AIで詐欺電話を検知・撃退 都立高専「Technology 七福神」の取組
DCONとは
全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(通称DCON)は、高専生がものづくりの技術とディープラーニングを活用した作品を制作し、その事業性を競い合うコンテストだ。現役のベンチャーキャピタリストである審査員の評価により、優勝チームを決定する。
今年は都立産技高専の「Technology 七福神」が、簡単に電話機に設置できる詐欺電話検知デバイス「FraudShield AI」で最優秀賞を受賞した。
高専が生み出すイノベーション
都立産技高専は、8つの本科コースからなる5年制の学校だ。1年次はものづくりの基礎を学び、2年進級時にコースを選択する。実践的教育と技術系の課外活動などを通じてイノベーションを促し、「Technology 七福神」メンバーのような学生たちが能力を伸ばし発揮する環境が整っている。
都立産技高専は、学生の自己責任を重視しつつ、DCONのような学びの機会への挑戦を奨励している。高専は中学卒業後に進学可能だが、入学後は大学生と同様に扱われ、自らが学業面での責任を負わなければいけない。その代わり、インターナショナル・エデュケーション・プログラム(IEP)や、グローバル・コミュニケーション・プログラム(GCP)といった海外プログラムに参加する機会も用意されている。
「Technology 七福神」とは
「Technology 七福神」は、都立産技高専に通う20歳未満の9人からなるチームだ。チーム名は、AIチャットボットのChatGPTを使い、DCONのチーム人数上限である7人を表す名前を選んだ。各メンバーが持つさまざまな興味を、七福神それぞれが持つ福徳になぞらえたものだ。
全員が3年生の「Technology 七福神」は、DCONで見事優勝を果たした。リーダーの西谷颯哲(そうてつ)さんは、プログラミングや基板製造などの重要スキルに基づいてメンバーを選抜。半年間にわたる共同作業でDCONの締め切りに間に合わせるため、自由に意見を言い合えるチーム作りを心掛けた。
チームは、経験不足を感じながらも努力を重ね、DCONのアドバイザーで同チームのメンターを務めたAI技術コンサルティング・開発企業、株式会社Ridge-i(リッジアイ)の柳原尚史代表取締役社長による頻繁な視察と貴重な助言も活かして、成功を手にした。
16歳でのDCON挑戦には困難もあったが、チームはフレッシュな視点と柔軟な思考をもってAIの可能性を探り、メンバー同士でその応用方法について議論し、イノベーションを追求した。
DCON参加を通じ、企画書の作成や高度なプログラミングなどの重要スキルが身についた。それまでの経験とは異なり、革新的な問題解決と協働が必要であった「FraudShield AI」開発は、チームメンバーにとって新たな成長の機会となった。
「FraudShield AI」の誕生
「FraudShield AI」の構想は、西谷さん自身の経験がきっかけだった。西谷さんは1年前、海外プログラムのIEPに参加するために必要なESTA(電子渡航認証システム)申請を行おうとした際、詐欺サイトに約9,000円を支払ってしまった。
金銭的な損失は比較的小さかったものの、精神的なダメージは大きかったという。それまで詐欺被害は高齢者だけのものだと思っていたが、この経験から詐欺問題の解決策を見出したいと感じ始めた。詐欺被害について調べてみると、被害者が自責の念にさいなまれたり、家族とのいざこざに発展したりするなど、金銭面と感情面の両方に甚大な影響を及ぼす恐れがあると分かったことも、開発の原動力となった。
「FraudShield AI」の仕組み
詐欺被害は、日本社会の深刻な問題だ。2023年に認知された特殊詐欺19,038件のうち、犯人側が被害者側に接触する最初の通信手段は77.5%が電話で、うち90.5%が固定電話に対するものだった。
「FraudShield AI」は、リアルタイムで詐欺電話を検知する。通話の内容から、詐欺の可能性が高まるにつれてLEDランプの点灯数が増えていき、AIが完全に詐欺だと判断するとブザーで警告する。インターフェースは、高齢者を中心とした幅広い年齢層が使いやすいよう試行錯誤を重ね、「詐欺」という言葉をカタカナにして読みやすくするなどの工夫を施した。
設置は簡単で、固定電話にマイクを取り付けるだけだ。家族のLINEアカウントを登録しておけば、ブザーが鳴った時点で家族に通知が行くので、使用者の様子を家族が確認して対処できるようになる。
西谷さんは、「FraudShield AI」が普及することで、人々の間で不審な電話への警戒心や詐欺に対する意識が高まり、被害の減少につながることを期待している。