東京ファイターズB.Cのメンバーが語る、車いすバスケットボールの魅力

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 パリ2024パラリンピック競技大会が2024年8月28日から始まる。なかでも、第1回パラリンピックと位置付けられた1960年開催のローマ大会から実施され、現在でも最も人気のある競技の一つである車いすバスケットボール。2001年には『SLAM DUNK』の作者・井上雄彦氏が描いた、車いすバスケットボールをテーマにした作品『リアル』が第5回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞を受賞している。注目を集める車いすバスケットボールの魅力や、選手の活躍を支えるサポートメンバーについて、東京・埼玉を中心に活動する車いすバスケットボールチーム「東京ファイターズB.C」の諸岡晋之助選手、田村暢哉選手、柏木稔選手と、トレーナーの井上琉樹氏に話を聞いた。
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日本財団パラアリーナ(東京都品川区)で練習する東京ファイターズB.Cのメンバー

「勝って楽しむ」がモットーの東京ファイターズB.C

 東京ファイターズ B.Cは、1979年頃に結成された車いすバスケットボールチーム。東京の数あるチームの中でもその歴史は古く、日本選手権大会など多くの大会に参加してきた実績がある。所属している選手は10人で、障がいの有無や性別、年齢によらずさまざまな選手が活動しているのが特徴だ。なかには、東京2020パラリンピック競技大会や、パリ2024パラリンピック競技大会に出場する女子日本代表選手も在籍している。

 東京ファイターズB.Cのモットーは、「勝って楽しむ」だと話す諸岡晋之助選手(キャプテン・フォワード)。単に楽しくスポーツをしようというわけではなく、アスリートとして勝ちにこだわり、日本一を目指し週2~3回の練習に励んでいる。

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シュートを狙う柏木選手。プレーのなかで怖いと感じたことはないそう。「見ているより、プレーしているほうがスピードは感じにくいのかもしれません」と話す。

 障がい者スポーツでは、障がいのレベルによってクラスを分けて試合する場合が多い一方、車いすバスケットボールは、重度の異なる障がいのある5人の選手が一つのチームとして戦う。そのため、障がいの重さによって、各選手の戦術は異なる。そうしたなかでも、選手たちは車いすを自由自在に操り、よどみないパスワークや激しいコンタクト、車いすを活かしたテクニックを駆使し、スピーディーでアグレッシブな試合を展開する。

 諸岡選手は、その魅力を「障がいの有無や障がいの重さにかかわらず、車いすに乗れば同じ土俵で戦えるところ」だと語る。「例えば、身長180cm超えの男性選手の攻撃を、身長150cmほどの女性選手がブロックすることも可能です。技術があれば、体格の小さい女性選手や重度の障がいを持った選手でも守備できるのは、通常のバスケットボールとは違った魅力だと思います」

選手のスキルを最大限に伸ばすトレーナー

 車いすバスケットボールは、車いす同士がぶつかり合い、時に転倒してしまうこともある。そんな激しいスポーツを行う選手を支えるために、後方で支えるメンバーも必要だ。東京ファイターズB.Cには、練習時の準備や片付け、遠征時のホテル手配などを行うマネージャー3人と、技術指導や健康管理、けがの予防、リハビリなどの指導を行うトレーナー4人のサポートメンバーがいる。

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転倒し、自力で起き上がる諸岡選手

 理学療法士として働く傍ら、東京ファイターズB.Cのトレーナーとしても活動している井上琉樹氏。障がい者スポーツのトレーナーとして活動するには、トレーニングの勉強に加えて、各選手が抱える障がいに対する理解も欠かせないと言う。

 「激しいスポーツをしている選手でも、障がい者としての配慮は必要です。例えば、排尿障がいを抱えていたり、シャワーを浴びるための事前の環境準備が必要だったりすることもありますので、デリケートな部分への配慮も欠かせません。加えて、健常者と比べて疲労や痛みが出やすい傾向もあります。そういった点を意識しながらケアするのは、大変ではありますが、同時にやりがいを感じることでもあります」

 今後の課題は「選手のスキルを最大限に伸ばすために、どうケアをしていくか」だと話す井上氏。自分のスキルやノウハウを選手に還元するべく、自主的に研修会にも参加していると言う。「トレーナーとしてできる努力を積み重ねることで選手に貢献し、選手の目標である天皇杯(2025年1月31日~2月2日)出場を実現させたいですね」

天皇杯出場を目指して

 かつては、車いすバスケットボールのクラブ日本一を決定する国内唯一の大会・天皇杯にもよく出場していた東京ファイターズB.C。しかし、若手が入ってこなかったり、出場枠が制限されたりしたことから、2013年以来出場がかなっていない。そんな現状をふまえ、諸岡選手は今後の抱負をこう話す。

 「僕は東京ファイターズB.Cが大好きで、家族のように大切に思っています。だからこそ、このチームで天皇杯に行きたいです。僕を育ててくれたベテラン選手たちをまた連れていきたいし、僕と一緒にバスケをしたいとチームに加入してくれた若手にもその景色を見せたいと思っているんです。なので引き続き、キャプテンとしてチームを引っ張っていきます」

 車いすバスケットボールに興味がある人に対して、「まずはやってみましょう」と呼びかける柏木稔選手(センター)。とはいえ、その激しさから自分にはできないのではと不安に思う人も多いかもしれない。そんな人たちに向けて、田村暢哉選手(プレイヤー兼ヘッドコーチ・センター)はパラリンピックの精神を表した言葉を用いて、メッセージを送ってくれた。

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選手たちの足となる車いす

 「パラリンピックの父と呼ばれるルードウィッヒ・グッドマン博士が残した言葉に、『失ったものを数えるな、残されたものを最大限生かせ』というものがあります。障がいがあるからできないと諦めてしまうのではなく、障がいを持つなかでもできることを少しずつ増やしていきませんか。また、健常者の方にとっては、車いすの操作技術を身に付けたり、障がいを持った人の視点を学べたりする機会になります。少しでも興味があれば、ぜひチャレンジしてほしいです」

 天皇杯出場を目指して活動をしている東京ファイターズB.Cに期待が高まる。

東京ファイターズB.C

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東京・埼玉を中心に活動する車いすバスケットボールチーム。1979年頃設立。性別や障がいの有無に関わらず、幅広い選手が所属している。2013年以来の天皇杯出場を目標に、日々練習に励んでいる。

取材・文/吉田真琴
写真/ 藤島亮