日本独自の文化から生まれた「2030年使い捨て傘ゼロプロジェクト」
なぜビニール傘なのか?
アイカサは、傘のレンタルサービスを通じて使い捨て傘の使用を減らすことを目的としている。利用者は1回140円、または月額280円で傘を借りることができる。アイカサは、2030年までにビニール傘の購入本数を上回ることを目標に、「2030年使い捨て傘ゼロプロジェクト」を立ち上げ、さらなる成長を目指している。
初めて日本を訪れると、雨の日に街中に広がる傘の数に圧倒される人もいるだろう。イギリスやアメリカでは、雨は多いが小雨なので、傘よりもレインコートを好む人が多い。丸川氏によれば、マレーシアでは雨が激しいため、人々はショッピングモールで雨宿りをするか、Uberに乗ることを好むという。
それに比べて日本は地下鉄社会であり、コンビニエンスストアも発達しているため、傘を買うのも手軽で身近である。実際、日本では年間約1億2,000万本から1億3,000万本の傘が消費されており、そのうち約6,000万本から8,000万本が使い捨てのビニール傘だと言われている。
日本で傘の廃棄が多いことを知った丸川氏は、東京で傘のシェアリングサービスを立ち上げることを決意した。彼は、マレーシアで頻繁に利用していたUberやGrab(シンガポールの配車アプリ)といったシェアリングエコノミーの成功例や、日本で人気が高まっている自転車シェアリングからヒントを得た。
アイカサの傘は何が違うのか?
ビニール傘はペラペラで壊れやすい。手軽に手に入るため、電車やトイレに忘れてしまい、コンビニで新しい傘を買い、家に何本も傘があるという人も多いだろう。
アイカサの傘はより頑丈で、必要に応じてすべての部品を分解して交換することができる。返却された傘は検査され、ケアが必要な傘は回収され、骨が1本ずつ修理される。
一度しか使われないことも多いビニール傘に対し、アイカサの傘の耐久年数は約5年間で、年間100回雨が降れば約500回使用できる。丸川氏は、アイカサがTFAのESG投資部門に認定されたのは、このような資源コストの低さに加え、耐久性のある製品に焦点を当てたことが「環境省の循環型社会形成の目標とも合致する」と強調する。アイカサを通じて、Nature Innovation Groupは、環境と経済のトレードオフという概念に挑戦し、環境と経済の双方に利益をもたらすモデルを創造することを目指している。
東京金融賞2023への参加
Nature Innovation GroupがTFAに参入した背景には、東京における使い捨て傘の多さと、東京都が環境への取組に強くコミットしていることがある。丸川氏は、傘のサービスを東京都のインフラに組み込むことを目指しているため、東京都や地方自治体との連携の重要性を強調した。TFAへの参加は、アイカサを認知されたサービスとして位置づけ、設置場所の拡大を促進する可能性がある。
丸川氏は、受賞企業の多様性に感銘を受けたという。2020年の世界発信コンペティションの受賞式が新型コロナウイルス感染症の流行により中止となったため、小池百合子都知事と直接会い、賞を受け取ることができたことに感謝の意を表した。
ソーシャル・インパクト・スタートアップのための資金調達
スタートアップ企業、特に社会的インパクトを重視する企業にとって、資金調達と金融賞は必須である。Nature Innovation Groupがメンバーである一般社団法人インパクトスタートアップ協会(以下、ISA)のような組織は、持続可能性を促進するために、利益と社会的利益のバランスをとることを目指している。
ISAにおけるさまざまな有名企業の成功は、こうした目標達成における財政支援の重要性を浮き彫りにしている。
起業家のハブとしての東京の魅了
丸川氏は、東京の人口密度の高さと金融力がビジネスにとって有利な環境を作り出していると指摘する。
東京は革新的なアイデアを支援する場所であり、東京都や環境省は事業開発のための助成金やリソースを提供している、と彼は見ている。さらに、日本のベンチャー・キャピタルの存在感が高まっていることも、起業家に新たな資金調達の機会を提供し、東京は社会的・環境的ベンチャーがアイデアを試す場としてますます魅力的な場所となっている。
アイカサの未来
丸川氏は、日本のコンビニエンスストア約5万店のうち、約3万店が傘の需要がある地域に立地していると話す。今後3~4年でこの数字に匹敵するようにアイカサの設置場所を拡大し、2030年までに新品の傘の数をアイカサの傘の数が上回り、使い捨て傘をゼロにすることを目指している。
丸川照司
写真/藤島亮