プラントベース焼き菓子で切り開くサステナブルな食文化

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 東京都内に4店舗を展開する「ovgo Baker」は、プラントベースやオーガニックの素材を使用した焼き菓子専門店だ。特にZ世代を中心に支持されており、おしゃれでおいしい商品がSNSで話題となっている。創業メンバーの試行錯誤から生まれた焼き菓子には、環境に配慮したサステナブルな取組が反映されている。このショップの魅力と成功の秘密を探る。
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「ovgo Baker」の人気を支えるメンバー

サステナブルな食文化の創造を目指す、「ovgo Baker」のこだわり

 現在、日本橋、原宿、西神田、虎ノ門に4店舗を構える「ovgo Baker(オブゴ・ベイカー)」は、クッキーやマフィンなどの焼き菓子専門店だ。今回訪れたのは、2021年6月にオープンした日本橋の1号店。ニューヨークの、マンハッタンやブルックリンにあるカフェをイメージしたという店内には、ポップでかわいいアメリカンスタイルの焼き菓子が並ぶ。

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定番のチョコチップクッキーや日本らしさを感じる抹茶クッキーをはじめ、春の風物詩である桜餅をイメージした桜もちクッキーなどの季節限定商品も登場する。

 「ovgo」は、「organic, vegan, gluten-free as options」の頭文字をとった造語。この店名が表しているように、ovgo Bakerは、植物性の原材料を使用した焼き菓子を提供している。また、サステナブルな食文化を提唱したいとの思いから、化学肥料や農薬を使わず自然の恵みを生かして育ったオーガニックな食材や、輸送距離が短くて済むことからCO2発生を抑えられる国産の材料をなるべく使うように心がけている。

 ovgo Bakerが掲げるミッションは、押し付けずに環境問題について考えるきっかけをつくり、環境負荷の軽減を実現することだ。しかし、おいしくなければ広まらないうえに持続しないという信念のもと、あえてヴィーガン仕様であることを前面に出していない。創業メンバーの一人、髙木里沙さんはこう説明する。

 「材料は植物性のみを使用するので、ヴィーガン仕様だと味が薄くていまいちだと思っている人も多くいらっしゃいます。そこで、創業時から『おいしいクッキーを食べたら実はヴィーガン仕様だった』という世界観を目指して、とにかくおいしさを追求しています」

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創業メンバーの髙木さん。米国育ちで、外資系証券会社から転職してovgo Bakerに参加した異色の経歴の持ち主

 創業メンバーは販売するまで1年間ほどアパートの一室にこもって、ひたすら試行錯誤したという。いまも新商品を発売する際には、材料を徹底的に吟味し、スタッフ全員で試食を繰り返して、味にこだわり抜いている。

 「クオリティの高い商品を作り続ければ、ovgo Bakerのファンになってくれる人が増えます。一過性のブームではなく、サステナブルな食文化を創造するためには、当たり前かもしれませんが、おいしい焼き菓子を愚直に作り続けることが大切だと思っています」

 ovgo Bakerの味のおいしさは評判となり、瞬く間に人気のショップになった。ファンの多くは、1990年代半ばから2000年代序盤に生まれた世代、いわゆるZ世代が多いのが特徴的だ。

 「ovgo Bakerの顧客ターゲットは環境問題への意識が高く、新しい発想で文化を創造し、発信する可能性が高いZ世代です。Z世代に手に取ってもらうために、おしゃれでかわいく、堅苦しさがない商品づくりを意識しました。また彼らは、当たり前に環境問題への意識が高いのも特徴的です」

 とくに10代・20代はSNSで発見する力や拡散力に秀でており、ovgo BakerにもSNSで知って訪れる人が後を絶たない。SNSのDMで感想を送ってくれる人も多く、お店と来店客の距離が近いという。また、ovgo Bakerのファンでお客様だった人が、スタッフとして働くケースも多い。

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店舗運営や広報を担当する濱百合香さん。高校時代にSDGsの授業があり、環境問題への意識が芽生えたと話す。

 特に原宿の店舗は外国人観光客も多い。平日は来店客の半分を外国人観光客が占める日もあるという。偶然見つけて来店する人もいれば、ヴィーガン仕様の食べ物を求めて訪れる人もいる。アメリカ人からは「地元の味を日本で食べられるとは思わなかった」と驚かれるそうだ。

日本初のB Corp認証飲食店に。ovgo Bakerが描く世界観を広げていきたい

 ovgo Bakerを展開する株式会社ovgoには、環境問題の解決に対する真剣な思いとこだわりがある。2022年には、社会や環境に配慮した公益性の高い企業を認証するグローバルな制度「B Corporation認証(B Corp)」を取得。日本では16社目で、国内の飲食店としては初の事例となった。

 認証の審査は厳しく、申請に向けた社内制度の整備に1年、申請後もアナリストとの複数回の面談を経て、およそ2年をかけて取得した。

 「廃棄物の量や電気の使用量、原材料の調達地からの距離など緻密なデータを提出する必要がありました。データに対する評価はもちろんのこと、公益性をしっかりと考えているかどうかも重視されます」

 食と環境の問題に向き合うことと、おいしいお菓子づくりを両立させる上で、東京の多様性から得られることは多いという。

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一つひとつ手作業で丁寧に作られる焼き菓子

 「私は東京の食の魅力は、種類の多さとクオリティーの高さだと思っています。日本人が一つのものを突き詰めることに長けているからかもしれませんが、東京にあるヴィーガンレストランも工夫して、美味さに磨きがかかっています。東京だからこそ、多様な食文化が相互に影響し、刺激し合い、世界に誇れるクオリティの高い食を発信できているのではないでしょうか」

 今後のことを尋ねると「ovgo Bakerの世界観をたくさんの人に届けたい」と夢は大きい。環境への配慮とサステナビリティの理念を込めて作られた一つひとつの焼き菓子は、やがて人々の食に対する意識を変え、大きな変革のきっかけとなる可能性を秘めている。

髙木里沙 Lisa Takagi

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慶應義塾大学大学院を修了。学生時代には米国とフランスに在住経験を持つ。新卒でメリルリンチ日本証券株式会社(現BofA証券株式会社)の投資銀行部門に入社し、グローバルM&AやIPO等の業務に携わる。その後、2021年にovgoにCFOとして入社し、2023年より代表取締役に就任。
取材・文/末吉陽子
写真/井上勝也