電力の自給自足と脱炭素社会を目指す、官民協働の再生可能エネルギー事業

震災でエネルギーの重要性を痛感
偉大なイノベーションや解決策は逆境から生まれるとも言われるが、Looopを創業した中村創一郎氏の場合も、まさにそうだった。2011年に東日本大震災が発生した際、中国で事業を営んでいた中村氏は、すぐに被災地の自治体に連絡を取り、太陽光発電パネルの寄付を申し出た。
しかし、被害の甚大さに圧倒されていた自治体職員らは、パネルを自分たちで設置できる状況にはなかった。そこで中村氏は、ワゴン車に太陽光発電パネル4枚を積み込んで現地入りし、自ら避難所に設置して回った。
電力が得られ、最新のニュースを知ることができた人々の安堵した表情を見て、中村氏は、安定したエネルギー供給の重要性を実感。わずか1カ月後にLooopを設立した。同社は以来、消費者が容易に再生可能エネルギーを選択・利用できることを目指している。

再エネへの切り替えを簡単に
Looopは現在、森田氏が率いており、所有または提携する太陽光発電所は全国2,500カ所に上る。約34万世帯に再生可能エネルギーを供給し、その数は増え続けている。森田氏によると、太陽光発電は世界的に見れば最も安価な部類のエネルギー源だが、日本では諸問題により運営規模の拡大が難しい。
「日本が抱える主な問題の一つは、土地の不足により、太陽光発電所を建設するのに適した場所を見つけにくく、そうした場所の地代が高くなりがちであることです。さらに、パネルの費用や、安くはない日本の人件費も加わります」

クリーンエネルギーには生産だけでなく、制御面の課題もある。「再生可能エネルギーの出力は変動するので、安定性と信頼性の高い電力を消費者に供給する方法を作ることが、当社の大きな強みの一つです。発電所に大型の蓄電池を設置することに加え、家庭にもこれと似た小型の蓄電池を設置することで、制御が可能になります」。小規模なベンチャー企業がエネルギーの生産から管理、供給まで一貫したバリューチェーンを提供できるのは珍しいという。
Looopのノウハウは現在、全国各地の人々のために活用されている。東京都は2021年3月、「ゼロエミッション東京戦略2020 Update & Report」を発表した。
気候危機とエネルギー危機に直面する東京都は、脱炭素化とエネルギー自給率の向上に向けた構造転換を図るべく、複数の官民ファンドを創設し、グリーンファイナンスの発展に向けて取り組んでいる。そのうちの一つである「サステナブルエネルギーファンド」は、再生可能エネルギー発電所やクリーンエネルギー拠点等の整備を促進するために設立された。本ファンドの運営事業者は2021年11月に公募され、12月の審査を経て、Looopが選出された。

東京都の脱炭素化をサポート
東京都は2022年3月、サステナブルエネルギーファンドに10億円を出資。今後は幅広い民間企業からの出資を募り、規模を100億円に拡大することを目指している。
日本がエネルギー源の約88%を輸入に頼っていることを考えると、Looopと東京都が目指す再生可能エネルギー利用の急速な拡大は、喫緊の課題だ。

「気候変動対策の目標はもちろん非常に重要ですが、国がエネルギーを自給自足できることは、安全保障と経済の面からも重要です」と森田氏は語る。「これは大きな目標であり、民間企業あるいは行政機関だけでは達成できません。東京都はそれを理解しており、さまざまな組織が協働するためのサステナブルエネルギーファンドを設立しました」
投資案件の第1号となったのは、Looopと中部電力が合資する北海道の風力発電所「ウィンドファーム豊富」だ。2022年に建設が始まり、2024年3月にタービン8基が運転を開始した。年間発電量は約7,900万kWhで、2万5,000世帯にクリーンエネルギーを供給できる。ただ、これは始まりに過ぎない。
「ファンドの運営事業者として、新規プロジェクトの募集を行っています。太陽光、風力、地熱発電所の数を増やすだけでなく、小規模な発電所同士を統合し、より強力な供給網を構築することも検討しています」と森田氏は語る。加えて、エネルギー管理や、大規模な蓄電施設に対応するインフラ強化も視野に入れているという。
「再生可能エネルギーへの移行は必要ですが、実現は簡単ではありません。しかし、本ファンドやリスク管理、モデルケースの構築を通じて、好循環を生み出せます」と森田氏は言う。日本が2050年までに再生可能エネルギーを主力電源化することは重要な優先事項であり、サステナブルエネルギーファンドはその実現に向けた原動力となっている。
森田卓巳
株式会社Looop
https://looop.co.jp/写真/藤島亮
翻訳/遠藤宗生