東京都初の星空保護区。美しい自然が広がる神津島へ
神津島には自然の恵みがたくさん
東京・竹芝桟橋から高速船で4時間弱、大型夜行客船で約12時間、調布飛行場から飛行機で45分ほどでたどり着く神津島。周囲約22キロメートル、面積18.58平方キロメートル、人口およそ1,700人の小さな島である。到着早々、島ののんびりとした空気を感じていると、「お昼は金目鯛の煮付けがおすすめですよ」と笑顔を向けてくれたのは、今回ガイドを担当してくれる江藤翔氏だ。
「神津島は伊豆諸島の中でも漁獲が高く、漁業が盛んです。一番の漁獲高を誇っているのが金目鯛で、旬の12〜2月ごろは特においしい。港内にあるよっちゃーれセンターの食堂や民宿で味わえると思います」
昼食への期待が高まる中、まず向かったのは島の東側にある多幸湾桟橋。ここからは、神津島のシンボル的存在である天上山を望める。
「標高は572メートルで東京の高尾山と同じくらい。6合目までは車で行け、そこから30分ほどで登れるので初心者の方にも安心です。神津島は離島では珍しく水が豊かなのですが、それはこの天上山があるから。島に降り注いだ雨が天上山の火山岩や地層でろ過されるため、島の至る所で水が湧き出ています」
昔から島に伝わる、水にまつわる神話
村の水道水は地下水を利用しているという神津島。島には水の湧き出るポイントが多くあり、多幸湾近くには多幸湧水も。
「東京の名湧水57選にも選出されています。島民もよく水をくみに来ていて、コーヒーやお茶として味わうことが多いです。島民たちからは『まろやかでおいしい』と言われています」
こうした神津島の水の豊かさは、「水配り神話」として島民に言い伝えられているほどだ。
「伊豆諸島の神々が神津島に集まり、命の源である水をどう分配するかの会議が行われたそうです。しかし議論が白熱し決着がつかなかったため、翌朝来た順番に水を分けることにしました。御蔵島、新島、八丈島、三宅島、大島の神様の順に到着し水を分配していきましたが、最後の利島の神様は寝坊のため大遅刻。水がほとんど残っていないことに利島の神様は怒り、わずかに残った水に飛び込んで暴れました。この水があちこちに飛び散ったため、神津島では水がたくさん湧き出るようになったと言われています」
島全体が暗闇に包まれ、星は夜空いっぱいに
島民ガイドによる観賞会が開かれているほど、美しい星空が広がる神津島。この島の星空について、星空ガイドも務める江藤氏に紹介してもらった。
神津島が認定された星空保護区とは、過剰または不要な人工的な光による光害(ひかりがい)の影響のない、暗く美しい夜空を保護・保存するための取り組みをたたえる国際認定制度に基づいて指定される地区のこと。2020年12月に認定されるまで、神津島では島ぐるみで星空保護区を目指して活動をしてきたという。
「観光協会では2017年から星空ツアーを実施していましたが、星空を子どもたちに残したいという思いから、島として星空保護区の認定を目指すことになりました。光害を対策するため、街灯は必要な場所のみを照らす照明に取り替え、島民自身が星空を語れるようにとガイドの育成にも力を入れました」
こうした島全体での活動が評価され、星空保護区に認定された神津島。島民の多くが一つの集落に集中する一村一集落ということもあり、夜になると明かりがまばらになりにくいため、星明かりが頭上いっぱいに広がる。特に星空観賞会が開催されるよたね広場は、観賞のための好条件がそろっていると江藤氏。
「よたね広場は高台にあるため、街灯や家の明かりが邪魔になりません。それから、近くにある天上山が式根島や三宅島の明かりも遮断してくれる。観賞に適した暗闇が広がるので、大パノラマの星空を望むことができます」
神津島では、本土ではなかなかお目にかかれない恒星、カノープスも見られるという。
「見ると寿命が伸びるといわれているカノープスは、全天で二番目に明るい星。神津島では例年2月の20時ごろに姿を現します。やはり、冬は空気が澄んでいるので星空観賞にはもってこい。カノープスだけでなく、12月のふたご座流星群や冬の大三角形など、純度100%の星空が待ち受けています」
星空を守ることで、自然や動物の保護にも寄与
「星空の話をしているときが一番ワクワクする」と目を輝かせる江藤氏。星空を守ることは、自然環境や野生動物の保護にもつながっているとも話す。
「島内の街灯を、認定条件を満たした照明に切り替え暗闇を守ったことで、自然が本来のリズムを取り戻したように思います。実際に野生動物にも良い影響が出ていて、ウミガメの産卵が島内で10年ぶりに確認できました」
満天の星に出会えるかどうかは運次第ではあるが、自然環境や野生動物の保護にも寄与し、島民の思いが詰まった星空に出会うため、何度でもこの島を訪れたい。
江藤翔
神津島観光協会
https://kozushima.com/写真/藤島亮