食事だけにあらず。地域のつながりを築く「こども食堂」
居場所づくり
民間の自主的な取組として始まったこども食堂は、子どもたちや地域の人々に無料または低額の食事を提供している。しかし、2016年からこども食堂に関わってきた湯浅氏によれば、子どもにご飯を食べさせることを一番の目的としている運営団体はあまり多くないという。
「多くの食堂は、地域の人たちにとって居心地のよい場所を提供することを自分たちの使命としています。居場所をつくることは、こども食堂にとって極めて重要です」
2018年に発足した認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえは、それ自体は食堂の運営は行わず、こども食堂を応援したい企業や個人の仲介にあたっているほか、こども食堂ネットワークをサポートし、その資金需要に応えている。2022年に同法人が支援した団体の数はのべ12,000を超え、支援額は総額10億円相当にのぼる。
むすびえは、調査・研究事業も行っている。それによれば、こども食堂を繰り返し訪れる子どもほど、食堂を、本音を打ち明けたり悩みを語り合ったりできる安心な場所と考えている傾向があるそうだ。
「調査結果でもう一つ注目したいのは、誰とでも仲良くできると答えた子どもの数が増えたことです」と湯浅氏は指摘する。食堂では、子どもたちは年齢や学校の異なる子どものほか、さまざまな大人と交流することができる。「こうした経験が子どもたちの社会性を伸ばすという確かな証拠が得られたわけです」と同氏は言う。
東京の喧騒の中で、こども食堂は子どもたちが遊んだり、くつろいだりできる場所として重要な役割を果たしている。
名前に惑わされないで!
「こども食堂」という呼び名は、少々誤解を招きやすいかもしれない。湯浅氏は、こども食堂のさまざまな取組について、もっと細かいところまで理解してもらいたいと考えている。
多くのこども食堂は、小さな子どもたちだけを対象にしているわけではない。それどころか、利用者の大部分が高齢者という食堂もある。子どもは地域社会全体で育てるものだと言われるくらいであるから、子どもにご飯を食べさせるというのは、地域社会が一つになり、地域のつながりを強くするためのうれしいきっかけとなる。
また、こども食堂は低所得世帯の子どもたちだけのものだと思っている人もいるかもしれないが、それは誤解だと湯浅氏はきっぱり否定する。日本では、平均して約9人に1人、ひとり親世帯に限れば2人に1人の子どもが相対的貧困状態にある。湯浅氏は、無料または低額の食事の提供は、低所得世帯を支援する重要な方法であることを認めつつも、すべてのこども食堂を「貧困対策」のためのものと考えるのは短絡的なうえ、食堂に行くのをためらう人が出ることにもなりかねないと警鐘を鳴らす。
さらに、全国のこども食堂の運営方法を一律に定めたトップダウンのルールは一切ないという。
「こども食堂は、標準化された公的サービスだと誤解している人が多いですが、一つとして同じ食堂はありません」と湯浅氏は話す。この多様性は、例えばカレー店と似ているという。小さな店や大きな店、日本式のカレーを出す店やインド式のカレーを出す店、値段の高い店や安い店などさまざまだが、店ごとの違いに驚く人はいない。「それは、いろいろな店があった方が良いと私たちが思っているからです」と同氏は言い、こども食堂についても人々が同様の捉え方をしてくれるようになることを期待する。
困難を乗り越え、未来を見つめる
こども食堂は、2012年頃に登場して以来、国内で毎年次々とオープンし、2016年の約300カ所から、2023年には9,000カ所を超えるまでになった。これは全国の公立中学校とほぼ同数である。地方の過疎化による学校の統廃合が進めば、いずれは公立小学校の数をも上回ると湯浅氏は見ている。
「小学校の場所が家から遠くなると、子どもたちにとっては、こども食堂が地域の人たちと知り合う最も身近な場所になるでしょう」。そう考える湯浅氏は、このようなつながりがあれば、地域社会は自然災害にも強くなるとも話す。
コロナ禍の中で、多くの家庭が経済的に苦しくなり、学校も休校になると、こども食堂に対する需要が高まり、かつ変化した。「そのため、自治体はこども食堂に食料の配給のほか、虐待の危険性のある子どもの発見についても協力を求めたのです」
もろもろの制限が解除され、再び食事を通じた地域のつながりづくりに専念できるようになってからも、コロナ禍の時期に始めた活動を続けている食堂もある。「こども食堂の活動は多様化しています」と湯浅氏は言う。
現在、食料やエネルギーなど生活費の高騰が、こども食堂を圧迫し続けている。むすびえが2023年に行った調査によれば、食堂を1回開催するのにかかる費用は、平均で約4,000円上昇している。しかし、食堂側は食事代金の引き上げには難色を示している。
「子どもは無料、大人は300円か500円で食事を提供したいというところがほとんどです。費用の値上がり分は、食堂が負担しています」と湯浅氏は話す。こうした努力を支援しているのが、むすびえだ。
自治体の役割として、湯浅氏は、財政的な支援よりもむしろ、商工会議所や町内会などのネットワークを利用して、潜在的な支援者と食堂とを結びつけることを提案している。地方自治体にとって財政支援の財源確保は困難で、長期的な支援となればなおさら難しいからだ。
今後も、こども食堂は増え続け、地域社会全体が関わっていくことになるだろう。