特殊冷凍テクノロジーが変える食品保存の未来

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 冷凍食品は、利便性のために味を犠牲にしていると言われることも多い。こうしたイメージの払拭を目指すデイブレイク株式会社は、東京都主催のイベント「SusHi Tech Tokyo 2024」にて、富山県内の老舗魚問屋と協力し、同県の名物「ひみ寒ぶり」をとれたての状態で保存する特殊冷凍テクノロジーを披露。その新鮮な味で来場者を驚かせ、冷凍でも高品質でおいしい食品を作れることを示した。そんなデイブレイクの木下昌之代表取締役に、同社のイノベーションが形作る食品保存の未来について聞いた。
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デイブレイク株式会社の特殊冷凍テクノロジーで保存された寿司 Photo: courtesy of デイブレイク株式会社

家業に基づきフードテック起業

 木下氏は、祖父の代から続く冷凍機会社の3代目としてキャリアをスタートさせた。しかし後を継いでからすぐに、業界が時代遅れのアナログな方法に依存しており、食品の流通と品質に対する現代のニーズを満たせていないことに気づいた。変化を起こそうと決意した木下氏は、新しいアイデアを求めて旅に出た。

 「東南アジアを旅行した際、マンゴスチンという果物を食べ、その新鮮な味に驚きました。そこで、世界中の高品質な食材の味を損なわずに保存し、人々に届ける方法を生み出そうと考えたのです」と木下氏は説明する。

 この経験をきっかけに、木下氏は2013年にデイブレイク株式会社を設立。まず、冷凍技術利用の最適化を支援するコンサルティングサービスを始めた。その後、そこで得られた知見を活かした冷凍機製造も開始し、2021年に特殊冷凍機「アートロックフリーザー」を発売。乾燥・酸化・変色を防ぐことで、食材へのダメージを最小限に抑え、食品本来の品質を維持する特殊冷凍を実現した。

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デイブレイクの特殊冷凍機「アートロックフリーザー」

イノベーション、生産、流通をつなぐ

 デイブレイクにとって、食品本来の味や鮮度、品質を維持することはミッションの核だ。同社はアートロックフリーザーなどの技術を通じ、新鮮かつ風味豊かで妥協のない本来の食品を企業と消費者の両方が体験できるようにすることを目指している。

 これを実現するため、同社は「イノベーション」「ダイレクトエンゲージメント」「流通」の3つの柱に基づいた事業戦略を策定している。

 第1の柱は、アートロックフリーザーの販売を通じたイノベーションだ。デイブレイクはこの技術を、国内外の食品生産者に提供。「冷凍機の販売を通じ、企業が革新的な冷凍ソリューションを採用し、生産者の数を拡大できるよう支援しています」と木下氏は説明する。

 第2の柱は、顧客とのダイレクトエンゲージメント。製造業者の多くが流通業者に依存しているのに対し、デイブレイクは顧客と直接やりとりしており、そうした事業からの収入は売り上げの99%を占める。この戦略により、ユーザーの課題を深く理解し、個々の顧客に合わせたソリューションを提供し、コンサルティングや、「デイブレイクファミリー会」などのコミュニティ構築、マッチングサービスを通じて成長を促せる。「当社はテストから導入まで、顧客と直接コミュニケーションをとってきました。これにより、貴重なノウハウを共有したり、勉強会を開催したり、さらには顧客と百貨店や販売業者などの潜在的バイヤーを結びつけたりできます」と木下氏は語る。

 第3の柱は、流通を通じた生産者と消費者の間の橋渡しだ。デイブレイクは国内で、レストランや小売店に高品質の冷凍食品を届けるプラットフォーマーとしての役割も果たしている。「私たちの使命は、冷凍から流通まで、どの段階でも品質を落とさず、生産時と同じ新鮮な味をお届けすることです」と木下氏は強調する。

 これら3つの重点分野を統合することで、デイブレイクは食品保存を変革し、生産と消費の結びつきを強化し、冷凍業界に新たなスタンダードを生み出している。

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デイブレイクのプロセスや目標、ミッションを説明する木下氏

国内外でソリューションを披露

 デイブレイクにとってSusHi Tech Tokyo 2024への参加は、国内外の多様なステークホルダーとつながる貴重な機会となった。木下氏は、さまざまな業界や政府機関の代表者が一堂に会し、イノベーションとコラボレーションのハブとなったこのイベントの意義を強調している。

 「東京だけでなく、他県や外国からも人が集まり、人脈形成と革新的なプロジェクトのアイデア探求の機会となりました。国のイニシアチブによる支援を受けて事業をグローバル展開したり、新しいビジネスエコシステムにつながるパートナーシップを構築したりする可能性が生まれたのです」

 デイブレイクは、米国で開催された「Japanese Food Expo 2024」で、海外向けのソリューションも展示した。来場者は、試食した高品質の寿司が実は冷凍保存されたものだと知り驚いていたという。「来場者は『この寿司は本当においしい』と言っていましたが、冷凍だと知ると仰天していました」と木下氏は振り返る。その味は、おかわりしたがるほどおいしく、同社のイノベーションが持つ普遍的な魅力が示された。

 こうした実績を考えると、デイブレイクが目指すグローバル展開の展望は明るい。「当社は世界で競える日本企業になることを目指しており、SusHi Tech Tokyoのようなイベントは、自社の技術が世界市場にどのようにフィットするのかを示す場となります」と木下氏は語る。グローバルな舞台で勢いを増すデイブレイクは、未来へのビジョンとして、冷凍食品業界と世界規模のサステナビリティの両方に持続的なインパクトをもたらすことに焦点を当てている。

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解凍後でも新鮮な味と品質を保つ高級寿司 Photo: courtesy of デイブレイク株式会社

持続可能な食の未来を変える

 デイブレイクは今後、世界の食品業界に新たなスタンダードを生み出すと同時に、喫緊の社会的課題の解決に取り組む意向だ。高品質の冷凍食品だけではなく、食品廃棄や労働力不足、環境問題に対する持続可能な解決策の提供を目指している。

 「デイブレイクでは、経済的価値を生み出すだけでなく、社会問題にも取り組むビジネスの構築を目指しています」と木下氏。「収益性と社会的インパクトのバランスを保つことで波及効果が生まれ、地域経済の活性化や自然資源の保全につながるほか、おいしくて高品質な食品を通じて世界中の人々を笑顔にできると考えています」

 イノベーションとサステナビリティへの揺るぎないコミットメントにより、デイブレイクは今後も冷凍食品業界の先駆者であり続け、品質と責任の世界基準を打ち立てる決意だ。

木下昌之

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特殊冷凍テクノロジーを用いた食品保存のパイオニアであるデイブレイク株式会社の代表取締役。2013年、食材の鮮度を保ちながら食品廃棄物を減らすため、同社を設立。2021年、特殊冷凍機「アートロックフリーザー」を発売した。食品保存の世界を変え、持続可能な食の未来に貢献することをミッションとし、革新的な技術により高品質で長持ちする食品を実現するソリューションを創出している。

デイブレイク株式会社

https://www.d-break.co.jp/

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Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyoは、最先端のテクノロジー、多彩なアイデアやデジタルノウハウによって、世界共通の都市課題を克服する「持続可能な新しい価値」を生み出す東京発のコンセプトです。
SusHi Tech Tokyo | Sustainable High City Tech Tokyo

取材・文/アンジェリン・ラバダン
写真/穐吉洋子
翻訳/遠藤宗生