誰もが参加できる宇宙開発を目指す
アプリ収益化プラットフォームで大成功
宇宙開発とデジタル技術の融合を目指すスタートアップ、スペースデータを2017年に起業した佐藤氏の経歴は、一風変わっている。
弁護士を目指し早稲田大学に入学するも、折からの司法制度改革によって司法試験突破に時間がかかりすぎることになり、方向転換。黎明期だったインターネット関連で起業すべくプログラミングを独学し、ホームページ制作会社を立ち上げた。そして、ビジネス展開の限界を感じ始めた頃に登場したスマートフォンに時代の大変革を見いだす。
「この小さなコンピューターでお金や情報などあらゆるものが管理される時代になると確信しました。実際、スマホ向けアプリが次々と現れましたが、どの会社もマネタイズに困っていた。ならば、アプリの収益化プラットフォームをつくろうと考えたのです」
そして2007年、株式会社メタップスを新たに立ち上げると、AIを駆使したビッグデータの解析やオンライン決済システムの開発などで事業を拡大。海外にも8拠点を展開し、2015年には東証マザーズ上場も果たした。
宇宙は人生を懸けるフロンティア
通常であればさらなる事業拡大を考えるところ、佐藤氏は違った。目を向けたのは宇宙だ。
「当時すでにGAFAなどが席巻し、市場が成熟したという思いがあり、また海外展開をするうちにネットの分野ではグローバルな規模で考えるようになっていて、それ以上の展開に魅力を感じなくなっていたのです。次のフロンティアはどこだろうと考えている中で、やはりそれは地球の外、宇宙だろうと。素人なりにいろいろ調べ始めると、ますます魅力を感じるようになりました」
ただし、ロケットや衛星などハードの研究開発は莫大な時間を要し、軍事的な側面もあるため国家規模で何兆円も投入するアメリカには太刀打ちできない。ITの専門家として宇宙開発に切り込むには、やはりソフト面ではないかとの思いに至る。
「こんなことを言うと怒る人もいるかもしれませんが、IT領域でのビジネスはもう先が見えて面白味を感じなくなっていました。対して、宇宙はまだまだ未解明の謎が多く深掘りする価値がある。人生を懸けて挑んでも飽きがこない。だからこそ挑み甲斐があると思えたのです」
そうした思いから新たに立ち上げたのがスペースデータだった。
狙うは宇宙版マイクロソフト
佐藤氏が取り組む宇宙開発とは、誰もが参加できるプラットフォームづくりだという。
「宇宙産業は、どうしても特殊な分野というイメージです。でも、コンピューターも最初はハードの専門家、IT企業、ネットオタクの世界だったけれど、いまでは誰でも自由に活用できる。宇宙もそうあるべきだと思うし、20年も経てばそうなっているはず。その土台づくりとして、万人が宇宙に参入できるようなソフト開発やシミュレーション環境を整えたいのです」
例えば、人工衛星や宇宙空間での作業ロボット、無人宇宙船や宇宙ステーションなど、それらすべてに共有できる汎用性のあるOS(オペレーティングシステム)を開発し、それを無償公開する。そのOSによって誰でも宇宙産業に参入でき、新たなビジネスを模索できる。つまり、宇宙の民主化だ。
「いわばWindowsのように、宇宙版マイクロソフトの立ち位置を狙っています。ビッグデータの解析やシステム開発、デジタルツイン技術(衛星データやAI、3DCGを活用し、デジタル空間に現実そっくりの複製を自動生成する技術)なら、われわれにはメタップスでの実績がある。宇宙民主化のマーケットが広がれば、事業としてのマネタイズは実際に宇宙ビジネスに参入する企業向けにソフトをカスタマイズするなど、後からいくらでもできます」
宇宙ロボット開発会社と共同で宇宙ステーション用ロボットの開発をすでに手がけており、日米など15か国で運用する国際宇宙ステーション(ISS)での実証を2025年に予定している。
渋谷はクリエイティブな街
そんな佐藤氏にとって東京という街の魅力、そして渋谷で宇宙ビジネスを続ける意味とは何か。
「実際の開発現場はJAXA筑波宇宙センター(茨城県つくば市)が中心ですが、やはり関係省庁と向き合わねばならない局面もあるため都心だと都合が良いですし、渋谷という街には若者が集まりやすい。IT関連のエンジニアはいまはもう20代が中心で、海外の若いエンジニアたちも皆、渋谷はクリエイティブな街だから好きだと言います」
そして最後に、未来の東京像についてこう強調した。
「例えば、お台場を宇宙テック関連の集積地にする。若いエンジニアも集め、デモ機などを置いて宇宙開発の前線基地のようにすれば、観光資源としても人が集まり、活性化すると思いますね」
佐藤航陽