古いからこそ可能性が宿る。スウェーデン出身のモデルが東京の空き家を再生する理由
東京の狭小住宅は可能性に満ちている
東京・中野区。駅からほど近い住宅街にある空き家の改装工事が間もなく完成を迎える。手がけるのは、アントン・ウォールマン氏。2024年4月から改装を始め、約3カ月かけてDIYを進めてきた。「実は先週には完成している予定でした」と笑顔を向けながら、完成間近の家を眺めては目を輝かせる。
「築53年の一軒家なのですが、長らく空き家だったようで、最初に出会った時はボロボロの状態でした。だけど、天井をぶち抜けば開放感を出せるし、階段の柵や柱、昔ながらの窓に手を加えたらきっとすてきな空間に生まれ変わる。自分のアイデアや技術でボロボロ空間をかっこよくしていけるのがすごく楽しい」
安価で手に入れたものの、日当たりや広さの面から好物件とは言い難い。しかし、「だからこそ面白い」とウォールマン氏は話す。
「隣の家とも近いし、大きな庭もない。ですが、こういう東京ならではの狭小住宅は僕にとってはすごく興味深い。鏡を設置して奥行きを出したり、ライトにこだわったりすれば、広く明るく見せることができる。古いからこそ変えられる余白がたくさんあるのも、とても魅力的です」
ウォールマン氏が話す通り、梁(はり)や柱はそのままに壁や床に新しい木材を加えたり、畳の空間はあえて残したりと、古いものと新しいものが見事に融合している。
今回再生させた一軒家は、民泊として一棟貸しを予定しているという。
スウェーデンではDIYが暮らしの定番
ウォールマン氏が本格的に日本で暮らし始めたのは、2018年の年末。モデルとしてさまざまな国で活動するなかで、来日時の経験が移住の決め手になったと言う。
「治安がよくて、街も美しい。どこに行ってもおいしい料理を食べられることにも驚きました。それにみんなお互いをリスペクトしていて、外国人の僕にもとても親切。そんな日本に住んでみたくなったのです」
来日したウォールマン氏は賃貸アパートやシェアハウスでの暮らしを経て、2022年に都内で眠っていた築86年の空き家を購入。現在の家づくりの前にも、DIYで家をリノベーションしている。
「最初は賃貸物件に住もうと思っていたのですが、礼金や敷金がすごく高い。もっといい暮らし方はないのかと模索し、不動産屋さんから紹介してもらったのが空き家でした。最初はボロボロの状態でしたが、その古さも歴史を感じられて美しい。日本では新築物件が人気ですが、自国のスウェーデンでは家を造り変えながら暮らすのが当たり前で、学校でもDIYの授業があるほど。実際、僕の実家は築120年と古く、家族でメンテナンスしながら間取りやデザインを変えて暮らしていました。だから、日本でも自分で家を造ることはごく自然な流れでした」
日本の職人の技術は世界最高峰
幼い頃から慣れ親しんでいたという家づくり。日本では「より専門的な知識や技術に触れられる」とウォールマン氏は言う。
「東京で家づくりをして驚いたのは、材木屋や畳屋、金物屋が街中にあること。そこで職人さんと仲良くなって、新たな知識や技術を教わることも多い。一緒に作業をすることもありますが、細部にまでこだわる姿は本当に素晴らしい。特に衝撃的だったのは、宮大工さん。くぎを一本も使わず、木と木を組み合わせて家を建てる技術は世界有数のものだと感じています」
日本の職人に感銘を受けながら、日本での家づくりを心から楽しんでいるウォールマン氏。間もなくこの家は完成を迎えるが、すでに次のプロジェクトが走っている。
「先日、千葉にも物件を購入しました。これまで以上にボロボロの状態の家なのですが、海にも近くて楽しくなりそうな予感がします。そこでもいろいろな問題に直面すると思いますが、やっぱり僕は古いものを生かしながら、かっこいい空間を作るのが好き。YouTubeで発信をする予定なので、ビフォー・アフターを楽しんでいただけたらうれしいです」