渋谷でタバコの吸い殻ゴミが9割減った理由

ポイ捨てせず灰皿に捨てたくなる仕組みとは
山下氏が吸い殻のポイ捨てや受動喫煙など、タバコがもたらす社会課題の解決に向けた取組を始めたのは、2019年のこと。まず都内で、どこに吸い殻が多く見つかるのかをリサーチした。
「自分たちだけで調べるのは限界があるので、道端で見つけた吸い殻を位置情報とともに投稿するサイトをつくりました。最初に多く見つかったのは、渋谷のセンター街にある一部のエリアでした。そこで吸い殻を含めたゴミ拾いのボランティア活動を行ったのですが、1時間後にはもう吸い殻が見つかるという状況で、喫煙所の必要性を強く感じました」
山下氏は喫煙所を作るだけではなく、喫煙者が利用したくなる仕組みを作ることでより効果が高まると考えた。そこで始めたのが、投票型喫煙所「ASK THE TOBACCO」だ。
「灰皿に二者択一の設問を記載します。例えば、タイムスリップするなら、どっち? A. 恐竜のいない白亜紀、B. 希望のない25世紀とか。灰皿に用意したAとB、いずれかの投入口に吸い殻で投票できるようにすると、楽しみながら灰皿に捨てられます。喫煙者に、こちらが望む行動を強制するのではなく、そうしたくなる仕組みを用意することで、利用を増やそうと考えました。これは最近ビジネスシーンでもよく用いられるナッジと呼ばれるもので、スーパーマーケットのレジ前の床に、足跡マークをつけて前の人と間隔をあけて並ぶよう促すのもナッジです」

吸い殻だけでなく飲食系のゴミも激減
設営にあたっては、煙が外に広がらないか、吸い殻があふれたらどうするのかなど近隣に迷惑をかけないよう配慮し、これまで都内で5カ所、全国で12カ所の設置実績を重ねている。企画、設置から定期的な清掃までの大部分をコソドが担う。成果はどうか。
「渋谷で設置前の1週間、設置後の1週間、毎日吸い殻を計測したところ全体で9割減でした。現場でタバコを喫っていた人に話を聞くと『灰皿があれば当然そこに捨てますよ』という方や、『タバコを吸うために、わざわざここに足を運んだ』という方もいました。設置すれば、吸い殻のゴミは確実に減ります。それだけではなく周辺に多かった飲食系のゴミも減少しました。投票型喫煙所の設置が抑止力として働いたのかもしれません」
反響も少しずつ広がっている。
「投票型喫煙所を知った小学生が同じような仕組みでゴミ箱を作ったという話を聞きましたし、夏休みの宿題でこの取組をレポートしたいと私たちの話を聞きに来た子どももいます。長野県の高校生からは、地元に投票型喫煙所を設置したいという話をもらって、期間限定で設置し、吸い殻ゴミは40%削減しました。都内では『あれは何ですか?』と区役所に問い合わせの電話がかかってきたこともあるようです」
取組を通じて、吸い殻のポイ捨てを減らそうという課題意識は少しずつ形成されている。

今後について山下氏は、次のように話す。
「現在、私たちは別の事業で得た資金で投票型喫煙所を運営していて、この事業自体は収益を生んでいません。だからどんどん増やせる状況ではないのですが、この取組を通じて、タバコのポイ捨てや受動喫煙などの問題に気づく人が増えることが、課題解決につながっていくと思っています」
誰かを排除することのないインクルーシブな街づくりを
コソドでは、喫煙所「THE TOBACCO(ザ・タバコ)」の設置も行う。その数は、現在都内では60カ所以上、全国でも92カ所に上る。落ち着いた気分で喫煙できるよう、内装にも趣向を凝らした空間で、外国人旅行客の利用も多い。

「東京には古くからおもてなしの文化があります。玄関をいつもきれいに掃除して、うちに来たセールスマンにお茶を出す家もたくさんありました。今、海外からの観光客が増えているのは、東京の街にそういう心を感じることも一つの要因ではないでしょうか。ゴミが少ないのも他の人が不快にならないように、という配慮から来ているんだと思います。タバコに関しても、吸う人も吸わない人もお互いに配慮しあえるような街であってほしい。それが誰もが心地よく過ごせる、インクルーシブな街づくりにつながると思います」
山下悟郎
株式会社コソド
https://cosodo.co.jp/写真/穐吉洋子