アジアの金融ハブを目指して          

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 東京がアジアの主要な金融センターとしての地位確立を目指す中、FinCity.Tokyoは、その先導役を担っている。
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東京証券取引所 Photo: PIXTA

日本初の官民連携金融プロモーション組織

 2019年4月、日本初の官民連携の金融プロモーション組織として一般社団法人東京国際金融機構(FinCity.Tokyo)が設立された。FinCity.Tokyoの役割の一つは、東京を国際金融ハブとして世界にアピールすることだ。その一環として海外でもロードショーを行っている。2023年10月にはニューヨークで1週間のロードショーを開催。「メインイベントには約140名の金融関係者が参加し、東京に対する投資家の関心は非常に高く、対日投資の機運はかつてを上回るものがあると感じました」と会長の中曽宏氏は振り返った。

 もう一つの役割は、市場参加者との対話に基づいて政策提言を実施することだ。「私たちはこれまで、政府や関係省庁、地方自治体、そして業界団体との協力のもと、金融都市としての東京の環境整備を進めてきました」と中曽氏は語る。こうした努力の結果、金融機関や不動産、ベンチャー企業、大学などの会員数は、設立当初の30社から現在は57社にまで増加している。

企業と投資家の架け橋

 FinCity.Tokyoが手掛ける重要なプロジェクトの一つが、上場後にベンチャーキャピタルからの資金援助が減少した中小上場企業の資金確保を支援する「Emerging Managers Program(新興運用業者促進プログラム)」の推進だ。FinCity.Tokyoは毎年、Tokyo Asset Management Forum(TAMF)を開催し、新たな運用業者と国内外の投資家が直接対話し、マッチング機会を提供している。企業が必要とする成長資金を提供し、新興の経営者が市場に参入する機会を提供する場だ。

 TAMFと同時に開催されるFinCity Global Forum(FGF)も、東京が国際金融都市としての地位を強化するための重要なイベントとなっている。業界のトップや海外の投資家らが一堂に会し、東京の強みとビジョンについて議論を重ねてきた。

 また、中小上場企業向けの英文ディスクロージャー支援もFinCity.Tokyoの重要な取組の一つだ。海外投資家の企業情報へのアクセシビリティを高めることで、日本企業と世界の投資家とのつながりの強化をサポートする。「こうした取組を通じてFinCity.Tokyoは、国内外の企業と投資家を繋ぐ役割を果たしていければ」と中曽氏は言う。

金融・資産運用特区

 2024年6月、国は東京都を「金融・資産運用特区」に指定した。これにより、国際金融センターとしての東京の取組が、国全体の施策と連動し、他の自治体と連携して推進される。「FinCity.Tokyoは、特区のメリットを最大限に生かし、東京の強みを活かした投資機会の提供を目指すとともに、政府主導の政策立案にも積極的に関与していきます」と中曽氏は述べた。

 特区で推進される重要なプロジェクトの一つは、アジアにおける相互運用可能な「カーボンクレジット市場」の構築だ。地域の脱炭素化を促進し、企業が排出量を相殺するために炭素クレジットを取引するメカニズムを提供する。FinCity.Tokyoは、持続可能な投資フローを創出し、持続可能な金融のハブとしての東京の地位を強化することを支援している。「アジア地域の脱炭素化に対する東京の役割は、今後の国際金融都市としての発展を語る上で欠かせません」と中曽氏は述べた。

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株価ボード Photo: JIJIPRES

アジアでの存在感

 2024年8月、APECビジネス諮問委員会(ABAC)が東京で会合を開き、中曽氏は金融タスクフォースの議長を務めた。ABACは、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳に対し、21の国・地域の代表が地域の課題について提言を行う唯一の公式な民間諮問機関だ。イベント期間中、FinCity.Tokyoはアジアにおける脱炭素化と持続可能な金融に関する基調講演とパネルディスカッションを開催した。

 「このABAC会議を通じて、東京の国際金融センターとしての強みを広く発信できたこと、そして脱炭素化というAPAC地域共通の喫緊の課題に対して官民連携で取り組む姿勢を示すことができたのは非常に意義深い成果です」と中曽氏は会議を評価した。

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ABAC関連のイベントで発言する中曽FinCity.Tokyo会長 Photo: courtesy of FinCity.Tokyo

東京のポテンシャル

 東京は世界の金融機関のためのハブとなる可能性を秘めていると中曽氏は強調する。「東京は、製造業やサービス業といった実体経済に裏打ちされた豊富なリソースを有しており、金融システムの信頼性も極めて高い」とし、日本のサプライチェーンがアジア全域に広がっているため、東京は国境を越えた金融サポートを提供できる「好位置」にある、と中曽氏は言う。「東京は強固な金融基盤とイノベーションの推進力を備えた都市として、国際金融市場におけるリーダーシップを強化しており、今後ますますその存在感を高めていくでしょう」と期待を示した。

 「これからもFinCity.Tokyoは、官民連携組織としての強みを活かし、外国企業の誘致や、外国系資産運用業者が東京に進出する際のサポートを提供していきます。こうした取組を通じて、持続可能な経済成長を牽引する国際的な金融ハブとしての東京の確立をさらに後押しできれば」と中曽氏は述べ、今後の挑戦を見据えた。

中曽宏

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1978年に日本銀行入行。日本銀行理事や国際決済銀行(BIS)市場委員会議長などを歴任し、1913年に日本銀行副総裁に就任。2018年に日本銀行を退任後、大和総研理事長、一般社団法人東京国際金融機構(FinCity.Tokyo)会長に就任。

一般社団法人東京国際金融機構(FinCity.Tokyo)

https://fincity.tokyo
取材・文/伊藤真悟
写真/穐吉洋子