常盤橋タワーを彩る18のアート、作品を選定したコダマシーンの流儀

 東京駅の日本橋口前に位置する常盤橋街区。東京の玄関口とも言えるこのエリアに、新しい街をつくる再開発プロジェクト「TOKYO TORCH」が進行中だ。全体の完成は2028年になる見通しだが、いち早く開業した常盤橋タワーに設置されたアートコレクションが注目を集めている。
 コンセプトは、「伝統の中に光る奇想の系譜」。作品のキュレーションとディレクションを手掛けたアートとデザインの企画・開発ユニット、コダマシーンに狙いや魅力を聞いた。
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(左から)コダマシーンの金澤韻氏と増井辰一郎氏

コダマシーンとは

 京都市内の古民家にオフィスを構えるコダマシーンは、現代美術のキュレーターである金澤韻(こだま)氏と、建築・デザイン・現代美術の分野で設計およびマネジメントを行う増井辰一郎(しんいちろう)氏夫妻のユニットだ。

 熊本市現代美術館などで学芸員、十和田市現代美術館で学芸統括も務めた金澤氏は、欧米や中国、日本でこれまで50以上の展示企画に携わっている。増井氏は、現代美術家のヤノベケンジ氏や榎忠氏らのアシスタントおよびコーディネーター、グラフィックデザイン事務所UMA/design farmでプロジェクトマネージャーを務め、空間デザイナーとして日本と中国で商業空間、展示デザインを多く手がけてきた。

 ユニットが始動したのは結婚5年後の2018年。上海のデザイン事務所を退社した増井氏が新しいことを始めたいと思い、提案した。

 「僕らのようにアートも空間もわかるというユニットは意外といないし、生活をともにする夫婦だからこそ共有できる感覚もあり、思いついたときにすぐ話もできる。そんな僕らがユニットとして組めば面白い仕事ができるんじゃないかと。ユニット名は2人の名前の組み合わせです」

 パートナーである増井氏のその呼びかけに、金澤氏も応じた。

 「確かに、キュレーターと建築家、アーティストと建築家といったカップルはいますが、一緒に仕事をするケースはあまり聞いたことがない。ならば、私たちだからこそできることがあると思えたのです」

常盤橋タワーアートコレクションの狙い

 互いの強みを生かし、建築や環境の中にアートを導入することで人と人をつなぐことを使命とするコダマシーン。地下5階、地上38階の常盤橋タワーに18ものアートワークを設置するプロジェクトへの挑戦はかなり刺激的だったと金澤氏は言う。

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常盤橋タワーアートコレクションの一つ、KIGI(植原亮輔・渡邉良重)の作品「マワレ!セカイ」

 「かつて江戸城の表玄関だった常盤橋街区を、今度は東京の新しい玄関口として、さらに世界を展望する文化の発信基地として開発したい、日本の未来を象徴するような建物にしたいというお話を聞いて、これは面白くやりがいがある、ぜひやりたいなと。そこから1か月、2人で練りに練って、上海からオンラインでプレゼンしたのです」

 予算総額はあらかじめ決められていたが、プレゼンの時点で18組の作家から合意を得ていたのも大きな評価ポイントであったと後に聞かされたという。提案のコンセプトについて、金澤氏はこう続ける。

 「歴史的なコンテクスト(文脈)とこれからの時代、未来をつなぐ狙いで、陶や竹、漆、日本画といった伝統的な素材と技術を下敷きにしつつ、新しい表現を模索している作家を意識的に起用しました。それに、常盤橋タワーの建物は江戸切子をモチーフにしているので、その意匠などとの連続性を意識して、幾何学模様を取り入れた作品も複数採用しました」

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常盤橋タワーの外観 提供:三菱地所

 起用した作家18組は、おおむね40代以下の若手。海外作家も5人含めた。その狙いと意味について増井氏は、「作家の知名度で勝負したくはなく、すでに素晴らしい作品をつくっているけれど、これから30年先、40年先にもっと輝きを増す作家と一緒に未来を見ていきたい、という想いを込めました。海外作家を起用したのは、日本と親和性のあるテーマを標榜しつつも全体的にグローバルな視点を感じてもらいたかったから」と説明する。

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常盤橋タワーアートコレクションの一つ、桑田卓郎の作品「陶木」

 その意図は、「日本を明るく照らす希望の灯りのような存在でありたい」というTOKYO TORCHのコンセプトにも合致し、見事コンペで勝利した。

 各作品はそれぞれの空間で奇想的な異彩を放ち、歴史と文化を感じさせつつ未知の世界、異次元への想像力も高めてくれる。百聞は一見に如かず。一般閲覧できない作品もあるが、ぜひ現地を訪れ、その目で堪能してほしい。

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常盤橋タワーアートコレクションの一つ、吉野ももの作品「Kami #72, Kami #75, Kami #71, Kami #74, Kami #73」

アート活動の多様性がある街

 海外での経験が長い2人に、アートやデザインの観点から東京の魅力について聞いた。

 「上海で7年、ロンドン、ニューヨークでも暮らした経験から言えば、東京ってアート活動の多様性がある街で、そこが一番の魅力だと思います。とりわけ公的な支援がとても充実していて、ユニークな取り組みが多い。東京都写真美術館や東京都現代美術館、トーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)などはよく行きます。他にも、アーツカウンシル東京が実施する東京アートポイント計画も、プレイヤーに寄り添って人と人をつなぎ、知識をシェアし、サポートする。一方で、企業の支援も盛んで、スペースを用意し、アワードも運営する。その支援する主体が多様であることが、東京の魅力や強みだと思います」

 そう語る金澤氏に対し、増井氏はこう締めくくった。

 「僕自身は関西出身で一度も東京に住んだことはありませんが、やはりあらゆる情報が集中しているところが大きな魅力です。仕事に関わることでも常に刺激を受けられる。だから上海に住んでいる頃も出張で日本に行く場合は必ず東京に立ち寄り、いまでも機会を見つけてできるだけ東京に行きたい。もちろん、いまの時代はSNSでいろんな情報を得られますが、やはり自分の眼で見て体感しないと、アートやデザインの分野では刺激を受けられない。ライブでしか味わえない感動が僕たちの仕事には必須なんです」

コダマシーン

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アートとデザインのコンサルティングファーム。金澤氏は現代美術キュレーターとして国内外で数多くの展覧会を企画・制作し、増井氏は建築・デザイン・現代美術の分野で設計およびマネジメントを行ってきた。2018年、上海にてコダマシーンを設立。20年来培ってきた2人の知識とスキルを合わせ、アート×企業/自治体/人×場所を共鳴させるアートプロジェクトを行う。
取材・文/吉田修平
写真/藤島亮
常盤橋タワーアートコレクションの写真/太田拓実