言語や障害の壁を取り除く「透明ディスプレイ」 東京各所に設置
東京都は、東京2025世界陸上競技選手権大会と第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025を契機に、「いつでも・どこでも・誰とでも」つながるインクルーシブな街の実現に向けた取組を進めている。その一環として、デジタル技術を利用し、音声を多言語に翻訳して表示する透明ディスプレイを導入した。
インクルーシブなコミュニケーション
透明ディスプレイは、多くの人々にデジタル技術を利用してもらうための取組の一環だ。東京都立中央図書館や羽田空港の東京観光情報センターなど、38カ所の都有施設に設置され、訪問者を支援している。日本を訪れたものの、日本語でのコミュニケーションに不安を感じている旅行者の役に立つ技術だ。
会話はリアルタイムで文字に変換され、ディスプレイに投影される。翻訳は驚くほど高精度かつスムーズで、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、タガログ語、ネパール語、シンハラ語、アラビア語、クメール語、ウクライナ語など32言語に対応している。
付属のタブレットで文字を入力してディスプレイに投影することもできるため、耳や発話が不自由な人との会話にも役立つ。
東京都心身障害者福祉センターなど、障害のある方を支援する施設にも設置され、音声をテキストに変換する機能や、翻訳機能を使ったコミュニケーションを実現している。
ディスプレイの仕組み
実際に都庁舎の2階に設置されているディスプレイを使い、英語と日本語、中国語と日本語の会話を体験してみたところ、どの言語でもスムーズなコミュニケーションができた。
まずは翻訳する言語を選択し、タブレットに接続されたマイクに向かって英語を話すと、数秒以内にテキストに変換され、ディスプレイに投影された。テキストはすぐに和訳され、反対側の日本語話者に向けて表示された。翻訳文はさらに、付属のスピーカーから音声で読み上げられた。
相手が日本語で応答すると、その内容が日本語で投影された後に英訳され、テキストと音声で伝えられた。これにより、素早くスムーズで、なによりも正確なやりとりを、リアルタイムで行うことができた。
次に中国語での会話を試したところ、透明ディスプレイのおかげで、言葉がわからない人でもコミュニケーションが取れた。やり方は同じで、マイクに向けて中国語を話すと、その内容がディスプレイに投影され、和訳された。相手はこれにより、すぐに日本語で応答できた。
翻訳の精度は?
過去に通訳ツールを使ったことがある人は、こうした機器には懐疑的かもしれない。だが、透明ディスプレイの翻訳精度は非常に高く、マイクに向かって発せられた人や場所の名前などをすべて完璧に聞き取ることができた。発言内容はディスプレイに表示されるため、機械の聞き取りが間違っていないかをその都度確認できるのも、利点の一つだ。
今回の利用体験では、ディスプレイを介して趣味について話したり、食べ物や旅行に関するおすすめや、都内の名所への行き方を尋ねたりできた。この体験を通じ、ディスプレイが言語や障害の壁を越えたコミュニケーションに必要な幅広い情報を処理・翻訳できることがわかった。
東京2025デフリンピックを機に意識向上へ
透明ディスプレイの設置に携わった東京都生活文化スポーツ局の萬屋亮氏は、来年の東京大会が、デフリンピックや障害のある方々のことを知ってもらう機会になることを願っていると語った。その目標のために、透明ディスプレイ設置以外に、デフリンピックに関するパンフレットを都内の小学校に配布する活動も行っている。
萬屋氏は、デフリンピックのために来日した人々が、日本各地を旅し、東京滞在を楽しみ、この街の魅力を発見し、日本の食や文化に触れてほしいとも考えている。
透明ディスプレイ設置の狙いは、人々にさまざまなコミュニケーション方法を提供し、より多くの人を「つなぐ」ことにあるという。ただし、透明ディスプレイは始まりに過ぎない。今後はスマートフォンアプリやその他の情報機器も活用し、音声を文字に変換するなどして、耳の不自由な人々と文字や手話を介したコミュニケーションができるようにしていきたいと、萬屋氏は説明した。
「インクルーシブな街・東京」の実現へ
透明ディスプレイは、言語や障害の壁を越えた円滑なコミュニケーションを提供する東京都の革新的な取組であり、東京2025世界陸上や東京2025デフリンピックなどの国際的なイベントに向けて観光客と住民の両方の体験を向上させ、多様な人がともに支え合うインクルーシブな社会を推進するものだ。リアルタイム翻訳と音声テキスト化によって人々の相互理解とつながりを深めるこの技術は、「インクルーシブな街・東京」の実現に向けた都の強い意志を示している。
写真/藤島亮
翻訳/遠藤宗生