昆虫を利用したバイオテックで廃棄物を資源に

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 食品廃棄物が既存のソリューションでは追いつかないほどのペースで増加し、世界的な問題として深刻化している。埋立処分場がごみであふれ、資源が浪費される中、革新的で持続可能な廃棄物処理ソリューションが、かつてないほど緊急に求められている。このような状況において、マレーシアのスタートアップ企業、Entomal Biotechは、異色ながらも非常に効果的なソリューションに注目した。ヘルメシア・イルセンス(Hermetia illucens)、別名ブラックソルジャーフライ(BSF)である。持続可能な未来を創るための同社の革新的なアプローチについて、共同創立者で最高商務責任者(CCO)のヤンニ・チン氏に話を聞いた。
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BSFの乾燥幼虫と糞のサンプルを手にするEntomal Biotechのヤンニ・チンCCO。

BSF―自然が生み出した、廃棄物処理のエキスパート

 Entomalが利用するのは、有機物質を資源に変えるというBSFの持つ驚くべき能力である。「ブラックソルジャーフライは、もともと北米、中米に生息していましたが、第二次世界大戦後は世界中で見られるようになりました」とチン氏は話す。「BSFの幼虫は腐敗した物質を極めて効率的に消化し、スプーン1杯分の幼虫で1トンの廃棄物を処理できます」

 この幼虫は、成長する中で2つの役割を果たす。すなわち、高タンパクな家畜用飼料となるとともに、排泄物は栄養豊富な肥料となるのだ。昆虫の養殖は目新しいものではないが、Entomalは自然の力を利用して、持続可能な食品廃棄物処理に取り組んでいる。

 「Entomalは、BSFの力を利用してソリューションを創出するという、より包括的な取組を行っています」とチン氏は言う。「肥料の生産に加えて、栄養価が高く、従来の飼料と同程度の価格で提供できる、高タンパクな家畜用飼料も複数開発しました。将来の人間のタンパク源としての可能性も探っています」 

 Entomalは、BSFの能力を最大限に活用することで、廃棄物削減だけでなく、経済や環境面での利益にもつながるモデルを実現した。

循環経済の推進 

 Entomalは、包括的なアプローチによってさまざまな面から廃棄物に取り組み、従来のリサイクルの枠を超えたソリューションを提供している。同社の循環経済モデルは、企業、地域社会、生態系に恩恵をもたらすものだ。

 「ホテルが生ゴミを肥料や家畜の飼料に変換すれば、新たな収益源になります」とチン氏は話す。大学はBSFを授業のカリキュラムに取り入れ、持続可能な取組の研究に役立てている。ふれあい動物園の動物に与える餌として、BSFの幼虫を採用しているテーマパークもある。 

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Entomalのビジョンとプロセスの中核をなすのは、循環経済の推進だ。   Photo: courtesy of Entomal Biotech Sdn Bhd.

 「私たちの循環経済モデルは、当社にとっての利益になるだけでなく、さまざまなコミュニティにとってもプラスになります」とチン氏は言う。食品廃棄物が資源に生まれ変わることで、企業は課題をチャンスに変えることができる。Entomalのソリューションは、環境への効果だけでなく、経済的なメリットもあることから、利用が拡大している。

二酸化炭素の排出量削減 

 Entomalの事業は食品廃棄物問題の解決にとどまらない。同社は、気候変動の主な要因である二酸化炭素の排出削減にも取り組んでいる。埋め立てや焼却など、従来の廃棄物処理方法では大量の温室効果ガスが発生する。これに対し、BSFを利用した廃棄物処理では、大量のエネルギーを消費するプロセスが必要ない。「当社は、二酸化炭素の排出量を大幅に削減できる廃棄物処理ソリューションを実現しつつあります」とチン氏は語る。

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BSFを利用した廃棄物処理による、二酸化炭素排出量削減効果について説明するチン氏。

 Entomalはこれまでに22.5トンを超える食品廃棄物を処理し、二酸化炭素の排出を約55トン削減している。しかし、同社が目指しているのはもっと大規模な事業展開である。「当社の中央プラントは、1日に5トンの廃棄物を処理する能力がありますが、現在、これを30トンに引き上げるべく取り組んでいます。最終的には、中央プラントを拡張することで1日2,000トンの廃棄物を処理し、二酸化炭素の排出を1日当たり5,000トン削減することを目指しています」

 Entomalの取組においては、テクノロジーが極めて重要な役割を果たしている。「これらのツールにより、クライアントは自社のカーボンフットプリントを追跡し、持続可能性のための取組の成果を測定することができます」とチン氏は述べる。Entomalは、ブロックチェーンやWeb3、IoTセンサーなどの先進技術の活用も模索している。「将来的には、このデータを炭素トークンやクレジットに変換し、プロセスにさらなる価値をプラスしたいと考えています」

SusHi Tech Tokyoを機に日本でのパートナシップを模索

 Entomalの革新的なソリューションは、SusHi Tech Challenge 2024ピッチコンテストで、日本の企業や政府の担当者の注目を集めた。同社はファイナリストに選出され、Global Digital Innovation Networkと東京都から栄誉ある特別賞を授与された。

 「日本への進出はあまり考えていませんでしたが、SusHi Tech Tokyoでは素晴らしい経験ができました」とチン氏は振り返る。「日本は海外のソリューションの導入に対して非常に前向きで、協力的です。サポートのおかげでプロセスがスムーズに進み、いつでも日本市場に参入できると感じています」 

 日本のBSF市場はまだ黎明期にあるため、Entomalは自社の技術を日本に展開するための現地パートナーを積極的に探している。 

Entomalのこれから 

 Entomalは、母国マレーシアにとどまらず、より広い市場を見据えている。廃棄物を単に捨てるのではなく、価値あるものへと転用するグローバルなエコシステムの実現を目指しているのである。しかし、このビジョンを実現するには協働が不可欠だ。

 「私たちは、家畜用飼料や肥料の生産を通じて、マレーシアのみならず、世界の農業の発展を促し、人類の食料の安全保障を強化することを目指しています」とチン氏は語る。「そして、これらの取組を単独で行うのではなく、政府、企業、学術界、政策立案者らを巻込んだ協働型のエコシステムを構築したいと考えています」 

 しかし、持続可能性の実現には障害がつきものだ。廃棄物処理は、身体および物流面での困難を伴う、しばしば見落とされがちな業界である。だが、チン氏は、困難を上回るやりがいがあると考えている。「食品廃棄物処理は、きつい業界です。汚く、危険で、困難です」と彼女は言う。「それでも、私たちは事業を通じてこれらの課題に取り組むと同時に、次世代の若者たちが理想の世界を目指して変化を起こせるよう、彼らに力を与え、彼らを鼓舞していきたいです」 

 Entomalの取組は、世界共通の課題の解決に当たり、イノベーションと強い意志がどれほど大きな力を持つかを示している。同社は、廃棄物を資源に変えることで今日の課題を解決するだけでなく、より持続可能な明日を創るための基礎を築いている。「今日、行動を起こさなければ、変化は起きません」とチン氏は締めくくった。

ヤンニ・チン

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     ブラックソルジャーフライの幼虫を利用した技術により、廃棄物を価値ある資源に変えるパイオニア企業であるEntomal Biotechの共同設立者兼最高商務責任者(CCO)。EY Entrepreneur Of The Year Malaysia 2024 のトップノミニーの1人に選ばれたチン氏のもとで、Entomalは、Global Top 50 Deep Tech Startupに選出されたほか、Asian Entrepreneurship Award 2024のチャンピオンに選ばれるなど、大きな成果を挙げている。チン氏は、Tatler誌のGen.T Leaders of Tomorrow(明日を担うT世代のリーダー)、Food System Change Maker 20 under 40(40歳未満のフードシステムチェンジメーカー20人)にも選ばれており、持続可能性の推進と影響力のあるイノベーションの創出に力を注いでいる。

Entomal Biotech Sdn Bhd

www.entomal.com
*英語サイト

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Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyo は、最先端のテクノロジー、多彩なアイデアやデジタルノウハウによって、世界共通の都市課題を克服する「持続可能な新しい価値」を生み出す東京発のコンセプトです。
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取材・文/アンジェリン・ラバダン
写真/穐吉洋子
翻訳/喜多知子