都心から30分で紅葉狩り 井の頭恩賜公園の楽しみ方
喧騒から離れた静謐な空間
およそ43万平方メートルの広さを誇る井の頭恩賜公園が開園したのは1917年。すでに100年を超える歴史をもつ都立公園だ。園内のほぼ3分の1を占める井の頭池は江戸時代から有数の湧水池であり、江戸の庶民の水源として大切にされ、都心を流れる神田川の源流でもある。
最寄り駅のJR中央線吉祥寺駅は、JR東京駅から快速で約30分という便利さだけに、散歩やデートコースとして人気があり、春は桜、晩秋から初冬は紅葉狩りが楽しめる。吉祥寺駅から公園に向かう道にはおしゃれなカフェや雑貨店が並ぶが、公園の周囲は閑静な住宅街になっているため、喧騒から隔絶された静謐な雰囲気を味わえるのだ。
水面に映える美しい風景
園内は井の頭池周辺や雑木林のある御殿山エリア、三鷹の森ジブリ美術館や野球場、小鳥の森などを擁する西園、第二公園のエリア、そして井の頭自然文化園(動物園)を含むエリアの大きく4つに分かれる。
吉祥寺駅から歩いて園内に入ると最初に目に入るのは、東西に伸びる広大な井の頭池の中央にかかる七井橋。井の頭池にはかつていくつもの湧水口があったことから七井の池と呼ばれ、橋の名もこれに由来する。橋の上に立つと、池の周囲に生い茂る樹々が水面に映える美しい風景を一望することができる。春ならば桜の花吹雪が水面に散り敷き、晩秋から初冬にかけては、色鮮やかな紅葉が目を楽しませてくれるのだ。
橋を渡りきったところにはボート場があり、スワンボートでゆったりまったり、秋風に揺られながら池を一周するひとときが心地よい。
そのまま西に向かうと、3代将軍徳川家光が鷹狩の際に休憩舎を建てたことが名前の由来となった御殿山がある。イヌシデ、コナラ、クヌギを中心にした雑木林で、樹々や土の香りに包まれてたっぷりと癒される。
大切な保全活動
こうした豊かな自然に恵まれているだけに、井の頭公園では様々な生き物たちの姿も目にできる。とりわけ池の水鳥の種類と数の豊富さは都内の公園の中でも群を抜いている。1年を通して生息している留鳥はアオサギ、カルガモ、カイツブリ、そしてカワセミなど。晩秋から冬にかけて渡ってくる冬鳥がオオバン、キンクロハジロ、オナガガモ、ハシビロガモなどだ。
もちろん、自然のあるがままだけではなく、水鳥を大切に保護し育むための活動も大切だ。池の水を抜いて底に日を当てる「かいぼり」という作業や、池底の土砂を岸辺に寄せて段をつくり湿生植物が生育できる浅い場所の整備など、都の職員や一般市民、井の頭かいぼり隊などのボランティアが協力し合い、定期的に行っている。
また、環境省のレッドリストでは絶滅の危険性がもっとも高い「絶滅危惧I類」に指定されている水草イノカシラフラスコモの保全も、実はそうした活動と連動している。1957年に井の頭池で発見され、日本固有種として新種登録されたが、以降は存在が確認できず絶滅したと見なされていた。それが2016年、およそ60年ぶりに再発見されたのだ。「かいぼり」による刺激で発芽に至ったのではないかと見られている。その姿は、園内にある井の頭自然文化園水生物館で見ることができる。
このほか、下草や中低木がよく茂っているために好んでやってくる小鳥たち(ツミ、ツグミ、シロハラ、ルリビタキ)のための「小鳥の森」(バードサンクチュアリ)は、保全区域だけに立ち入りはできないものの、小鳥たちの様子を小窓からのぞいて観察できる壁面がある。また、池の西端に浮かぶように佇む徳川家光が再建したと伝わる弁財天も見応えがある。
まだまだ魅力的なスポットが多い井の頭恩賜公園、ぜひ訪れてみてほしい。