Correspondents' Eye on Tokyo:
世界に向けて東京を発信                                           

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 ブルームバーグは、ビジネスおよび金融情報におけるグローバルリーダーとして、信頼性の高いデータ、ニュース、知見を届けている。70カ国、100カ所以上の支局に在籍する3,000人を超えるニュースおよびメディアのプロフェッショナルが、世界各国から多様な視点を持ち寄り、データを深く掘り下げている。世界有数の経済大国である日本のニュースは常に注目されている。日本で14年以上の取材経験のある、ブルームバーグのオピニオンコラムニスト、リーディー・ガロウド氏は、約20年間暮らしてきたこの国について、鋭い洞察力を備えている。
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リーディー・ガロウド氏。ブルームバーグのアイコン的なキーボードをモチーフにしたオフィスアートインスタレーションの前にて。

田舎町から大都会の暮らしへ 

 リーディー氏は、ダブリンシティ大学でジャーナリズムの学位を取得後、初めて来日した。日本に来たのは、この国に特別な興味があったからというわけではなかった。「アイルランドの田舎町の出身で、かなり過保護に育てられました。あまり旅行をしたこともなかったので、大学を卒業した際に、どこか遠くに行きたいと思いました。とにかく、自分が知っているものからできるだけ離れたところに行きたかったのです」と彼は話す。 

 彼の望みは叶い、「語学指導等を行う外国青年招致事業(JETプログラム)」への参加が認められて、広島県世羅町で外国語指導助手として働くために来日することになった。「生活が落ち着くとすぐに、日本が自分に合っていることに気づきました。文化や人間同士の関わり方に共感したのです」とリーディー氏は話す。この時期、彼は日本語の学習に打ち込み、フリーランスのジャーナリストとしての仕事もした。さらに、日本語と日本社会に関するオンライン修士課程も修了した。 

 JETプログラム終了後、彼は大阪に移って大手ゲーム会社に4年間勤務し、日本語と日本の労働文化にさらにどっぷりと浸かった。そのうち、新しいことに挑戦する準備が整った。「自分の得意なことは何かと考えたところ、私の場合、ジャーナリズムのスキルがあったのです。そこで、ブルームバーグに応募し、2011年に入社して以来ずっとここで働いています」 

世界に東京を紹介

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リーディー氏は、ブルームバーグに14年以上在籍し、同社のオピニオンコラムニストとして日本と韓国を担当している。

 2011年、彼が東京に移り、ブルームバーグのブレーキングニュースデスクでジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせた当時、日本は試練の時を迎えていた。東京は、世界の他の地域と同様、いまだ2008年の金融危機からの回復途上にあった。そして、数カ月も経たないうちに、東日本大震災が日本を襲った。「日本経済全般にとって決して良い時期ではありませんでした。震災後何カ月間か、節電が求められた時期もありました」 

 その時からずっと、リーディー氏は日本経済が急ピッチで回復するのを見てきた。「私が来た時とくらべると、今の東京でははるかに楽観的な見方が広がっています」。彼は、ブルームバーグでさまざまな役割を経験する中で、そのすべてを目撃し、伝えてきた。ブレーキングニュースデスクに始まり、北アジアのブレーキングニュースチームリーダー、東京支局副支局長、そして現職である日本と韓国担当のオピニオンコラムニストなど、リーディー氏は多くの役職を歴任している。 

 「私は、日本のジャーナリズムの中でも最高の仕事に就いていると思います。書く内容について大きな自由が与えられているという意味では、確実にそうです」とリーディー氏は言う。しかし、自由ならではの難しさもある。「人々が読みたいと思うテーマを絞り込むのは難しいことです。私の場合、日本について少しでも知りたいと思っている海外の読者を主な対象としているのでなおさらです」。幸い、政治、経済、労働力の変化、日本のソフトパワーなど、彼が取り上げたい視点やトピックは海外でも好評だ。

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ブルームバーグの各オフィスには、水槽(下の写真)やパントリーのように、人々が集まり、ほっと一息つける工夫がなされている。

 日本について海外の読者向けに記事を書く上でもう一つ気を付けなければならない課題は、それらの記事がどのように受け止められるかということだ。「日本や東京について、読者が興味を持つ話題はたくさんありますが、彼らの背景知識は必ずしも最新のものとは限りません」と彼は話す。「最近は、2種類の読者がいるように思います。日本に住んでおらず、日本のことをよく知らない年配の読者には、背景について多くの説明が必要です。一方で、日本文化のさまざまな側面をよく知っている若い読者もいます。彼らは子供の頃からアニメやゲームに親しんでおり、私よりもたくさん日本のメディアに触れているかもしれませんが、日本の経済や政治にはさほど興味がないのかもしれません。この両方の読者に向けて書こうとすると、難しい場合があります」

 対象とする読者は異なっても、彼には、すべての記事で必ず伝えたい重要なメッセージがある。「私が伝えたいことの中心は、世界中で見られる多くのトレンドが、しばしば日本から始まっているということです」。少子高齢化など、かつては日本特有と思われていた課題が、今では世界中の国々が直面する問題になっていると彼は認識している。「日本で起きていることに目を向け、これらの動向を根本的な問題として捉え、日本の成功例や、時には失敗例から学ぶべきです。もっと多くの人々が、日本を意識し、日本から学ぼうとする必要があると思います」

 リーディー氏は、これらの課題への取組に関し、日本や東京は一歩先を行っているが、まだそのことに気づいていない人が多いと考えている。「日本や東京について、多くの人々の知識は20年か25年前で止まっているように感じます。自分の仕事を通して、それを改めていきたいです」

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ブルームバーグはすべてのオフィスに水槽を設置し、従業員がリラックスできる雰囲気を演出している。

変化し続ける都市、東京

 10年以上前に東京にやって来て以来、リーディー氏はこの都市が繰り返し変化するのを見てきた。「東京の一番面白いところは、決して立ち止まらないという点です。常に巨大プロジェクトが進行していて、絶えず変化が起きています」。東京駅を見下ろすブルームバーグのオフィスの椅子に座り、高層ビル群を指さしながら彼は話す。「この窓の向こうを見れば、それがよく分かりますよ。私がこちらに来た頃、この辺りは今とはまったく違いました。今ある高層ビルのほとんどは、この10年間に建てられたものです」 

 インフラとともに、観光客の流入も、近年の東京の好景気の大きな要因の一つであると彼は指摘している。2023年、日本には海外から2,500万人を超える観光客が訪れた。これは、約41兆円の経済効果を生み出し、観光業が自動車製造業に次ぐ日本の主要輸出産業の一つとなった。これに加え、業務のグローバル化の進展もあり、東京は外国人居住者に対して格段に開かれた都市になった。「ここで暮らし始める前は、東京の人は冷たいという印象を持っていましたが、まったくそんなことはありませんでした。東京はいつも私にとって大変居心地の良い場所です。ここで暮らす人の多くは、全国各地からやって来た大勢の日本人をはじめ、東京以外の場所から集まった人たちで、そのことが東京を非常に面白い場所にしているのです」

 「他の都市よりも質の高い暮らしができるという東京の魅力が、少しずつ知られるようになってきています」とリーディー氏は話す。「東京のように、文化と食、多彩なエリア、治安の良さ、優れた公共交通機関を備え、しかもそのすべてが今でも比較的手頃な価格で利用できる都市は、世界でも他に例がないでしょう。もちろん、これらの要素をいくつか備えた都市はありますが、すべてを併せ持つ都市はないと思います」。リーディー氏にとって、東京の大きな魅力とは、その常に変化し続ける姿であり、彼は、それが止まらないことを願っている。「変化を尊重し受け入れる姿勢が、これからもずっと続いてほしいです」 

リーディー・ガロウド

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東京を拠点に活動する、ブルームバーグのオピニオンコラムニスト。ブルームバーグニュースの北アジアブレーキングニュースチームリーダー、東京支局副支局長を歴任。アイルランド出身。2003年より日本在住。

ブルームバーグ

https://www.bloomberg.co.jp/
取材・文/ローラ・ポラコ
写真/藤島亮
翻訳/喜多知子