東京の高校生たちが「干潟」から届ける、自然と生物の魅力と可能性
竹芝干潟をフィールドに活動する「ひがた部」
竹芝水域の生物や環境の保全と再生を目指し、2020年7月に整備された竹芝干潟。毎月第2日曜日には「竹芝干潟オープンデイ」として開放され、かつて江戸前と呼ばれた東京湾の姿や、目の前の浜離宮の自然を楽しむスポットとして注目されている。
豊かな自然が広がる竹芝干潟でさまざまな生物を観察し、その魅力を届けるために発足したのが東京都立芝商業高等学校ひがた部だ。竹芝干潟の完成前2019年に、現在の部員の先輩たちが有志で立ち上がり、2020年よりスタートさせた。活動の一つが、絵本『ひがたにやってきた』の制作だ。「この干潟を少しでも多くの人に知ってもらいたい」と、子ども向けの仕掛け絵本づくりを行った。部活動を通じて学んだことをいかし、干潟や生物をストーリー仕立てで紹介している。
そんな先輩たちの意思を継ぎ活動を行っているのが、2年生の田口句海乃さん、荒木佐綾さん、1年生の荻沼あやさんら現メンバーたち。田口さんはひがた部の部員だった姉の影響、荻沼さんは生物好きだったことがひがた部への入部のきっかけとなったが、荒木さんはこう語る。「元々、環境問題に興味関心があったこともあり、環境の保全を目的とした干潟に興味が湧き入部を決めました」
干潟から学んだ、東京の自然や生物の魅力
3名とも入部前に竹芝干潟には足を運んでいたが、実際の部活動を経て新たな魅力や気づきを得ていった。田口さんは、干潟ならではの環境に惹かれていると話す。
「こんなに都会の中にあるのに、自然が豊富で心地いい。水の音や汽笛、草木を揺らす風を感じられる特別な場所です。部活動がない時でも勉強に行き詰まったりしたら、干潟に行って癒やされています」
荒木さんは、苦手だった生物が好きになったと言う。
「ひがた部に入ってから、クラゲが大好きになりました。竹芝干潟ではミズクラゲが多く見られるのですが、日が暮れると足元にあるライトに照らされて、幻想的な風景が広がるんです。人工的な干潟ではありますが、いろいろな生物が集まって生態系を作り直している。そういう発見と驚きがありました」
そして元々生物が大好きな荻沼さんは、ひがた部に入ったことで自分自身はもちろん、周りの見る目にも変化が起きたと語る。
「生物の中でも特に虫が大好きなのですが、同級生にそういう人があまりいなくて。だけど、ひがた部に入ってからは自分の大好きな虫について堂々と語れるし、興味を持ってくれる人がいます。それがすごくうれしい」
東京の環境保護にもつながる活動を行う
月に一度開催される「竹芝干潟オープンデイ」では、干潟の研究者との意見交換や、近隣の子どもたちとの交流も行われる。竹芝の自然や生物たちに触れ、楽しそうに過ごす来訪者たちの姿を見て、東京の環境保護についてより意識するようになったと田口さんは話す。
「これまでも学校の授業などでゴミの問題を学んできましたが、実際に干潟でゴミ拾いを行うと、マイクロプラスチックなど大量のゴミが流れ着いていることがわかり、とても驚きました。そういう状況を目の当たりにし、自然や生物を守るために、ゴミを自然の中に投棄しないのはもちろん、ゴミを出さない努力をしようと家族や友達とも話しています」
ひがた部での活動を通じて、自然や生物の尊さを知った3人。先輩から受け継いだ絵本『ひがたにやってきた』200部の完売を目標に、これからも竹芝干潟の魅力を届けていきたいと荒木さんは話す。
「先輩たちの絵本が干潟を知ってもらうための入り口だとしたら、私たちは環境問題や生態系を深く考えるきっかけづくりをしていきたいです。オープンデイのふれあい会やSNS発信など企画はまだ考え中ですが、竹芝干潟について楽しく学べるようなコンテンツを届けていけたら」