東京の新感覚バーで花開く日本のカクテル文化
世界のバー業界を席巻
東京生まれの川崎育ち。高い志を持つ後閑氏は、バーテンダーとして5年を経た2006年、「ナンバーワンになる」という夢を持って23歳でニューヨークへと渡った。2012年のバカルディ・レガシー・カクテル・コンペティションで、ラムとシェリー、柚子の風味、抹茶を組み合わせたオリジナルカクテル「Speak Low(スピーク・ロー)」で優勝すると、彼は一躍有名になった。
2014年には最初の店舗を上海にオープンし、優勝したカクテルにちなんで「Speak Low」と名付けた。2018年以降は人気の渋谷を中心に東京でもバーを展開している。
「カクテルでもバーや商品でも、アイデアがきれいにまとまって、ビジョンが実現した時が一番わくわくします」と彼は言う。
SG Groupは都内に4店舗を構え、そのほとんどが渋谷にある。「The SG Club」は、三つのフロアからなる店舗に、「Sip」(ゆっくり味わう)、「Guzzle」(気軽に飲む)、「Savor」(香りを楽しむ)という三つのバーが入っている。カクテル居酒屋「ゑすじ郎(SG Low)」は、カジュアルに夜を楽しむ場所だ。コーヒーとカクテルが楽しめるバー「æ(ash)[zero-waste cafe & bar]」は、廃棄物をゼロにすることを目指している。私たちが後閑氏に取材するために訪れた「The SG Tavern」は2024年にオープンしたばかりで、これまでの渋谷ではなく東京丸の内での出店という、SG Groupにとって大きな一歩となる店だ。
店舗ごとにコンセプトは異なるが、各店舗のテーマを決めたら、そのテーマが店内全体を貫くようにするのが後閑氏のこだわりだ。
「コンセプトが決まれば、店名、ロゴ、カクテルメニュー、インテリア、制服などすべてが決まります」と彼は言う。
フードメニューが豊富な店もそうでない店もあり、平均予算は店舗によって異なるが、一度の飲食で1人7,000円から8,000円程度と考えてよいだろう。ぜひ気軽に訪れてみてほしい。
後閑氏のバーは日本人にも外国人にも人気だ。「第1号店を上海でオープンさせたので、中国からのお客様にも来ていただいています」と彼は話す。また、新しくオープンしたThe SG Tavernは、丸の内で働く人たちに好評だという。
日本の豊かな食文化と歴史の魅力を引き出す
歴史あるオフィス街、東京丸の内にあるThe SG Tavernは、日本の食文化や歴史が後閑氏の店にどのように活かされているか聞くのにぴったりの場所だった。
受賞したカクテル「Speak Low」と同様、後閑氏のカクテルの多くは、世界的に人気の高い抹茶や柚子をはじめ、国外ではあまり知られていないどぶろく、泡盛、黒糖、江戸時代に今の東京で栽培が始まった内藤とうがらしなど、日本の食材を使用している。その長い歴史ゆえに、日本には非常に豊かな食材と食文化がある。
「私は日本で生まれ育った日本人ですから、日本の食材を使うのは必然的なことです。それが私の一番よく知っているものですからね。それでも、私や仲間たちが知らない食材はまだまだたくさんあります」
後閑氏のカクテルの多くは、サツマイモ、大麦、米などを原料とする日本の蒸留酒、焼酎を使用している。彼自身がプロデュースする焼酎「The SG Shochu」もあり、九州で製造されている。
初めて店を訪れる客に試してほしい看板のカクテルを尋ねたところ、彼は2つのドリンクを挙げた。一つは、後閑氏オリジナルのピニャコラーダで、珍しいどぶろくを使っているため日本でしか作れない。もう一つは、The SG Tavernのハイボール「薩摩」で、The SG Shochuを使用している。
後閑氏は、明治時代の優れた建築物である東京駅に隣接するThe SG Tavernが、「象徴的な酒場」となることを期待しているという。
「『東京の玄関口』にほど近い丸の内という場所に店を構えるチャンスはそうありません」と彼は話す。
写真/藤島亮
翻訳/喜多知子