若手デザイナーが見据える、東京のファッションシーンの行方

 東京都が主催するファッションコンクール「Next Fashion Designer of Tokyo(NFDT)」と「Sustainable Fashion Design Award(SFDA)」。第2回目となる両コンクールの最終審査が2024年3月に行われ、新たな才能が見出された。それが「NFDT」で東京都知事賞・大賞を受賞した立澤拓都氏と、「SFDA」で同じく東京都知事賞・大賞を受賞した並木力也氏だ。当時文化服装学院に在学していた2人の思いや学校卒業後の活動、そしてファッションの拠点を目指す東京への考えと今後のビジョンを伺った。
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2024年の「Next Fashion Designer of Tokyo」で、東京都知事賞・大賞を受賞した立澤拓都氏の作品「ほころび」Photo: courtesy of 東京都産業労働局

学生最後のファッションコンクールへの思い

 東京都が2022年に新設したファッションコンクール「Next Fashion Designer of Tokyo(NFDT)」と、「Sustainable Fashion Design Award(SFDA)」。両コンクールとも、東京をパリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンと肩を並べる「ファッションの拠点」としていくため、世界に羽ばたく若手デザイナーの発掘・育成を目的としている。

 両コンクールの大きな特徴は、「NFDT」は応募対象者が都内在住・在学中の学生であること、「SFDA」は着物など日本独自の文化を活用し、新たな世界観を表現しているかが評価基準となる点だ。また、「NFDT」は自由なテーマでデザインを行うフリー部門と障害のある⽅を起点とし、ニーズに即した機能性とファッション性を併せ持つ服をテーマとするインクルーシブデザイン部門、「SFDA」は着物の生地などの活用を想定したウェアを対象とするウェア部門と、着物の生地などの活用を想定したバッグといったアイテムを対象とするファッショングッズ部門の計4部門に分かれる。

 合計2,300点以上の応募作品の中から、「NFDT」のフリー部門で東京都知事賞・大賞を受賞した立澤氏、「SFDA」のウェア部門で同賞を受賞した並木氏。学校の先生やファッション関係者からの勧めもあり、コンクールに参加することを決めたという2人だが、学生最後のコンクールとなることから、その思いはひとしおだった。特に立澤氏は2回目の挑戦となるため、気合は十分だったと話す。

 「これまでさまざまなコンクールに挑戦してきましたが、グランプリを取ったことがありませんでした。だから、学生最後のコンクールだし、どうしても一番になってみたかった。ここで評価されなかったらファッションの道は諦めるくらいの気持ちで、1作1作に思いを込め、50以上の作品を応募しました」

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「NFDT」に参加した当時の想いについて語る立澤氏

 書類選考やワークショップの参加、デザイン画に沿った作品の制作などを経て、東京都知事賞・大賞に選ばれる。受賞した時の気持ちを立澤氏はこう振り返る。

「初めて大きな賞を受賞したこともあって、素直にすごく嬉しかった。それまで家族や友人たちが応援してくれていたので、これで少しは恩返しになるかなと思いました」

一方の並木氏もまた、これまでにない感情が湧きあがったと言う。

 「安堵や驚愕、歓喜、緊張など、さまざまな感情が入り混じっていて、頭が真っ白になりました。それまで気を張っていたものが緩んで、すべての感情が溢れ出ました」

世界で活躍するデザイナーから受けた刺激と影響

 「NFDT」と「SFDA」のワークショップや審査会などでは、ファッション界で世界的に活躍する審査員から、1コメントやアドバイスなどのフィードバックが受けられるのが大きな特徴だ。審査員からのフィードバックが自身の考えに大きな影響を与えたと、立澤氏は言う。

「デザインやビジネス面はもちろん、サステナビリティについての考えや、僕自身がこのコンクールで表現する意味合いについても問われました。僕の今回のテーマは『ほころび』。完璧じゃないものを表現すること、美しさを崩すことに対して、自分の個性を出しながらどう向き合っていくかを、審査員の方々から丁寧にアドバイスいただきました」

 受賞作品の商業施設での展示やパリでの展示会参加の支援など、受賞者へのサポートが充実しているのも両コンクールの魅力だ。そうした支援体制は、「若いデザイナーが世界を目指すきっかけになる」と並木氏は言う。

 「実際に受賞者に向けて何度かワークショップがあり、世界的に活躍されているデザイナーの方々からの講義もありました。そして、受賞者には展示の機会が与えられ、ブランド立ち上げに向けた実践的なサポートも。若手デザイナーの支援に力を入れているということを実感し、自分としてもいい刺激となりました」

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2024年に開催された「Sustainable Fashion Design Award」で、東京都知事賞・大賞で受賞した並木氏の作品「流」Photo: courtesy of 東京都産業労働局

 さらに「SFDA」への参加は、サステナブル・ファッションについて考える良い機会になったと並木氏は続ける。

 「コンクールでは素材の循環を意識しましたが、サステナブル・ファッションに関しては素材だけでなく、公正な賃金、労働時間、安全な作業環境の確保など、労働条件の配慮が課題だと改めて感じました」

ファッションの拠点としての東京

 両コンクールの目的は、東京を「ファッションの拠点」とすること。並木氏は「実際に東京のファッションを目的に来日している方も多い」と話す。立澤氏もまた、「東京はそのポテンシャルを秘めている」と、東京への期待を寄せている。

 「東京で暮らしていると、みんな自由にファッションを楽しんでいることに気づきます。それは東京という都市に、多様性や個性を認め合う寛容性があるからかもしれません。だからこそ、東京は世界に匹敵するくらいのファッションの拠点になる可能性があると思います」

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立澤氏は東京の様子をイメージし、卒業制作で「東京パッチワーク」を手がけた。

 そう話す立澤氏が現在活動しているのが、文化服装学院在学中に講師として出会った世界的なデザイナー・小西翔氏が開催するファッション教育システム「Sho_Konishi_Design_Lab」だ。

 「在学中に小西さんからは、『行動力があれば道は開ける』ということを背中で見せていただき、ものづくりへの向き合い方が変りました。そういうご縁があって、海外のメゾンで働くことを目標に、小西さんの元で世界に通用するポートフォリオやデザインコンセプト、デザインにおける個性の扱い方を学んでいます」

 並木氏もまた、自身の夢に向かって幅広く活動している。

 「今はファッションに限らず、多様な表現に興味があるのでフリーランスを選びました。さまざまな可能性を探求しつつ、自身のブランドの立ち上げに向けて精進したいと思っています」

立澤拓都

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埼玉県出身。2024年文化服装学院ファッション高度専門士科を卒業し、最も優秀な生徒に贈られる「優等賞」を受賞。現在、「Sho_Konishi_Design_Lab」で活動中。在学中には東京都主催の「Next Fashion Designer of Tokyo」で東京都知事賞・大賞を受賞。卒業制作「東京パッチワーク」は、SERVICE95やNOT JUST A LABELといった国際的プラットフォームで紹介された。

並木力也

2021年に文化服装学院に入学。在学中から学内外で積極的にクリエイティブ活動を展開し、数々のコンクールで受賞・入選を果たす。2022年からはShibuya Fashion Week「THE INCUBATION」に3シーズン連続で参加。2023年には国内最高峰のファッションコンクール「装苑賞」でファイナリストに選出され、翌年、東京都主催「Sustainable Fashion Design Award 2024」ウェア部門の東京都知事賞・大賞を受賞。同年、文化服装学院アパレルデザイン科を卒業し、現在は次への挑戦に向けての準備を進めている。

取材・文/船橋麻貴
写真/藤島亮