東京から世界へ:生鮮品ロスを減らしてサーキュラーエコノミーに貢献

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 世界がよりグリーンな未来を目指す中で、持続可能なフードサプライチェーンを作り上げることは、最優先事項の一つとなっている。世界では、野菜と果物を中心に、毎年約13億トンの食品が廃棄されている。つまり、生産された食品の半分以上がロスになっており、経済的損失は1兆ドルを超えるのだ。東京のテクノロジー企業、株式会社クールイノベーションのCOOであるダン・チャン氏は、食品ロスを経済価値に変えようと取り組んでいる。
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SusHi Tech Tokyo 2024でクールイノベーションの画期的な技術を紹介するCOOのダン・チャン氏
Photo: courtesy of クールイノベーション

持続可能なネットワークの構築

 チャン氏は台湾に生まれ、1990年代初めに10代で東京に移住した。この時期に何度も転居したり、学業を中断したりと紆余曲折を経た後、2003年に日本ヒューレット・パッカードのグローバルアカウント部門にて勤務し始めた。

 その後、起業しながら、MBAを取得したことでさまざまな道が開かれた。「2018年にアマゾン ウェブ サービスに加わり、スタートアップ企業の創業者を支援しました」

 この仕事を通じてクールイノベーションを知り、2021年に創業者の坂下茂氏を紹介された。「彼らの技術を知って、世界を変える可能性があると思いました。彼らがやろうとしていることに心から惹かれました」。創業から初期の段階では、非工学系の人材にできることはあまりなかったため、2023年初めまではただ連絡を取り合うようにしていた。同社の目標とビジョンを評価、検討した上で、日本の商習慣として欠かせない信頼関係の構築に努め、1年余り前から本格的に事業に参加するようになった。

食品保存に対する斬新な考え方

 「クールイノベーションの技術は、ケミカルスプレーや特殊な包装材の使用をせずに、野菜や果物の貯蔵期間をはるかに長くでき、場合によっては10倍にまで延ばせます」とチャン氏は説明する。「例えば、日本には非常に高価で繊細な果物がありますが、鮮度が悪くなりやすいです。シャインマスカットなどの例では、何の問題もなく貯蔵期間を3カ月まで延ばせます。いちごはさらに1カ月半長持ちするうえ、高湿度の倉庫内でも段ボール箱が乾いた状態を保てます」。業界では、そのようなことは不可能だと考えられていたが、クールイノベーションの技術は実証済みであり、複数の分野の顧客に採用されている。

 「現在の冷蔵技術は、冷風を吹き出して周囲の温度を下げるだけなので、乾燥が進んでしまいます。霜がつくため、湿度を90%以上に保つことはできません。果物や野菜の『寿命』を延ばすには高湿度と低温が必要で、私たちの技術はその両方がかなえられます」とチャン氏は言う。農産物に合わせて湿度をコントロールすることで、より長い期間新鮮な状態を保てるため、結果的に食品ロスが減る。

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クールイノベーションの技術を使うと、グリーンレタスは最長45日間鮮度を維持できた。Photo: courtesy of クールイノベーション

 「すべての人に行き渡るだけの食料がないと思っている人も多いのですが、そうではありません。私たちはサプライチェーンの過程で、野菜と果物全体の約半分を無駄にしているのです」。食品ロス対策はグローバルな問題であり、SDGs(12.3)にも、2030年までに食料の廃棄を半減させるという目標がある。現在、G20の中でこの目標に向け順調に進んでいるのは日本を含め4カ国だけであり、クールイノベーションはこの分野で大きく貢献したいと考えている。 

 この技術が役立つのは食品の保存だけではない。チャン氏は、「当社の技術に必要なエネルギーは、従来の冷蔵庫のわずか半分です。倉庫のコンテナであれ輸送コンテナであれ、現在使われているエネルギーの50%しか必要ありません」と言う。クールイノベーションのウェブサイトには、「収穫後から流通までの食品ロス95%削減、CO2排出量98%削減」とある。世界のSDGs目標を達成するには、このような大胆な目標が重要である。

ブランド認知の向上

 会社を軌道に乗せるまでにやや時間はかかったが、坂下氏はやがて支援を得ることができた。チャン氏は「2020年2月に、クールイノベーションは、生鮮食品の新しいコールドチェーンを確立するため、日本の環境省から補助金を受けました。フィリピンで行ったケーススタディでは、現地の食品トレーダーのROIが20倍になりました」と話す。チャン氏は、この技術をさらに拡大したいと考えているが、それにはブランド認知とネットワーク構築が必要だ。クールイノベーションは最近、SusHi Tech Tokyo 2024のおかげでそのような機会を得た。SusHi Tech Tokyoは、世界の問題解決に役立つデザインを開発しているイノベーターや企業が、年に一度集まるイベントである。

 クールイノベーションは、日本や海外のスタートアップ企業を対象とした国際ピッチコンテスト、SusHi Tech Challengeに参加した。2024年に応募した507社の中で、クールイノベーションは7社のファイナリストに残った。「SusHi Tech Tokyo 2024への参加は素晴らしい経験になりました」とチャン氏は言う。「イベントに申し込んだら、セミファイナリストに選ばれたという通知が届いて、思いもよらない嬉しいサプライズでした」

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チャン氏は、人類の食糧供給に関する持続可能な未来を促進するため、クールイノベーションの技術を推進したいと考えている。

 ファイナリストに選ばれ、念願の知名度と名声が得られたことには「大きな価値があった」という。「人と話をするときに、SusHi Tech Challengeのファイナリストであることが話題に上ることもありますし、企業情報に載せることもできます」。チャン氏は、これを一度限りのことにしたくないと考えている。「来年もまた参加して、受賞したいと思っています」。優勝企業には、事業を推進するため1,000万円の賞金が提供される。

 このようなイベントに参加することに加え、東京に本社があることも、クールイノベーションに多くのメリットがあるという。「SusHi Techでもわかるように、東京には持続可能なハイテクに関連するさまざまなリソースがあります。東京は事業に最適な都市の一つです」。クライアントの多くと同じ都市に本社があることも追い風だ。「東京か近郊に拠点があれば、見込み客にデモを見せるのも簡単です。当社のようにハードウェアが大型であればなおさらです」

 サステナビリティに対する東京のアプローチについて、チャン氏は「まさに効率が鍵です。一般に、何であれ大幅な効率化ができれば、エネルギーと資源の消費量が抑えられるため、より持続可能になります。インフラ、デザイン、さらに清潔さも、とても効率的で暮らしやすい都市の条件です」と述べている。

 チャン氏のようなイノベーターは、東京を国際的な教育、イノベーション、エンターテインメント、グローバルビジネスの中心として繁栄させる力になるかもしれない。もちろん、その中には未来に向けた持続可能なソリューションも含まれる。この点についてチャン氏は、東京を拠点としてクールイノベーションの技術を世界に広め、より持続可能でグリーンな未来への道を開く力になりたいという。彼が目指すのは、食品ロスが解消し、食糧不足が過去のものになった世界である。

ダン・チャン

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台湾生まれ、日本育ちのチャン氏は、日本HPでキャリアをスタートさせた。台湾に帰国後、半導体企業やエレクトロニクス企業の海外進出支援で中心的な役割を担った。2012年に最初のスタートアップ企業を立ち上げ、さらに2社を共同設立した後、2018年にアマゾンに入社した。また、グローバルビジネス戦略の改良や資金調達支援によってスタートアップ企業をサポートし、評価額を3.5倍に向上させた。

株式会社クールイノベーション

https://cool-innovation.com/ja

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Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyoは、最先端のテクノロジー、多彩なアイデアやデジタルノウハウによって、世界共通の都市課題を克服する「持続可能な新しい価値」を生み出す東京発のコンセプトです。

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取材・文/ローラ・ポラコ
写真/井上勝也
翻訳/伊豆原弓