革新的な次世代型ソーラーセル、東京国際クルーズターミナルで実装検証

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 東京都は脱炭素社会の実現に向け、軽量で柔軟な太陽電池「次世代型ソーラーセル」の実用化を推進している。
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東京国際クルーズターミナル Photo: courtesy of 東京都港湾局

東京ならではのクリーンエネルギー

 気候変動の緩和に向けた温室効果ガス排出削減の必要性が高まる中、積水化学工業株式会社などの企業はクリーン電力関連の新技術開発を進めている。中でも高い期待を集めるものの一つが、ヨウ素を主原料とした結晶構造を用いたフィルム型太陽電池だ。

 世界で現在97%以上のシェアを占めるシリコン型太陽電池が硬くて重いのに対し、フィルム型は軽量で柔軟性があり、シリコン型では不可能な場所にも設置できる。積水化学は他の企業や自治体と提携し、発電所や農地、建物の外壁、プールの水上、そして東京国際クルーズターミナルを含む公共施設など、さまざまな環境で実装検証を行っている。

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次世代型ソーラーセルは薄くて柔軟性があり、曲面にも設置できる。

 積水化学PVプロジェクト事業企画グループのマーケティングチームでシニアエキスパートを務める久田伸一氏は「日本に多い密集市街地では、従来のシリコン型太陽電池を置ける場所があまりありません」と説明する。同社が照準を定めているのは、太陽光発電のポテンシャルが高いもののシリコン型太陽電池には適さない場所だという。

 こうした技術への期待が高まる一方で、屋外環境が太陽電池に与える影響の把握や、セルに含まれる鉛の安全な使用法や代替品の模索、製造コストの削減など、開発企業が取り組む課題もある。しかし、国や地方自治体、提携企業の関心は強く、これらの課題を克服するための支援は十分得られる見込みだ。

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フレキシブルな次世代型ソーラーセルのメリットを説明する積水化学の久田伸一氏

誰もが間近で見られる場所に

 東京都は、脱炭素化に向けた取組の一環として、次世代型ソーラーセルの「見える化」と社会実装を推進している。

 東京都と積水化学は、下水道施設での実装検証に続き、2024年5月から東京国際クルーズターミナルでの検証を開始し、発電効率や港湾環境に対する耐性を調べている。

 ソーラーセルは、港を一望できる4階デッキの柱に巻きつける形で設置された。生み出された電気は蓄電池に蓄えられ、真上にある「TOKYO」サインの点灯に使われる。

 「このタイプのソーラーセルが、市民にとって身近なものになることを願っています」と久田氏。「クルーズターミナルでは、特別な許可なしに誰でもセルを間近で見ることができます」。東京都は、次世代型ソーラーセルの実装検証や普及推進で積水化学に初期段階から協力してきたパートナーの一つだという。

 東京都環境局気候変動対策部の担当者は「今年度は都有施設での検証に加え、都内で実装検証プロジェクトを実施する企業に対する開発補助金の給付を開始し、早期実用化を促進しています」と説明。「今後も、次世代型ソーラーセルの使用拡大に向けて必要な施策を検討・実施していきます」と述べている。

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次世代型ソーラーセルは、東京国際クルーズターミナルにある「TOKYO」の大型サインに電力を供給している。

目指すは発電の脱炭素化

 計画が順調に進めば、次世代型ソーラーセルが市場に出回る日も近い。積水化学は実用化にあたり、材料を可能な限り国内のサプライヤーから調達する意向だ。幸い、日本は次世代型ソーラーセルの主原料であるヨウ素の生産シェアで世界第2位を誇る。特に東京近郊の天然ガス田には、ヨウ素が豊富に含まれている。

 久田氏によると、積水化学は新型コロナウイルスの世界的流行によるサプライチェーン(供給網)の混乱を教訓に、「災害時にも十分に供給できる材料の調達」に取り組んでいる。国産品は輸入品よりも高価な場合もあるが、輸送関連の温室効果ガス排出量を減らすことで、ソーラーセルのライフサイクル全体の排出量を減らすこともできる。

 「技術進歩による寿命や発電効率の向上に加え、量産化に伴い製造コストが低減し、これらのソーラーセルを利用して誰もが自宅などで、どこでも簡単に発電できる環境が生まれるでしょう」と東京都環境局の担当者は語る。

 東京都と積水化学は、東京国際クルーズターミナルでの検証結果を踏まえ、今後も脱炭素電力の供給に向けたソーラーセル技術の洗練と普及に取り組んでいく意向だ。

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柔軟で軽量な次世代型ソーラーセルは、東京国際クルーズターミナルの柱に設置され、実装検証が行われている。

久田伸一

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1988年、積水化学工業株式会社に入社。入社後、情報システムグループに所属し全社的な情報インフラ構築に携わる。その後、老朽化した下水道管路の更生や診断プロジェクトの立ち上げを経て、2020年東京オリンピックや2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)のIRを担当。2021年、現ソーラーセルプロジェクトに応募。現在は事業企画グループのマーケティングチームに所属し、日本の脱炭素化への貢献を目指している。

積水化学工業株式会社

https://www.sekisui.co.jp/
取材・文/アナリス・ガイズバート
写真/藤島亮
翻訳/遠藤宗生