トルコ出身エコノミスト、「豊かで平和な」東京の経済やライフスタイルの長所を評価

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 トルコ出身のエコノミストで、グローバルストラテジストのエミン・ユルマズ氏が最初に東京を訪れたのは1997年で、日本語を学ぶためだった。その後、東京大学で生命工学修士を取得し、2006年に野村證券に入社した。
 ユルマズ氏は現在44歳だが、これまでに金融分野に特化した会社を複数立ち上げ、金融や投資に関する書籍や新聞コラムを日本語で執筆している。今回は、日本橋にあるユルマズ氏の事務所でインタビューを行い、東京での体験や、経済とライフスタイルの中心地である東京の未来について聞いた。
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東京都中央区にある日本取引所グループ(JPX)本社の前に立つエミン・ユルマズ氏

--そもそも東京に来た理由は?

 最初は単に日本語学校に行くためでした。私は1980年代生まれで少しオタクっぽい子どもだったので、日本に興味があったのです。「コモドール64」というパソコンやファミコンを持っており、日本のコンテンツと共に育った影響が大きいですね。日本はクールな場所で訪れてみたいといつも思っていました。東京に家族ぐるみの友人がいたので会いに行ったとき、語学学校に通うためにしばらくは日本に滞在することにしたのですが、ずっと居たいと思うほどここが好きになってしまいました。

--日本に住み続ける個人的な理由は?

 こんなに素晴らしい場所ですので、たくさんの理由があります。私の場合、一番は食べ物です。いつも新鮮で、いつもおいしい。また、ここではたくさんのことができます。私は北海道ではスノーボード、沖縄ではダイビングを楽しんでいます。ゴルフもします。四季が美しいですね。食べ物や環境、ライフスタイルが要因かもしれませんが、日本では人が年をとる速度がゆっくりしていると思います。生活を楽しむ機会がここにはたくさんあるのです。

--ここで続けられているお仕事は?

 主に一般の人に投資の仕方を教えています。人々の投資や金融市場についてのリテラシーを高めたいと思っています。日本には投資教育の大きな需要があると考えています。デフレが30年も続いていたので一般に投資は避けられてきましたが、突然、急激なインフレが起き、将来の心配から自分のお金を投資して資産を増やす方法を学びたいという人が増えました。

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東京の日本橋。東京証券取引所があり、エミン・ユルマズ氏もオフィスを構える。Photo: iStock

--東京に世界有数の金融ハブとしての条件がそろっているのはなぜですか?

 長い間、香港がアジアの金融ハブでしたが、今は東京とシンガポールの二都市がそれに取って代わる有力な候補として台頭しています。東京が有利な点は、米国に近い関係であるにもかかわらず、西洋ではないので立場が中立的だということです。資産が安全だということもよく知られています。また、日本の金融市場は規模が大きいという点も挙げられます。これは重要です。金融活動の中心地となるためには、高い流動性が必要だからです。東京証券取引所は世界有数の株式市場で約4,000社が上場しており、取引がしやすくシステムは完璧に機能しています。東京が香港に代わる最有力候補とされるのは、このような市場構造によります。

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都心にあるオフィスにて。日本、東京には生活を楽しむ機会がたくさんあるとユルマズ氏は話す。

--国と東京都は、「金融・資産運用特区」で協働しています。2024年6月初旬に正式にスタートしたこの特区では、日本で開業する外国企業のために手続きとインセンティブを整備しています。この施策はなぜ重要なのでしょうか?

 当局はここでビジネスをしやすくしようとしているのです。以前は日本でビジネスをするのが少し難しかったかもしれません。そこで、このような特区を創設して状況を変え、東京を資産運用の中心地として売り込もうというわけです。

 私自身も会社を設立したので、この支援の重要性がよくわかります。起業に詳しい人物を見つけなければなりませんし、届出にはたくさんの書類の作成が必要です。他にも考えるべきことはたくさんあります。政府は手続きをもっと容易にして、外国企業に東京での起業のしやすさをアピールしようとしています。

 外国企業の方でも世界中から人材を雇用したいので、優秀な人物を引き付けることになり、日本にとってプラスになります。政府は、外国人が生活しやすく、その家族にも快適に過ごしてもらう必要があると考えていて、子女のためにインターナショナルスクールが必要だということも認識しています。外国出身者の家族が幸せで安全だと感じてもらうために、このような政策の実施は欠かせません。なぜなら、日本を訪れた家族がここの生活の良さを知れば、留まろうと思ってくれるからです。

--他にも東京の金融セクターに恩恵をもたらした変化はありましたか?

 NISA(少額投資非課税制度。2014年に開始)はゲームチェンジャーになったと思います。運用益が非課税となるNISA口座が導入されたことにより、全セクターがその恩恵を受けています。また、新型コロナウイルス感染症の世界的流行も投資への関心を呼び起こすきっかけとなったと考えています。人々が家に居なければならなくなり、時間を持て余すようになったため、自分のお金を投資する方法を探すようになったのではないでしょうか。

--世界有数の金融ハブとしての東京の可能性は?

 東京が最も有利な点は、世界経済の軸が事実上、アジアへと移ったことです。実は現在、太平洋地域の貿易額は大西洋地域よりも大きく、多くの国々がとても早いペースで成長しています。つまり、アジアの金融資産に投資したい人が多くいるということになります。また、東京に観光で来るにせよ勉強で来るにせよ、実際に訪れてみると、ここで働いて暮らしたいと思うようになります。これがアジア地域の他の都市にはない、東京の持つ最大の長所だと思います。日本は人口問題を抱えていますが、アジア地域全体としてはさらに豊かになっています。これは東京や日本全体の経済にとって良いことです。

--ユルマズさんは東京の将来に関しては楽観されているということですね?

 もちろん、そうです。他の多くの都市に比べて、東京は平和で豊かですし、ここには金融セクターとして大きな可能性があると思います。

--個人的には、東京のどの部分が気に入っていますか?その理由は?

 私はちょっとオタクなところがあるので、秋葉原に行くのが好きなんです。昔のビデオゲームを探しに行ったり、カフェを何軒か回って時間を過ごしたり、また、単にぶらぶらすることもあります。それが気晴らしになるのです。

--東京にはいつまでいるご予定ですか?

 ずっといます。ここが私の故郷になりました。

エミン・ユルマズ

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トルコ、イスタンブール生まれ。エコノミスト、グローバルストラテジスト。東京大学工学部を卒業後、2006~2014年野村證券でM&Aの助言や機関投資家向け株式業務に従事。2016年に株式リサーチの複眼経済塾株式会社を共同設立、2024年にレディーバードキャピタル合同会社を設立。10冊の著作と3冊の共著がある。『日経マネー』のコラムを毎月執筆し、マーケットと経済のコメンテーターとして日本のテレビ番組にレギュラー出演している。

レディーバードキャピタル合同会社

www.eminyurumazu.com
取材・文/ジュリアン・ライオール
写真/藤島亮
翻訳/片桐純