災害時にも活躍。日本の自動販売機の進化と魅力とは?
昔から機能性を追求してきた、日本の自動販売機
自動販売機の写真を1万枚以上も撮り続けている、自動販売機マニアの石田健三郎氏。そのきっかけは、今から15年ほど前の学生時代、当時所属していた日本文化を研究するゼミの卒業論文のテーマに、自動販売機を選んだことに始まる。
「ポーランドから来ていた留学生の友人から、『日本に来て一番驚いたのは、街中に自動販売機があふれていること。これは海外ではなかなかない光景だ』と言われ、卒業論文のテーマを自動販売機にしました。実際に調べてみると、冷たいドリンクと温かいドリンクが同時に購入できるなど、高い機能を備えているのは日本ならでは。そういう日本特有の文化が自動販売機に宿っていることを知り、どんどん惹かれていきました」
日本に多く見られるという高機能な自動販売機。歴史を振り返ってみても、1800年代後半〜1900年代前半に日本で初めて作られた、はがきや切手の自動販売機も機能的だったという。
「売り切れの表示が自動で表れたり、入れた金額に合わせて販売数が変動したり。その当時から、そういった機能が備え付けられていたのです」
なぜ、日本人は自動販売機を機能的にするのか。その理由の一つに、「国民性が関係しているのでは」と石田氏は言う。
「日本人は自動化が大好きなのだと思います。例えば、自動ドアやオートマチック車といった自動的な機能がこれだけ普及しているのは、世界的に見ても日本がトップレベル。それから、日本人にはロボットとの暮らしもなじみ深い。アニメの『鉄腕アトム』や『ドラえもん』がいい例で、昔からロボットと人間が共存する世界を当たり前のように受け入れてきました」
東京で出会えるユニークな自動販売機
さまざまな機能を搭載し、日本独自に進化してきた自動販売機。ここ数年は、「その進化が著しい」と石田氏は話す。
「特にコロナ禍は非対面・非接触が叫ばれていたこともあって、人間を介す必要がない販売チャネルを持つ自動販売機は非常に重宝されました。休業や時短営業を余儀なくされた飲食店が、自動販売機を使って食品を販売するケースも急増。自店舗の商品を冷凍食品として販売し始めたことによって、冷凍のものも扱える次世代型の自動販売機の普及が加速しました」
近年は、これまでにない新しい自動販売機が多く登場しているという。その中でも、石田氏が特に注目する自動販売機が二つある。
「商売繁昌」や縁結び、健康、開運招福などのご利益がある秋葉原の神田明神。24時間参拝可能なため、お守りを授かれる自動販売機がある。
「お守りの自動販売機は非常に珍しい。ただ、お守りということもあって、名前は自動販売機ではなく『自動頒布機』です」
東京・千駄ヶ谷にあるジュエリーショップのJAM HOME MADEには、結婚指輪が買える自動販売機が設置されている。真ちゅう製のリングのほか、自分のサイズに合わせて作るために必要な木づちなどの道具が付属しているのが特徴的だ。
「結婚指輪を買えるだけではなく、2人で一緒に作れるというエンターテインメント性まで備えているのが面白い。最近の自動販売機はこういう体験も一緒に提供する傾向にあります」
災害時は最新情報やWi-Fiも提供
このようにエンターテインメント性に富んだものまで登場している自動販売機。その一方で、「自動販売機は発災時にも活用できることを知ってほしい」と石田氏は言う。
「例えば、災害救援型の自動販売機。これは災害時に停電となった場合、人的操作をすれば機内の飲み物を取り出すことができる仕様になっています。諸説ありますが、こういった自動販売機ができたのは、1995年の阪神淡路大震災以降。大きな地震が来ても倒れないような対策が練られたり、ライフラインとなる飲み物を自動販売機内から無料で取り出せるようにしたりと、災害時に自動販売機を活用できるような動きが見られたのです」
現在ではAED付きのものや浸水を知らせるものがあるほか、新たな機能を搭載したものもある。
「電光掲示板で最新情報を知らせてくれるものや、Wi-Fiを提供してくれる自動販売機もあります。こういった自動販売機があることを知っておくと、いざというときときに自分自身だけでなく、誰かの命を助けることができるかもしれません」
災害時にも役に立つよう、さまざまな工夫が施された日本の自動販売機。これまでも日本の文化や日本人の生活にひも付いて進化を遂げてきたが、石田氏は少し先の未来を見つめてこう話す。
「この先、AIなどの最新技術と結び付いて、自動販売機はさらに進化していくと考えています。自動販売機と購入者の対話が可能になるなど、双方向のコミュニケーションが成立するものが登場するかもしれません。災害時の救援もそうですが、そういう思いやりや工夫の詰まった日本の自動販売機の素晴らしさをぜひ体感していただけたらと思います」