氏の物語はこの都市に一目ぼれしたことに始まる。

 ペンシルベニア州フィラデルフィアの日本食レストランで働いていたカーク氏は、上司の勧めで日本食の背景にある文化を学ぶために来日した。当初は2週間の予定だったが、結局、観光ビザが切れる直前まで3カ月間滞在した。

 創造力と料理は深く結びついていると考えたカーク氏は、再び日本を訪れてテンプル大学ジャパンキャンパスでライティングおよびジャーナリズムを学び、料理以外のクリエイティブ分野も追求することにした。今では日本での滞在期間は合計7年になり、ジャパンタイムズ、ジャパンチーポ、Tokyo Weekenderなどの記事を執筆するほか、ビジネススクール運営や企業内研修を手がけるグロービスのオンライン情報プラットフォーム、Globis Insightsのコンテンツ責任者を務めている。

 しかし、カーク氏が創造力を発揮できるのは記事やコンテンツの執筆だけではない。

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2017年に東京に移住したことでTRPG愛に目覚めたとカーク氏は語る。

ダイスを振る

 カーク氏の創造力が生かされるもう一つの対象は、テーブルトップロールプレイングゲーム(TRPG)のキャラクターと背景世界の創作である。TRPGは、紙と鉛筆とダイス、それに想像力だけを使ってグループでプレイするゲームである。シナリオはあらかじめ作成されるが、その途上でキャラクターに何が起きるかはダイスによって決まる。

 元々ゲームやファンタジーが好きだったカーク氏だが、東京に移住したのをきっかけにTRPG熱に火が付いたという。彼はテンプル大学時代を振り返り、「一緒にビールを飲んでいた友人が、何気なく『ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)』をやってみたいと言ったんです。僕は目を輝かせて『やろう!』と言いました」と話す。

 1つのゲームにレギュラープレイヤーとして参加し続けるうちに、カーク氏はダンジョンマスターを自分の天職と感じるようになった。ダンジョンマスターは、プレイヤーのためにシナリオや世界を作り、ゲームとその成り行きを監督する。この役割は創造力を引き出してくれた。また、これまで見聞きしたファンタジーが、実はD&Dの影響を受けていたことも知った。彼は、西洋と日本のファンタジーゲームや文化は互いに影響し合っていると考えている。『ファイナルファンタジー』など多くのゲームがクラシックD&Dをベースにしており、D&Dにもファンタジーの要素が盛り込まれている。

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RPGの中でもお気に入りのキャラクター、ゴブリンを手に取るカーク氏。

東京のTRPGコミュニティ

 東京のTRPGコミュニティについて語るとき、カーク氏が描く展望はきわめて明るい。「みんなとてもオープンで快く仲間を受け入れます。つまるところ僕たちは楽しくゲームをプレイするために集まっているのですから。また、健全なやり方で違った自分を発見することもできます」

 東京のTRPGコミュニティには独特の雰囲気があり、興味深いトレンドをいくつも生んでいるとカーク氏は指摘する。その1つが、ゲームをYouTube動画で追体験したり、本にまとめたりする「リプレイ」の文化だ。これによって、コミュニティの中でもなかなか積極的にゲームに参加できない内気なメンバーが、受動的にゲームを経験することが可能になる。

 カーク氏は、誰でもTRPGをやってみることができると言い、さらにTRPGは人とつながる最高の方法だと気づいたという。とりわけ東京には多くの外国人が暮らし、中にはコミュニティを求めている人もいるが、TRPGの世界ではそれが簡単に見つかる。「強い結びつきが生まれるコミュニティを求めているなら、TRPG以上のものはありません。ゲームは人と関わらなければできませんから」。彼は、渋谷で定期的に開催されているD&Dコメディショー、『Roles For Initiative』などのイベントを訪れてコミュニティに飛び込んでみることを勧めている。

仕事と遊びのクロスオーバー

 また、この大好きな趣味と本業、さらに将来の夢には重なる点も多いという。それはつまり創造性であり、東京とのつながりである。

 執筆活動に関して言えば、最初に日本に興味を持ったのは、ジェイク・エーデルスタイン(『トウキョウ・バイス:アメリカ人記者の警察回り体験記』の著者)、ブライアン・アッシュクラフト(作家兼編集責任者、過去にKotakuやWiredに寄稿)、ティム・ロジャース(米国のビデオゲームジャーナリスト)など、東京在住(または元東京在住)のライターの影響が大きいという。しかし、東京についてはいまだに村上春樹の小説のように現実と非現実が入り交じるような感覚を覚えるときもあるという。

 数年にわたり執筆活動を行い、YouTubeチャンネル(ゲームをテーマとした「Paladin Prose」)を運営してきたが、現在は2024年夏に発表予定の大規模なプロジェクトに取りかかっている。「ここ東京で、TRPGコミュニティの運営管理者になることに全力を注ぎたいと考えています。この記事を読んでいる人は、ぜひチャンネルをチェックして、興味があればご連絡ください」

W. タナー・カーク

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タナー・カーク氏は、Globis Insightsのコンテンツ責任者であり、ジャパンタイムズ、Tokyo Weekenderなど多数の刊行物のフリーランスライターでもある。2017年に日本に移住して以来、TRPGに関する自身のYouTubeチャンネル、Paradin Proseで熱心に東京のTRPGコミュニティを勧めている。
取材・文/カサンドラ・ロード
写真/カサンドラ・ロード
翻訳/伊豆原弓